テラーノベル
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「えっ…..えっ!?これ、ほんとに京都!?」
バスの窓から見えた金ピカのお寺を前に、ももが声を上げる。
(夏休みも終わり、秋になった。ちなみにももは夏休みギリギリまで宿題を残していたため、最終日の夜は、血の滲むような思いをしたらしい。)
直人は溜息をひとつ。
「だから言ってるじゃん、金閣寺だって。パンフにも書いてあるでしょ」
「でも金すぎない!?もう、建物っていうか金の板じゃん!?これ絶対重たいって!」
「そこじゃないでしょ……見るとこ……」
中学2年、待ちに待った修学旅行。
ももたちは朝からテンションMAX。最初の目的地は京都・金閣寺だった。
「ねえなおとお、ここってお金払ったら中入れるの?」
「それは無理。中には入れないよ」
「えぇ一つ!!中にあれとかあると思ったのに!豪華トイレとかさ!」
「金閣寺に期待しすぎだよお前は……」
ツッコミとボケの応酬は、バスから降りたあとも止まらない。
そして、グループ行動が始まったーー。
清水寺
午後の班別行動。
もも、直人、りんか、ゆうやの4人班は、清水寺へ。
「やっほー! うちら、ぶっちぎりで楽しむよー!」
ももは張り切って、先頭を歩く……がーー
「…..あれ?なんか、人いなくない?」
「おい、待って、それ裏道…….!」
直人が言う前に、ももは完全に別ルートへ進んでいた。
そして次の瞬間、彼女はーー「なおとおおおおおおおおおお!!」声だけが、山に響き渡った。
30分後。
清水寺の売店で、ぬいぐるみを抱えていたももを、直人が発見。
「迷子になってね、ちょっと座ってたら、優しいお姉さんがこれ買ってくれたの」
「は?」
「このクマ、”きよみー”って名前らしい。かわいくない?」
「どういう交渉したんだよ……」
夜は大阪に移動し、夕飯はお好み焼き。
「自分で焼くスタイル」に、ももはテンションMAX。
「うわああ!粉が生きてるううう!ひっくり返したら飛んだあああ!」
「お前の焼きだけ災害みたいになってる…….」
「なおとお~!うちのん、真ん中だけ液体なんだけど、食べられる!?」
「むしろなんで焼けると思った?」
こうして、騒がしくも楽しい修学旅行は1日目を終えた。
そして次の日、さらなるカオスがももたちを待ち受けるーー
朝のホテル。
窓からはビル街の風景と、遠くにちらりと見え
る観覧車。
「….ん…….おはよ…..おはよ…..まだ寝てるよ…….」
ももはベッドの上で、毛布にくるまりながら謎の寝言を呟いていた。
その隣では、同室のりんかがきっちり制服に着替え、ももの頭をトントン叩く。
「もも、起きないと置いてくよ。今日は班別で大阪市内回るんでしょ?」
「だってさぁ……昨日いっぱい歩いたし、夢の中でもお好み焼き焼いてたし……もうちょっと……」
「ほら、なおとくんと待ち合わせでしょ?」
「うっつつ」
その言葉で、ももはガバッと起きた。
「なおと」という名前には、無意識のアラーム機能があるらしい。
こいつは、昨日、部屋班と一緒に夜更かをしていたんだろう。
「もも、昨日夜ふかししただろ、」
「うへへ、……」
「うへへじゃねぇよ、」
(大阪の街)
「わ一つ、見てなおとお!カニが、建物に住んでる!」
「住んでない。動く看板だよ…….」
通天閣より先に訪れたのは、超有名観光地・道頓堀。
ド派手なネオン、カニの看板、そして……巨大なグリコの人。
「うちらも、あれやるっ!あのポーズ!ほら!」
「グリコポーズ、もう何人やってると思ってんだよ……」
「いいのっ!ここでジャンプしたら願いが叶うって、TikTokで見たもん!」
「え、どこ情報?あやしすぎない?」
ももが全力でジャンプして、ものすごい、勢いでバッグが飛ぶ。
直人はそれを華麗にキャッチして、少し誇らしげ。
「さすなおと!この先一生ついてく!」
「やめて、恥ずかしいから」
たこ焼き屋台で、バトル勃発!「なんのバトルやし、」
うわああ……本場のたこ焼き、めっちゃとるける……」
「っていうか、熱っつつ!!!」
屋台で買ったばかりのたこ焼きを一気に頬張ったももが、口から炎を吹きそうな勢いで飛び跳ねる。
「ふーっふーつ、なおと、これ毒じゃない!?火い入ってるよぉ!」
「いや、それはたぶん普通の現象だと思う……」
「ん?……火入ってる?……???」
「たこ焼き界の犯罪だよこれ……でも、うまっ…….!」
「どっちだよ」
このあと、ももは3パック目まで食べて、店のおばちゃんに「大阪の胃袋やな」と言われた。
迷子スキル、再び発動
「えっ、あれ……?さっきまで、なおといたよね?」
夕方近く。
人混みに流されて、ももはいつのまにか単独行動に。
周囲には観光客、修学旅行生、知らないおじさん。
「ま、まずい……!これは…..事件だよ……!」
バッグからメモ帳を取り出して、自作の”迷子マニュアル”を読みはじめる
「その①:泣かない」
「その②:パニックにならない」
「その③:変な勧誘にはついていかない」
「その④:なおとを、じる」
……うう、今だけ泣いていい?いやだめか……!」
数分後、携帯に”なおどからのLINE。
🟩なおと:「お前、グリコの前で全力で踊ってるって、他の班から通報来た」
🟧もも:「それあたしじゃないかも!でもたぶ
んあたしかも!!」
直人はすぐに現れて、ももを無言で帽子で
ぽこり。
「…..な、なおと…..怒ってる……?」
「怒ってない。心配した」
そのひと言で、ももは今度こそちょっと泣いた。
その後
「これこれ!USJって、夢の国だったんだよ!」「ちがう、それはディズnーー」
「ユニバって書いてある!ユニバは宇宙だから、もう正解!」
なんと夜のサプライズ行事として、USJに短時間だけ入園できることに。
イルミネーションが輝く園内で、ももはもう感動の嵐。
「うわあ、なおとお!見て見て、恐竜!ゾンビ!
