「ごめん、今若井と呑んでるんだけど…」
恐る恐る若井の名前を出す。現在の時刻は5時半頃から集まったので2時間と少し過ぎた位だった。今からご飯に行くとなると、僕は大分お酒が入ってるしつまみも食べてしまった。
…という旨も伝えてみた。
『どちらかと言うと、大事なのは飯より涼ちゃんに会うことなんだ。やっぱり抜けれない?』
これ以上断っても若井に怪しまれる。それに、多分元貴は引き下がらない。
「分かった。アルコール入ってるけどいいんだよね?」
『うん、むしろありがたいくらい』
まさかタイミングを狙って誘ったのだろうか。そんな考えが頭によぎったが、気にしないようにしてどこに行けばいいか尋ねる。
『俺の家の近くにさ、バーが出来たんだよ。今からそこの住所送るね。現地集合でいい?』
分かったとだけ伝え、通話を終了する。何だかリビングに戻る足が重たい気がするが、暗い顔でドアを開ける。
「あれ、もしかして呼び出し食らった?」
ぎくっとした。が、すぐ仕事だと伝えたことを思い出す。
「そうなのよ〜。ごめん若井、また今度ちゃんと集まろう!」
しょうがないよねえ、と君は憐れんだ様な笑みを浮かべる。
「はいはーい、というかお酒入ってても大丈夫なの?」
「伝えたよ。でも来て欲しいってさ」
ふーんと興味がある様な無い様な返事が返ってきた。少し胸が痛むが、元貴が若井の誘いを断って僕を誘ってきたなんて、口が裂けても言えなかった。
若井の家から元貴の家付近までそこまで遠くない。でも一刻でも早く着かないと行けないような気がして、タクシーを使った。教えられた住所に来てみると、元貴が出来たばかりなのに選んだ理由が分かった。高級でお洒落な、ふらっと立ち入れるような場所では無いバー。
先程から感じている嫌な予感が、風船のようにどんどん膨らんでいる。
程なくして着くと、1件の通知が入った。見ると元貴はもう中に入っているそうだ。
重厚感のある扉を開くと、奥の方に元貴が座っているのが見える。こちらに気づいた様で、身バレ防止のため控えめに手を振ってくれている。
「おまたせ。どしたの?珍しいよねこういう誘い方」
「来てくれてありがと。いやー、ちょっと伝えたい事があってね」
元貴は相変わらず体型や顔立ちにピッタリでお洒落の具現化のような見た目だった。店には気前の良さそうなマスターと、品のある夫婦、仕事帰りの俗に言うバリキャリが1人いて、対して自分は先程まで宅飲みをしていたためラフな格好で、場違いだなあと思いながら席に着いた。
「何か頼んだら?お酒呑んだって言っても、ここでまた呑んでもしんどくなる量じゃないでしょ」
「そうだねー…。んー…。」
元貴はもう既にカクテルを頼んでいるようだった。それに珍しいなと思いながらざっと渡されたメニューを見たが、外見通り全て高級でどれも頼む気が起きない。その様子を察したのか、元貴はすかさず、
「奢るから値段は気にせず頼んじゃってよ。来てもらった身だしさ」
と言ってくれた。
悪いよと言ったが、たまにはカッコつけさせて、決まらないなら頼んじゃうよと勝手に頼んでしまった。シェーカーのリズミカルな音が心地よく、気が緩んでしまう。先程までの呑みの様子を話してしばらくしたらお洒落なカクテルが運ばれてきた。おもむろに、元貴は体をこちらに向けて話し出した。
「伝えたいことは、言葉にするのが難しいんだけど…」
と言い少し考え、
「まあいいや。単刀直入に言うね。」
と言って手を取られた。突然のことにびっくりして呆然と見つめていたらじっと見つめ返された。
「実は俺、涼ちゃんのことが好きなんだ。勿論親友としてじゃなく。男だし、簡単に言える様な事じゃないけど…。付き合ってください」
嫌な予感の正体が霧が晴れるようにあらわになった。
その瞬間、カチッと言う音と共に僕らの関係を形にする直角三角形が現れたような気がした。
◻︎◻︎◻︎
読んで下さりありがとうございます!
遂に直角三角形の原因というか、理由があらわになりましたね。余談ですが大森さんの勝手に頼んだカクテルはテキーラ・サンライズというもので、見た目が涼ちゃんみたいだからと言う理由だけで選んでいます。(作者が)
次回も楽しんでいただけると嬉しいです。
コメント
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もう、むっちゃ好きです。大好きです。頑張ってください!!