テラーノベル
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第四話 戦力強化訓練
幹部の定例会議にて。
『────3日後、政府組織全体で戦力強化訓練を実施。
主に幹部や各部隊の隊長、副隊長で職員や隊員を指導する。期間は2週間。指導する立場の者は一日で一部署一部隊を担当。以上。それぞれの担当は今から配る紙にて。』
─────これを言い出したのは誰であったか。
政府、給湯室にて。
私がティーバッグの紅茶を淹れるために湯を沸かしていたら幹部第五席の雹凛が給湯室に入って来た。
あまり話したことが無かったので、思い切って話しかけてみる。
「────にしても、3日後とか急ですよ、ね?雹凛さん」
「………」
彼は無言で棚から粉末コーヒーを引っ張り出し、適当なコップの中にざっと入れるだけ。
「えっ、無視やめてくださいよ。」
あまりにもあからさまに無視されて流石の私もびっくりした。
「騒がしい」
少し喋ったかと思えば騒がしい、なんて無愛想な奴なんだろう。挨拶くらいしてくれても良いのではないか。
「…………」
湯を沸かせる給湯器の稼働音だけが給湯室に響く。
気まずい時間だけがただ流れる。
しばらくすると、この凍りついたような空気の中を和らげるように給湯器がエレクトロニックな音で“メヌエット ”を流しはじめる。湯が沸いた合図だ。
私は先程雹凛が粉末コーヒーを取り出した棚でティーバッグの紅茶を一袋出す。紅茶の封を切ってマグカップに入れている最中、あとは湯を淹れるだけのコーヒーカップを持った雹凛が先に給湯器で湯を出すと、瞬く間に珈琲の良い香りが辺りに広がる。
彼はそれを一口啜れば、さっさとどこかへ行ってしまった。
────結局、マトモに話は出来なかった。
私はただ一人残された給湯室でティーバッグの入ったマグカップに湯を注ぐ。
3分程度待ち、ティーバッグをマグカップの中から出して紅茶を一口飲む。
先程の凍てついた空気が残った給湯室が少し暖かくなった気がした。
紅茶を飲み干した後に、私も給湯室を出る。
少しだけ3日後に向けての計画立てに取り掛かろうと思う。
それからというもの、この三日間は怒涛の勢いで一筋の流星のように過ぎ去っていった。
─────そして、迎えた戦力強化訓練。
この14日間、私達は“指導側”として後輩やその他の人間に戦術を叩き込む。
勿論指導側も指導側同士で、最終日の夜21時に、手加減ナシ、お情けナシのタイマンをする。
絶対どこかでキースと組むことになるだろうから、その時は三百枚の報告書事件の鬱憤を晴らしてやろうと思う。
そう心に決めていると、放送が入る。
『30分後の午前8時に戦力強化訓練を開始。各自本日の集合場所に移動せよ。』
それだけ言って、放送はぷつりとマイクを切る音で終了した。
あの声は─────精鋭部隊の和泉隊長だろうか。
相変わらず良く通った声だ。
私は今日、親衛部隊の護衛部の指導を担当するらしい。
初日から軍部の担当。頑張るっきゃない。
放送も入った事だし、集合場所へ向かうことにする。
────集合場所、即ち政府内の雑木林の開けた所に着くと、ちらほら護衛部の隊員達が集まりかけていた。
そのうち数名と適当に挨拶を交わし、全員が揃うのを20分程待つ。
そうして訓練開始の午前8時にはきっちり全員揃っていた。素晴らしい。
「────おはようございます。これより政府戦力強化訓練を実施します。
本日の皆さんの担当は私こと幹部第四席の楓です。よろしくお願いします。」
人数が多いので拡声器を使う事になった。ハウリングしやすい拡声器なので、ハウリングしないように丁寧にハッキリ喋る。
「午前は防衛魔術、また防衛術の基礎の見直し。正午に休憩を挟んで午後からは午前の内容を踏まえた実戦の訓練。そして最後に私一人と皆さんで戦闘。今日はこんな感じになります。」
今日のプランを言うと、隊員達が少しざわめく。
『幹部とやり合うなんて無理じゃね?』
『俺ら死んじゃうよ!』
『いや、楓さんだしそれなりに慈悲はくれるだろ。』
……など、様々な反応を見せる。
全部聞こえているのだ。
ちなみに手加減も慈悲も無い。殺さない程度に実戦と同じようにする。
あの声を聞く前までは手加減のひとつやふたつしてやろうかと思っていたが、それも不要なようだ。
「とりあえず、今から早速防衛魔術と防衛術の基礎を順番に教えるので耳かっぽじって聞いてくださいねー。」
はじめに色々軽く解説したあと、一旦いつものように防衛魔術を披露してもらった。
ある隊員は防衛魔術は簡単に使えたが、私が一蹴り入れただけでソレはぱきりと容易く崩れ去り、またある隊員は目の前の防衛魔術に過集中して魔力が切れて滝のような鼻血を出しながら気絶と、散々だった。
────それからの午前中、私は隊員達に徹底的に術を叩き込んだ。
なんとまあほとんど全員基礎のなっていないこと。あんなので政府は守れない。
と、馬鹿みたいに甘ったるい昼食のジャムパンを啄みながら思ったのであった。
そうして午後の一時。
実戦訓練だ。
「では只今より午後の部、2つの訓練のうち一つ目の実戦訓練を開始します。