ピカピカしてるやつ!!」
「情報が多すぎて処理できない」
ジェットコースターではももが絶叫しすぎて、直人の耳が一時的に壊れた。
お土産屋では、ゾンビのぬいぐるみを真剣に品定めしていた。
「この子、名前つけるなら”ゾンビたん”かな……
いや、”なおゾンかな……
「やめろ、その名前だけはやめろ 」
その後、ユニバを楽しんだ。
夜のホテル。
部屋に戻ったももは、買ったばかりのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめてから、ベッドにダイブ。
「はー…..もう…..一日、めちゃくちゃだったけど……めちゃくちゃ楽しかったね…….」
「….明日は、京都で座禅体験らしいぞ」「えっ、それって……おしゃべり禁止?」
「そりゃそうだろ」
「…..なおと、明日、事故にあうかも」「おい、それ不吉すぎるからやめる」笑いながら、ももの笑顔がだんだん眠気にとろけていく。
そして、夜は静かに更けていったーー。
「なあ、もも。絶対にエサあげる時、叫ぶなよ?」
「バカにしてる!?わたし、動物には優しいって決まってるじゃん!」
修学旅行最終日、朝のバスはテンションが異様に高い。京都のホテルを出発して、奈良の鹿公園を目指す道中。ももはなぜか自信満々だった。
到着早々、クラスの皆はお土産ショップに吸い寄せられるように散っていったが、ももは一人、鹿せんべい売り場へ一直線に向かった。
「ほら見て直人~~っ!鹿せんべい買ったら、友だちが急に100頭できた!」
「いや、それ敵だよ!?完全に囲まれてるじゃん!」
ももの手には、袋いっぱいの鹿せんべい。そしてその周囲には、目をキラキラ(いや、ギラギラ)させた鹿たちが、まるでゾンビ映画のように群がっていた。
「ひいいいいっっつ!!ちょ、ちょっと待つて!?噛まないで!わたし、そんなにおいしくなーいっ!?」
「もも、腰引けてる!投げる、せんべい投げろ!!」
パニックになりながらも、ももはせんべいを空中に放り投げる。鹿たちはそちらに群がり、なんとか逃げ延びることに成功した。
「い、生き延びた…..。奈良、こわい……」
「自業自得だろ……」
その後はバスで京都へ戻り、嵐山へ向かうことに。ももはまるで何事もなかったかのように回復していた。
「竹林すごーい!ねえ直人、ここでかくれんぼ
しよ!」
「しない。絶対はぐれるだろ。お前一人だけ鳥取とか行きそう。」
「そんなわけないじゃん!も〜ももがそんなはぐれたり、違う場所なんか行くわけないでしょ♪」
……お前、京都で、迷子になったよな?」
「うぅ……」
直人は完全にツッコミ係だが、どこか楽しそうだった。2人は嵐山の竹林を抜け、川辺のベンチに座って、少し遅めのお団子タイムへ。
「もも、口の端にあんこついてるぞ」「えっ?どこ?どこ?…あ、直人、取って取っ
て〜〜」
「自分で拭けよ、ほらティッシュ。」
ももは唇をとがらせながら、ティッシュを受け取ってふきふき。ふと、彼女は静かに空を見上げた。
そして、座禅体験を、した。
ねえ、楽しかったね……。修学旅行って、もっとめんどくさいかと思ってた」
「お前が一番騒がしかったけどな」「うん!わたしもそう思う!」
「…..いや、反省しろよ。」
最後は錦市場で自由行動。ももは直人の袖を引っぱりながら、串焼きや抹茶アイスを次々と手にしては、「うまっ!最高か!」を連呼していた。
「もも、自由行動の終わりまであと10分だけど」「あと10串はいける!」
「胃袋どうなってんだよ……」
帰りのバス、シートにもたれて眠るももの横顔を、直人はちらりと見た。にやけた寝顔、団子の名残のようなほっぺの跡。
ーーまあ、これはこれで、悪くない。
窓の外、夕焼けに染まる京都の街を後にして、彼らの修学旅行はゆっくりと終わりを迎えていく。
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