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気づけば。
本当に朝だった。
窓の外はもう明るくて。
バーの中にも、白い朝の光が入ってきていた。
誰かがあくびをする。
「……俺ら」
深澤が時計を見る。
「朝まで起きてた?」
「起きてたね」
岩本が答える。
「徹夜じゃん」
渡辺が顔をしかめる。
「翔太、途中ちょっと寝てなかった?」
宮舘が聞く。
「寝てない」
「目閉じてたよ」
「考えてただけ」
「長かったね、考える時間」
「うるさい」
少しだけ。
いつもの空気が戻ってきた。
阿部も笑う。
本当に。
長い夜だった。
思い出して。
泣いて。
全部知って。
また泣いて。
でも。
今は。
全員ここにいる。
岩本が立ち上がる。
「とりあえず今日は帰ろう」
「賛成」
佐久間がすぐ言う。
「眠い!」
「俺も」
ラウールが伸びをする。
「一回ちゃんと寝たい」
康二も頷く。
「さすがにこのまま一日遊ぶんは無理やな」
「今日は休もう」
宮舘が言う。
「店も閉店しましたって書いちゃったし」
「臨時休業だからね?」
渡辺がすぐ訂正する。
阿部はまた笑った。
みんな。
少しずつ帰る支度を始める。
その時。
深澤が思い出したように阿部を見る。
「あ、そうだ」
「何?」
「あべちゃん」
「うん」
「夢の国のチケットって、どうやって取ったの?」
「え?」
阿部は少し考える。
目黒と行った時。
確かに。
チケットは取った。
でも。
現実なら。
日付を決めて。
予約して。
混んでいたら取れなくて。
いろいろ大変なはずなのに。
あの時は。
行きたいと思って。
スマホを開いて。
普通に取れた。
「……あれ?」
阿部が固まる。
「どうした?」
目黒が見る。
「俺」
スマホを取り出す。
「普通に取ったけど」
「うん」
「でも」
阿部は画面を見る。
そして。
はっとする。
「ここ、夢じゃん」
全員が阿部を見る。
「今さら?」
佐久間が笑う。
「いや、そうじゃなくて」
阿部は少し興奮してくる。
「夢の中だから」
#❤️💙
みら

19,807
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スマホを操作する。
夢の国の予約画面。
開く。
明日。
空きあり。
明後日。
空きあり。
その次の日も。
全部。
簡単に選べる。
「……やっぱり」
「何が?」
深澤が覗き込む。
「チケット、いつでも取れる」
「え?」
「多分」
阿部はみんなを見る。
「夢の中だから、簡単に取れるんだよ」
一瞬。
静かになる。
そして。
「じゃあ行きたい!」
佐久間が一番に言った。
「早い!」
阿部が笑う。
「俺も!」
康二も手を上げる。
「写真撮りたい!」
「俺も行きたい」
ラウールも続く。
「いっぱい食べたい」
「目的それ?」
「夢の国の食べ物っていっぱいあるじゃん」
「まああるけど」
深澤も岩本を見る。
「照」
「行くよ」
「まだ聞いてない」
「行きたいんでしょ」
「行きたい」
渡辺は。
何でもない顔をしながら宮舘を見る。
宮舘も見る。
「翔太」
「……何」
「行こうか」
「別にいいけど」
「行きたいんじゃん」
深澤が笑う。
「うるさい」
結局。
全員。
行きたそうだった。
阿部はその光景を見て。
少しだけ笑う。
そして。
最後に。
隣の目黒を見る。
「めめは?」
目黒は少し驚いた顔をする。
「俺?」
「一回行ったけど」
「うん」
「また行く?」
目黒は。
迷わなかった。
「行きたい」
「即答」
「九人で行ったことないから」
阿部の胸が。
少しだけ温かくなる。
現実でも。
九人で夢の国へ行くなんて。
簡単にはできない。
でも。
ここなら。
できる。
「じゃあ」
阿部はスマホを見る。
「一日休んで」
みんなを見る。
「明日行く?」
「行く!」
佐久間。
「賛成!」
康二。
「いっぱい食べる」
ラウール。
「俺も」
深澤。
「俺も」
岩本。
宮舘と渡辺も頷く。
阿部は笑った。
「分かった」
そして。
全員分。
九枚。
チケットを取った。
簡単だった。
本当に。
何の問題もなく。
画面に。
予約完了。
と表示される。
「……取れた」
「九人分?」
「うん」
佐久間が歓声を上げる。
「やったー!」
康二も笑う。
「一ヶ月後ちゃうで、明日やろ?」
「うん」
「ほんまに行けるんや」
「夢だからね」
阿部がそう言うと。
全員が少しだけ黙った。
夢だから。
その言葉には。
今までとは違う意味がある。
でも。
誰も。
暗い顔はしなかった。
佐久間が笑う。