この訓練では午前にやった防衛魔術、防衛術を使いこなしながら最後まで残った人が勝ちというルールです。
もちろん周りの人間を全員殺すつもりで挑んでください。実戦訓練ですから。」
ああ、でも本当に殺しちゃダメですよ────なんて言うと、隊員達の空気はぴしりと糸を張ったような空気になる。
そのなんとも言えない空気の中、一人挙手をする人物が居た。
「どうしました?」
「もし力加減を誤って殺してしまった場合はどうすれば良いですか?」
その人は護衛部の中でも隊長、副隊長に次ぐエース的存在の人間であった。
まぁ、この人ならそういう可能性もゼロではないだろう。
「私が責任を取ります。殺すつもりで殺れと指示したのは私。つまり私の責任なので。」
「その、責任って、どうやって─────」
────取るんですか。
彼はその言葉までは口にしなかった。
まるで死んだら責任の取りようがないのではとばかりに。
「首でも、身体でも。なんでも差し上げましょう。」
死ねば責任の取りようが無いのは一理ある。
が、絶対どこかでツケは払わされるもの。
私が即答すると、彼は一瞬黙った後、何故か謝った。
「…………すみません、こんな質問して」
「え、なんで謝るんですか」
「いや、別に……」
よくわからない空気感が漂う。
気を取り直して、とりあえず進めることにする。
「てなワケで、万が一何かあっても私がなんとかするのでご心配なく。制限時間は無いのでゆっくりやり合ってくれて構いません。それでは───────」
─────はじめ。
私が合図をした瞬間、一斉にそこは戦場と化した。
ある者は木々を巧妙に使って隠れながら相手を倒したり、またある者は防衛魔術を展開させて相手の攻撃をいなし、相手が怯んだ隙に一撃喰らわすなど、午前の訓練内容を活かしているように見えた。
普段の訓練とあまり変わりはないけれど。
そうして砂埃が舞いに舞うような、実戦に近い模擬戦をして数十分後。
勝敗はワリとあっさりついた。
勝者は、先程質問をしてきた彼だ。
「は───ッ………は─────……ッ」
酷く息を切らしており、雑木林にただ一人立つその姿は、さながら数々の修羅をくぐり抜けてきた百戦錬磨の戦士であった。実に格好の良いこと。
「お疲れ様でした。……一応、確認ですが、死人は出ていませんね?」
流血沙汰にはなっていないものの、あまりにも他の者がうんともすんとも言わないので一応確認をする。
これで本当に死亡者が出ていたらどうしようか。正味責任取れない気がする。
「あ、はい。皆、生きてます。意識もありますし」
息を整えながら、何ということなく告げられる。
─────内心、ほっとした。
私の首はまだ健在でいられるらしい。
──────その訓練から30分休憩後。
空は橙を蝕むように、紫が所々濃ゆく残る色になってきたころ。
「はい。皆さん休まりましたか?」
砂埃くさい地べたに適当に座る隊員達に拡声器で休憩の終わりを告げる。
「はーい。ヘトヘトでーす」
「ジブンまだ休憩やれます!やらせてください!!」
はいはい。ジブンもうキューケイ出来ないでしょう。とっとと訓練再開しますよ、なんて言ってみる。少し微笑ましい。
「それでは今から最終訓練、私と君達での戦闘訓練となります。
本日習った事を精一杯使いこなして、私に勝ってください。ハンデとして、私は素手で挑みます。魔術も魔法も、非科学的なモノは何も使いません。」
私の発言が終わる前に、周りが小さくざわつく。
────私がこんなあまりにも隊員達を舐め腐ったようなハンデを使うにはちゃんと理由がある。
ずばり、加減できないのだ。
戦闘をしていたらついついアツくなってしまい、制御が出来ない状態になってしまう可能性がある。
気付いた頃にはあたりが赤い海なんて真っ平ゴメンだ。
それこそ責任モノである。
───そういうワケで、私の想像力を働かせて編んだ案がこれだ。本当なら能力を使って少し理解らせても良いのだが。 訓練はまだ数日あるし、単純に可哀想なのでやめておく。
でも手加減はしないつもりだ。少々大人気ないが全力で勝ちに行く。
「楓さん、そんなんでデージョーブッすか?俺ら、見た目より案外強いかもですよ。防衛魔術は下手だけど。」
先の模擬戦で最後らへんまで立っていたが、結局勝者となった隊員に敗れた隊員が心配そうに────いや、自分達の実力に自信があるかのように言う。
おそらく、『いくら幹部でも素手は無理だろばーかばーか舐めとんのか』といった感情も込めているのだろう。その感情が言葉を介さずともひしひし伝わってくる。失礼だが全く言ってその通り。私は彼らを舐めている。
「ああ、はい。正直君達の事舐めてます。死ぬっっほど舐めてます。なので、見せてくださいよ。あなたがたの実力を。」
─────ああ、あと、もうひとつ。
人間というのは、少しでも怒りの感情が湧くと普段の倍の実力が出る。
煽れば煽るほど、士気が上がらんでもないものだ。
コメント
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今回も面白かったです♪続き待ってまーす!