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「あなたはパスタが好きですか?」
5話
薄暗い喫茶店。
店内には、静かなジャズが流れている。篠宮は、少し緊張した様子で窓際の席に座っていた。
外の景色がぼんやりと映るガラス越しに、彼の目はじっと美咲の姿を追っていた。
美咲が店に入ってくると、篠宮は立ち上がり、軽く頭を下げた。
「お待たせしました…!」
「いえ、さっき着いたばかりです」
美咲は微笑んで席に座るが、その表情にはどこか不安げな色が滲んでいた。
篠宮は黙って彼女の前に、ファイルを一冊置いた。
「これを見てください」
美咲はファイルに手を伸ばし、ゆっくりとその中身をめくった。中には、
事故当日の写真や、滝川の関与を示す文書、そして彼が犯した違法行為を証明する証拠が並んでいた。
「これが、滝川が関与していた証拠です」
篠宮の言葉が重く、静かに美咲の耳に響く。
彼女はファイルを手に取ったまま、しばらく言葉を失っていた。
目の前に広がる現実があまりにも衝撃的で、信じられなかったからだ。
「どういうことですか……?」
美咲の声は震えていた。
篠宮は静かにうなずく。
「事故はただの不運だと思われていた。しかし、これを見る限り、
滝川がその場にいたこと、そして彼の行動が事故を引き起こした原因だと確信しています。」
「でも……彼は、そんなことをする人じゃない、です…。」
美咲はかすかな声で言った。彼女にとって、
あの男は完璧だった。どんなに真実を突きつけられても、
彼を疑うことはできなかった。
「そう思いたい気持ちはわかります。でも、彼氏さんが真実を隠しているのは明らかです」
篠宮の言葉が刺さる。
美咲はファイルを再び見つめ、しばらく黙っていた。
「どうして……篠宮さんは、私にこんなことを?」
「あなたが滝川と一緒にいる限り、この問題は解決しません。
そして、美咲さんが彼を助けることは、あなた自身をも危険にさらすことになる」
篠宮は真剣な眼差しで美咲を見つめる。
「だから、私はあなたに協力をお願いしたい。
滝川を追い詰めることが、唯一奴を止める方法だと考えています」
美咲さんはその言葉を受け止め、しばらく沈黙していたようだった。
心の中で何度も葛藤が繰り返され、滝沢への愛と、
彼の犯した罪を受け入れなければならない現実がぶつかり合っていた。
やがて、美咲は深い息をつき、目を閉じた。
「わかりました。私、瑛人を……」
その言葉が、彼女の中で大きな決断を意味していた。
「協力します」
美咲の声は、決して大きくはなかったが、その決意が篠宮に伝わった。
彼は軽くうなずくと、ファイルを再び閉じ、静かに言った。
「ありがとう」
そして、二人はしばらく無言で向き合った。美咲はもう、
滝川に対して抱いていた理想を完全に捨てていた。