「じゃあ夢だから楽しもう!」
「そうだね」
阿部も笑う。
今日は寝る。
明日は。
九人で夢の国。
そんな予定ができた。
それだけで。
少し嬉しかった。
バーを出る。
朝の空気は。
少し冷たかった。
みんな。
それぞれ帰っていく。
阿部も。
目黒と並んで歩く。
最初は。
自分の部屋へ帰るつもりだった。
でも。
曲がり角で。
目黒が自然に言った。
「俺んち来る?」
阿部は一瞬止まる。
「……いいの?」
「いいに決まってるじゃん」
「でも」
「一人で帰りたい?」
その言葉に。
阿部は少し考えた。
昔。
一人になりたかった。
誰にも会いたくなかった。
目黒とも。
一緒にいたくなかった。
でも。
今は。
違う。
阿部は首を横に振る。
「ううん」
目黒を見る。
「めめんち行く」
目黒が少し笑った。
「うん」
二人で。
隣り合って歩く。
何度も歩いた道。
でも。
全部思い出したあとに歩くのは。
初めてだった。
目黒の家へ入る。
「ただいま」
阿部が言う。
目黒が一瞬止まる。
そして。
嬉しそうに笑った。
「おかえり」
阿部も。
少し笑う。
その言葉が。
今までより。
ずっと深く胸に残った。
目黒の部屋に入る。
昨日までなら。
何度も来た場所だった。
ソファも。
キッチンも。
テーブルも。
全部、見慣れている。
でも。
今は少しだけ違って見えた。
ここが夢の中にしか存在しない部屋だと知ってしまったから。
阿部は玄関に立ったまま、部屋の中を見渡した。
「……変な感じ」
「何が?」
目黒が靴を脱ぎながら振り返る。
「ここ」
「うん」
「昨日まで普通に、めめの家だと思ってた」
「俺も普通に住んでたよ」
「会社員のめめとして?」
「そう」
阿部は少し笑う。
「似合ってた」
「ほんと?」
「うん。普通に会社行って、普通に帰ってきて、ご飯作って」
そこで。
少しだけ言葉が止まる。
「……俺、それ待ってたんだよね」
目黒の表情が柔らかくなる。
「うん」
「毎日、隣の音気にして」
「知ってた」
「知ってたの?」
「結構分かりやすかったよ」
「うそ」
「ほんと」
阿部は少し恥ずかしくなって目を逸らす。
でも。
その恥ずかしささえ。
今はどこか懐かしかった。
何も覚えていなかった自分。
目黒を知らなかった自分。
それなのに。
帰ってくる音を待って。
ご飯に誘われると嬉しくて。
優しくされるたびに、少しずつ好きになった。
「……不思議」
「何が?」
「全部忘れてたのに」
目黒を見る。
「やっぱりめめだった」
目黒は何も言わなかった。
ただ。
少しだけ目を細めた。
「とりあえず寝よ」
目黒が言う。
「さすがに朝まで起きてたし」
「うん」
阿部も。
急に身体が重くなった気がした。
今まで。
話すことで精一杯だった。
思い出すことで精一杯だった。
でも。
家へ帰ってきて。
安心した途端。
一気に疲れが押し寄せてくる。
「着替えある?」
「あるよ」
「なんで?」
「前に置いてったやつ」
「……俺?」
「うん」
目黒がクローゼットを開ける。
阿部の服。
ちゃんとある。
「いつの間に」
「結構前」
「全然覚えてなかった」
「そりゃ昨日まで記憶戻ってなかったからね」
目黒が服を渡す。
阿部は受け取って。
少しだけ笑った。
「なんか」
「うん?」
「現実でも似たようなことしてたね」
「してた」
「服置いて」
「合鍵持って」
「勝手に来て」
「勝手には来てないよ」
「結構来てたじゃん」
「恋人だから」
即答。
阿部は。
思わず笑った。
「そうだった」
「うん」
「恋人だった」
その言葉を。
自分で言う。
何度も知っていたことなのに。
今は。
改めて嬉しかった。
着替えて。
寝室へ行く。
ベッドを見る。
阿部は一瞬だけ止まった。
目黒も。
何も言わず待っている。
「……一緒に寝る?」
阿部が聞く。
「あべちゃんが嫌じゃなければ」
「嫌じゃない」
すぐに答えた。
昔。
一緒にいたくないと自分から言ったことを。
思い出したばかりだった。
だからなのか。
今は。
離れたくなかった。
ベッドへ入る。
目黒も隣へ横になる。
しばらく。
二人とも何も言わなかった。
カーテンの隙間から。
朝の光が入っている。
阿部は天井を見る。
「めめ」
「うん」
「寝れる?」
「分かんない」
「俺も」
目を閉じる。
でも。
頭の中には。
昨日思い出したことが。
まだ残っていた。
女優の顔。
言葉。
玄関。
最後の記憶。
身体が。
少しだけ強張る。
その時。
目黒の手が。
そっと阿部の手に触れた。
強く握らない。
ただ。
そこにいると分かる程度に。
阿部は。
自分から指を絡めた。
