テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#とある日私は最弱から最強に_?¿
第五話 幸せ薄命
「────遅い。」
「は───」
ぱたり。
一瞬のうちに後ろに回り込み、またひとり首の後ろに衝撃を加えて気絶させる。
これで20人目。あと230人の隊員を伸せば私の勝ちだ。
この時点で最終訓練開始から僅か3分程度。
彼らは私に勝てるだろうか。今の所、主観的に考えて素手の私が優勢に見える。そもそも皆私に日和って普段の力を出せていないように感じる。
幹部だから傷付けてはいけないと思っているのだろうか。
「一応言っておきますが、私に手加減も何も必要ありません。全力で掛かってきてください。」
木陰や叢に隠れているであろう隊員達に呼び掛けるように声を張る。
「俺達はこれでも全力なんですけど、っ!?」
その背後に隊員が一人飛びかかって来るも難なく躱すが、目視では分からない程に僅かに足が縺れる。
戦場ではごく僅かでもバランスを崩してしまうとそれが命取りになる。自分もまだまだ、ということ。
────その隙に二人ががりで拘束魔法を展開されかけ、展開される前に足の遠心力を使って二人の身体ごと木に蹴り飛ばす。
スタイルが良いと良い事もあるものだ。
『このままのペースだと確実に俺ら全員殺されちゃうよ!どうするんだよぅ!』
叢の間から微かに声が聞こえる。
『だから言ったろ!あの人、自分が思ってるより強えぇの分かってねぇんだよ!!』
───だから、聞こえているのである。
いや、一応、すこし、照れては、いるのだが。
気を取り直し、声がした叢へ足音を立てずに近付く。
「楽しそうですね」
上からゆっくり囁く。
「あっ」
「やべ」
とん、と首元を強く突くと二人仲良く気を失った。
────4分くらい、経っただろうか。
倒した数は24人。
あと226人。束になって掛かってくれば私も少しは焦るというのに、皆身を潜めて奇襲のような形で攻撃してくる。
こういうところも含めて、護衛部は比較的慎重な部だと思う。慎重なのは良い事だ。
良い事なのだが、こうも長々とやってられないので私も今のみたいに隊員を探して次々とブッ倒して行こうと思う。
────それから数分後。
辺りは意識をシャットダウンさせた人間の山となった。
「私の勝ちですね」
私の服や肌に、傷はおろか、砂埃ひとつも付いていない。
私の完全勝利、というわけだ。
後は眠れる森の隊員を全員起こして訓練を終わらせるだけ。一応言っておくと、もちろん接吻では起こさない。
問題は、数百にも及ぶ軍人をどうやって起こすか。
答えは一つであろう。
私はホルスターに手を伸ばした。
かちゃり。───引き金を引いて─────バン。
それまで静寂閑雅だった雑木林に、うるさく響く破裂音。
黒い鳥は羽を散らせて飛び去った。
「武器を持てェ!!!─────あ、れ。」
先程までの気絶が嘘だったかのように一人がすぐ立ち上がって声を張るが、彼の視界に写ったのは私だけ。
彼は鳩が豆鉄砲を食らったようにあっけらかんとする。
そのすぐ後に他の隊員達も起き上がったが、全員同じような顔をした。
「おはようございます♪」
未だ幽かに煙を吐き出す拳銃を片手に、優しく挨拶をする。
「……負けたんだ、おれたちぃ……」
「やっぱり強えぇよあのひとぉ……」
どこからかそんな声が聞こえたが気にしない。
「はい。全員起きましたね。───これにて、戦力強化訓練第一日は終了です。あとは今日学んだ事を後学に活かしてください。そして君達の明日の指導はおそらく朱鷺さんなので、私より厳しいです。ある程度覚悟はしておいた方がよいかと。」
なんとなく少しだけ矢継ぎ早にそう言うと、一気に空気がどんより曇るのがわかる。
「と、とにかく今日はお疲れ様でした。ゆっくりお休みください────」
────それでは、解散。
この言葉を言った瞬間、お疲れ様でした、と隊員達もユニゾンして返事する。
私はこれから自室に向かって夜食でも食べようかと思う。
