テラーノベル
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揺れる車体に身を任せる。暗いが窓から見える人工の木々は、赤や黄色に彩りを持ち始めているのが分かる。
若井とスタッフの会話に最小限混ざりつつ、君は今どんな会話をしているのか想像を膨らます。出演者やスタッフの中に、元貴の才能や財力を狙って近付こうとするような人が居るかもしれない。実際に、今まで何度か少し危ない目に遭いそうになったことがあった。あの元貴に限って気をつけない訳無いだろうが、やはり心配は拭いきれないもので。よほど上の空だったのか途中若井に酔ったの?と聞かれてしまった。心配性も昔から変わらないな、と自分で自分に呆れる。
ゆっくりと減速したのち、停車が目的地を知らせる。藤澤さん、着きましたよとスタッフがシート越しにこちらを覗き込む。礼を言い、若井にバイバイと手を振り車から降りると、肌寒い風が肌をくすぐった。部屋に入り自動のライトが着いた瞬間、どっと疲れが出てきた。このまま寝てしまう前にササッとシャワーだけ済まそう。重たい足を引きずりながら浴室へ向かった。
風呂から出れば、眠気は限界を突破していた。少し前までは髪をドライヤーを使わずとも乾いていたが、さっきの寒さなら風邪をひいてしまうだろう。
録り溜めたドラマを3分の2程だけ見てしばらくだらだらした後、ほぼ乾いているが罪滅ぼしのためコンセントを指した瞬間だった。ピンポーンと間延びした音が部屋に響く。最近は買い物する時間が無く日用品をネットで購入していた。なら宅急便かな。インターホンを覗き込むと意外な人物が映っていた。慌てて通話ボタンを押す。
「も、元貴…!?なんでここに、打ち上げ抜け出してきたの?」
『うーん、まあ…ちょっとね。ごめん、こんな時間だけど入れてくれない?』
画面越しに肩をすくめた君の手には、コンビニのビニール袋が見えた。心拍数が上がる。先程までの疲れは何処へやら、僕は急いで簡単にリビングを片した。
嬉しさが込み上げてきて、勢い余って玄関の戸を全開にしてしまった。1歩下がって待っていた君は、目をまん丸にさせて驚いている。が、すぐに
「急にごめん。お詫びに色々買ってきたから」
と言い、袋をずいと突き出してきた。受け取ると、お邪魔しま〜すと呟きお構い無しにリビングに直行する背中が見えた。変に緊張していたが、いつも通りの元貴になんだかほっとして、自然と口角が上がる。
変わりたいとは思うけど。こんな関係は変えたくない、変わって欲しくない、なんて思ってしまう。さっきまでの、心のなのかか体か分からない疲労感が戻ってくる感覚があった。
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読んで下さりありがとうございます!
突然ですが、なんとフォロワー様が50人を突破しました…!ありがとうございます、本当に励みになります泣短編の方も頑張ります、お付き合い下さい。
次も読んで頂けると嬉しいです。
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