目黒が少し驚いたように見る。
「……離さないで」
「うん」
すぐに返ってくる。
「離さない」
阿部は目を閉じた。
昔なら。
この手さえ。
あの女を思い出して。
怖くなっていた。
でも。
今は違う。
この夢の中で。
もう一度目黒と出会った。
知らない人だった目黒に。
自分から近づいて。
自分から好きになった。
その記憶がある。
「めめ」
「何?」
「俺さ」
少し考える。
「思い出したら、夢の中の俺が消えるのかなって」
「うん」
「ちょっと怖かった」
「……うん」
「昔の俺に戻ったら」
目黒を見る。
「今ここで過ごしたこととか、なくなる気がしてた」
目黒は静かに聞いている。
「でも」
阿部は絡めた指を見る。
「なくなってないね」
「うん」
「ちゃんと覚えてる」
カレー。
カフェ。
バー。
目黒の部屋。
酔っ払った夜。
答え合わせ。
初めて好きだと言った日。
夢の国。
全部。
残っている。
昔の記憶が戻っても。
今の記憶は消えなかった。
「俺」
阿部は少し笑う。
「増えただけなんだ」
「そうだね」
「昔の俺もいて」
「うん」
「記憶なくしてためめを好きになった俺もいて」
「うん」
「どっちも俺」
目黒が。
ゆっくり笑った。
「どっちもあべちゃんだよ」
その言葉が。
思った以上に優しく胸へ落ちた。
「めめは?」
「何?」
「俺が思い出した時」
少し迷って。
聞く。
「嬉しかった?」
目黒はすぐ頷いた。
「嬉しかった」
「でも」
「うん」
「怖かった」
阿部が目を瞬く。
「怖かった?」
「思い出したら」
目黒の声が少し低くなる。
「また俺と一緒にいたくないって思うかもしれないって」
阿部は。
何も言えなかった。
「最後のあべちゃんは」
目黒が続ける。
「俺のこと信じてくれてたけど」
「うん」
「俺といるのも辛くなってたから」
握っている手が。
少しだけ震えた。
「だから、記憶が戻った瞬間」
目黒は阿部を見る。
「また離れていくかもしれないって思った」
「……そっか」
「でも」
目黒は小さく笑う。
「抱きついてきてくれたから」
「俺から?」
「うん」
「覚えてない」
「昨日のことだよ」
「いろいろありすぎたんだよ」
二人で。
少し笑う。
阿部は。
目黒の方へ身体を向けた。
「今は」
「うん」
「一緒にいたいよ」
目黒の目が。
少しだけ揺れる。
「ほんと?」
「うん」
「無理してない?」
「してない」
「怖くない?」
阿部は。
少し考えた。
「怖いことはある」
正直に言う。
「現実のこと考えたら、まだ怖い」
「うん」
「でも」
目黒の手を握る。
「めめといることは怖くない」
目黒は。
しばらく何も言わなかった。
それから。
阿部の額へ。
そっと自分の額を寄せた。
「よかった」
小さな声。
それだけだった。
しばらくして。
阿部は本当に眠くなってきた。
「めめ」
「ん?」
「明日」
「うん」
「九人で夢の国だね」
目黒が笑う。
「楽しみ?」
「楽しみ」
「俺も」
「一回行ったのに?」
「今度は九人だから」
「そっか」
阿部は目を閉じる。
九人で。
誰にも隠れず。
普通に遊ぶ。
現実では。
きっと簡単にはできないこと。
だからこそ。
ここで。
やってみたい。
「めめ」
「何?」
「今日は寝て」
「うん」
「起きたらご飯食べて」
「うん」
「また寝て」
「寝すぎじゃない?」
「徹夜したんだからいいの」
目黒が笑う。
「分かった」
「それで明日」
「夢の国」
「うん」
阿部も少し笑った。
まだ。
帰るかどうかは決められない。
現実へ戻るのは怖い。
この世界から離れるのも。
寂しい。
でも。
今すぐ答えを出さなくていい。
そう言ってもらえた。
だったら。
もう少しだけ。
この夢を。
楽しんでもいい。
阿部は目黒の手を握ったまま。
ゆっくり眠りへ落ちていった。
その隣で。
目黒も。
ようやく目を閉じた。
明日は。
九人で。
夢の国へ行く。
コメント
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うわあああぁぁぁぁ😭💕 この第26話、朝日の中でゆっくりと日常が戻ってくる感じがもう…エモすぎて胸がぎゅってなったよ!!特に「離さないで」「離さない」の会話、ここ涙腺崩壊した…🥺 だって、思い出したからこそ怖かったのに、それでもなお「一緒にいたい」って言える強さが最高に美しくて。九人で夢の国行く予定も、夢の中だからこそできる贅沢で、すごく温かい気持ちになったよ✨ ゆめかも一緒に行きたいくらい!!みらさん、こんなに感情揺さぶられる話をありがとう…次話も楽しみにしてるよ🌸