帰り際、数名に改めてお疲れ様でしたと声を掛けてもらった。明日からも頑張ってくださいね、と私は返すと、楓さんも頑張ってください、応援していますと皆返してくれた。優しすぎる。
そうして私は昂る気持ちを抑え込みながら自室へ戻ったのであった。
────1日目、無事終了である。
1日目を乗り越えたあとの12日間は、何故か早く過ぎたような気がする。
訓練はあっという間に最終日を迎えた。
今日は漸く後輩の居る部だ。後輩との手合わせが今日一番の楽しみでもある。
後輩の部は事務の部ではあるが、皆それなりに戦闘にも駆り出されているので基礎は身についていると信じたい。
「戦力強化訓練最終日、担当は幹部第四席楓です。よろしくお願いします。」
テンプレと化した口上を言うと、この時期最後の訓練が始まったのであった。
───やがて夕方、事務の部全体の訓練が終わった後。
「楓さん、楓さんっ」
どこか浮ついているような、楽しげな声色で声を掛けてきたのは後輩だった。
はい、と振り向く。「今からでも、良いっすか」後輩は後ろ手に手を組み、胡乱げに聞いてくる。
「もちろん。修練場でいいですか?あっちももう解散したと思いますし」
「はいっ!」
と、いうことで。私と後輩は早速二人で修練場へ向かった。
道中、お互いが好きな殺法を語り合う。
「やっぱりオレは愛銃のM9A1で敵の脳天ブチ抜くのが一番気持ちぃーっすね。」
後輩は手を後頭部に組むと、その時の瞬間を思い出すかのように頬がにんまり緩む。
───割と、意外でもあった。
てっきり彼も拳派かと思っていた。
「拳銃派ですか」
少しばかり驚いたような私の返しに「えへ。」と照れくさそうに「能力世界で拳銃は邪道ですかね?」と笑う。
「邪道ではないですよ、多分。拳銃はもはや必須装備ですし」
確か、幹部や各部隊の隊長、副隊長あたりは拳銃が配布されていたはずだ。が、世辞にもその性能は良いとは言えず、皆自分に合うメーカーのものを使っている。
ちなみに私のモデルはBeretta 92X Performance Black。手頃なサイズでなかなか格好良いのだ。あまり使わないけれど。
「ありがとございまーす♪楓さんはどうなんすか?そこらへん。」
「私はやっぱり素手ですかね。直接殺った感があるので好きです。」
私が答えると、何故か困ったように笑う後輩。
「……楓さんも、やっぱりウチの幹部っすね…。」
────その言葉にどういう意味が含まれているのかは、後輩のみぞ知る。ことにしてやろう。
「褒めてます?」
「もち。」
ぐー、と両手サムズアップ。やはりうちの後輩はかわいい。
会話に夢中になっていると、あっという間に修練場に着いた。
中に入れば、修練場は沢山の銃痕らしきものと血痕と何かが爆発したような抉れた痕で凄惨な有り様だった。
今日の修練場は、確か鏡月が指導に使ったはずだ。
あの人なだけある。恐ろしい。流石の私でもこれはナイ。
これの修理代が税金から払われるとか、世の中の労働者に同情する。かくいう私もその労働者のうちに入るのだが。
「……場所、変えます?」
それを見かねた後輩がジト目で提案してくる。
「……折角来たし、もうここでやっちゃいません?」
提案してくれたところに悪いが、移動が若干面倒くさいのでもうここで戦う事にした。
「了ッス。」
後輩が短く同意する。
「どうします?能力か素手」
後輩は少し悩んだあと、言いにくそうに「どっちもって……いいですか?」と尋ねてきた。
もちろんOKだ。というか、そのつもりだった。
「良いですよ。どっち先にやります?」
後輩はまた少し悩んだあと、「どちらも交えながらやりましょうよ」と手にふわふわとほんのり薄緑色をした魔力を貯めながら答える。
「わかりました。」
そう返答した直後、私はまず1発目に無詠唱で撃てる軽い魔弾を後輩に向かって撃つ。
「いきなり!?」
後輩はマ○ケルジャク○ン顔負けのバランス力で後ろに反って避ける。
少し意地悪をしてしまった。申し訳無いとは思ってなくもない。
でも、コレを避けられたのは今まで指導してきた中で後輩くらいだ。
流石、私の後輩なだけある。彼の入社時に色々仕込んでおいて良かった。
