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花梨
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「レディ」
スミスはベッドに横たわったきりで動かない。
あれから3日。彼女も何も口にしていない。
「…眠いの。わかってる…防御反応だって…心を……守るための……」
「なら少しなにか口にしろよ」
「いらない…」ぐしゃ、と顔の横のシーツを握りしめる。汗と涙のにおいがした。
「お前がそうなっても、風見が目を覚ますかはわからないんだ!」
「ならわたしのせいだと言えよ!」がばっと彼女は顔をあげる。「わたしが…」「ちがう」はあ、と降谷。
「…いつから」
と髪で見えない顔から聞こえる。「知らない」「とぼけないで!」
レディはベッドの向こう側にいる降谷の肩を引く。
「いつからーー」
ぶわ、とまた涙で視界が滲む。す、と降谷はスミスを膝にやった。
「聞いたのはあの日だ」とかすように、髪に指を入れる。優しく、引っ掛からないよに。
「いつからか、は本当に知らない」
「90日……」レディが泣いているのがわかる。降谷の胸元が濡れていく。
「90日……意識がなければ……」
「あぁ」
生命維持装置は、外される。
あいしてる
微笑んでいた。そんな目で見ないでよ、風見。あなたもーーわたしが死んじゃうってーー「レディ」「欠けてく…」
震えだすからだに力を入れる。「パズルが…」かくかくと奥歯を鳴らすほど。「欠けて……か、けたら」ごほ、とレディは咳き込むので、降谷は背中を撫でた。
「欠けて、欠けたらつくれな……怒られ……」
「レディ」はあ、とため息をついてさらに抱き上げる。「パズルは欠けないし、お前は怒られない」
「からだが動くの……」スッ、と首にスミスはしがみつく。「動いちゃうのよおっ…」
なにかを狩るために……ほとんどは、命を。「ごめんなさい」「レディ」「ごめんなさいいぃっ」あーあーと泣くスミスに、かける言葉が見つからなかった。
風見。必ず戻れよ。
降谷もそのまま、顔を埋めた。
「見てぇ」ベルモットが見せるのは空港の土産だった。ちょこん、と苺が乗るお菓子。
「国内じゃなかったですよね?」ちら、とバーボンは目だけで見る。わし、とウォッカが掴みモシャモシャ口にした。
「フィリピンで?」
「そ」ふう、とベルモットは煙草の煙を吐く。「でもあの国のお土産マンゴーしかないの。砂糖漬けの。あれ苦手なのよね」
ジンがーーという言葉に少し空気が変わる。
「みんな食べられなきゃ可哀想よ。ねぇ?だから成田で」ふさ、と肩にかかるブロンドにバーボンは目をそむける。
「苺嫌いなの?バーボン」
「べつに」好きでも嫌いでも。と座る。
「で?」要件は?と聞きたげな雰囲気に、ベルモットはまた煙を吐く。
「バーボン。あなた、屋形船のときどうやってヤクを見つけたの?」
煙はまた充満する。
「あの日運行していた屋形船は20隻以上あったわ?バカが隠したのはバカの乗る舟かって、普通は検討つけない?」
「ベルモット」
「なのにバカだから」ふぅ、と今度は煙が下に行く。「屋形船で美味しく食事をいただいたら、誰もいないときに舟を動かして【パーティー】する予定だったみたいねぇ?」
ただ、と彼女は前髪を垂らす。
「それが幸いして…運行前にヤクを乗せてたらしいじゃない。なら探すのは簡単。でも時間がかかり過ぎる。まさか」
警察犬でも動員させたのかしら…という緑色に、バーボンは捉えられる。
しんとなった室内に、ベルモットは髪を揺らす。「まぁいいわ」すう、と煙を吸う。「で」ごく、とウォッカが菓子を飲み込む。
「今日はなんの?」と口にする。
バカ。ベルモットとバーボンは同じふうに思った。
「…ショッピングしてたらね…あなたの喫茶店の子猫ちゃんがいた。とっても可愛いわねぇ」
長い爪で苺を摘まむと、少しずつ潰れていく。
食べちゃいたい。
「…で?」
ふう、とまた煙が吐かれる。「急かさないでよ。隣の試着室にいたら、店員に指示してたの。あのドレスと、あの靴と、あのバッグって」
ウォッカは2人を交互に見る。「…それがなんなんで?」
棚に28足あったうち、同じ種類の色は赤と黒を。あとは下から3番目。
ドレスは2番目のフェイスにあったもの。
バッグは重なって見えてなかったけど、奥から数えて4つ目……
「キュラソーみたいねぇ」
どく、どく、どく、という音が耳までしていたが菓子をわしづかんだ。
「あ!たしかに」とウォッカ。「あの女、1度見たものは忘れなかったですよね?それに…」
「かなりの正確さに、店員がびっくりしていたわ。それから」
「受話器が」「え?」ドレスを合わせている彼女が店員に言う。
「外れているわ。確認したほうが。あと、次回の新作はまだ発表できないならあんな見える場所に置かないことよ」
「事務所のドアは2秒も開いてなかったし、しかもあなた」とウォッカに顎をやる。「そんな隙間から字が読める?点字みたいなの」
はぐ、と菓子を食べバーボン。
「僕は何を?」
「ちょっと調べてもらえない?」
ベルモットは苺だけつまみ、あ、と口をあけて丸ごと入れた。
コメント
2件
…ごめん今の私はコメントしない方がいいかも♡(←テラルレで語尾ハート1週間引いた)
ああ、もう…胸がぎゅっとなりました。スミスが「動いちゃうのよおっ」って泣き崩れるところ、本当に切なくて。自分の体すら自分で制御できない苦しみがひしひしと伝わってきました。降谷が「パズルは欠けない」って優しく抱きしめるシーン、あの静かな強さが沁みますね。一方でベルモットの不気味な余裕、あの苺を潰す仕草がゾッとしました。キュラソーを彷彿とさせる観察眼の描写、続きが気になります…!