次は後輩のターン。
「蔦蛇」
彼は即座に片腕で魔法陣を展開し、詠唱すれば瞬く間に魔力で出来た蔦のようなものが常人では目で追えない程のスピードで伸びてくる。
私はそれを軽くいなしたつもりが、一本だけ追加で伸びてきたであろう視界の外の蔦を避けきれず、風を切り裂く鋭い音を立てて即座に私の右手首に絡まる。
「上がりましたね、スピード」
後輩を褒めながら、自分の魔力を回転駒のようにフル回転させて無理矢理焼き払う。
事実、この子は凄まじい成長を遂げている。流石私の後輩、といったところだ。
「でしょでしょ。」
私に自慢げに笑いかけながら次の攻撃の準備をしているのが、右腕の青緑色に変わった魔力靄から見て取れる。
───こんなに楽しい模擬戦は、初めてだ。
私は薄く光った魔法陣を自身の左右に空中で数枚ずつ展開し、 その中から魔力で生成された無数の刃物《ナイフ》を飛ばす。
「これを、無詠唱……」
後輩は少し目を見開いたあと、次々飛んでくる刃物を煙の多い爆発のようなもので消し飛ばして、煙がすこし晴れたと思えば、今さきほどまで居たところに後輩の影が無い。
つまりアレは目くらましだったというワケだ。
急いで気配を探すも魔力探知が機能していない。一種の認識阻害だろう。
そうして辺りをくるくる見回していると、ふと後ろに気配が現れる。
振り返る隙も無く背を打たれ、私の視界は反転する。
―――驚いた。
まさか、こんなにも成長しているとは流石に思ってもいなかった。頬の筋肉が緩む。
私は吹き飛ばされながら体勢を整え、チェックメイトと言わんばかりに蹴り飛ばそうと横薙ぎに振りかざされる後輩の回し蹴りを靴底をぶつけ合わせる形で受け止める。
そのままの勢いで足に力を入れ、思いきり飛ばす。
「え」
咄嗟に出た短い声を最後に、後輩は轟音と共に向こうの壁に叩きつけられてそのまま崩れ落ちる。
やりすぎた。
急いで駆け寄ると、流血は確認出来ないが目を閉じている。気絶だと信じたい。
「柏木くん」
いくら名前を呼んでも目覚める気配はない。やばい。
「うっっっそうそうそうそすみませんごめんなさい申し訳ありません嘘でしょマジですか」
焦ってうそでしょうそでしょと囈言のように連呼していると、
「嘘っす」
ウィンクしてにやにや笑った後輩の顔と声が目と耳に飛び込んでくる。
「っ〜〜〜〜〜!!!!」
────本気で、心配したのに!!
「楓さんもケッコーかわいいとこあるんすね」
後輩には頭突きをお見舞いした。
「―――つうことで、オレの負けですね。
んやぁ、ありがとうございました。勉強になりました」
額を薄く腫らした後輩が砂埃が付いたスーツを払いながら立ち上がり、どこか満足したような表情で自らの負けを告げる。
「こちらこそ。入った頃よりも断然成長しててびっくりしちゃいました。お相手ありがとうございました。」
私がそう返すと、「次は勝ちに行きますね」なんて意気込んでくる。
それに「なら、次も私が勝利を取りに行きます」と少し意地の悪いことを言う。
後輩は少しむっと唇を尖らせる。
「今日よりもっと厄介な戦い方するので覚悟しててくださいね!!」
ぴっと私に指を差して宣言すると、私はついに吹き出してしまった。
「ん、っふっ、はい、えぇ、覚悟します、ね。」
笑うなよと言う顔でこちらを見てくる。
先程の空気はどこへやら、和やかな空気が暫く流れる。
そのとき、何故か放送が入った。
『幹部第四席に告ぐ。至急本部二棟裏に来い』
それだけ告げて、放送は終了する。
声が確実に鏡月の声だった。それだけで死を覚悟してしまう。
「……な、な、なにやらかしたんですか、楓さん」
後輩がこちらを信じられないような目をして見てくる。
「何もやらかしてないですよ!?!?!」
「とりあえず早く行った方がいいっすよ、マジで」
と、早口で捲し立てる後輩。『何をやらかしたのか知らんが早く謝ってこい』とでも言いたげに。
私はその勢いに負けて「でっ、ではお先に、失礼します」とだけ告げて踵を返す。
「はい、また」
その言葉を背に、私は呼び付けられた場所へ向かうのであった。
コメント
2件