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朝のHR(ホームルーム)。教室にざわつきが広がっていた。
担任の橋本先生が、教卓の前でなにやら真剣な顔をしている。が、その後ろに立っている人物に、ももの目は釘づけだった。
「はうっ……なんか、バービー人形みたいな人が立ってる!!」
ももは直人の肩をがっしり掴んで叫んだ。
「落ち着け。あと肩痛い…..」
そして先生の言葉が静かに、しかし確実に教室の空気を変える。
「今日からみんなの仲間になる、転校生を紹介するぞ。エレナさん、どうぞ」
その瞬間、教室の時間が止まったかのようだった。
すらりとした長身に、金髪で、三つ編みの髪。透き通るような白い肌に、大きな瞳。目は綺麗なエメラルドグリーン色。制服が、まるで雑誌の撮影みたいに映えている。
「エレナ・スヴェトラーナ・ナカムラです。よろしくお願いしますぅ!」
笑顔と共に放たれた日本語は、ちょっとたどたどしいが破壊力抜群だった。
ももは立ち上がって、 手をブンブン振った。
「わー!!ももだよー!!友だちになろー!!!」
先生が慌てて止めようとしたが、エレナは満面の笑みでうなずいた。
「モモ!あなた、すごくキュートですぅ!あたし、友だちなりますぅ!!」
「やったあああ!!」
教室の隅で、直人は頭を抱えた。
「やばい……もう1人目の”もも”が来た…..」
その日の放課後、ももとエレナは校庭のベンチで謎の会議を開いていた。
「えーとね、まずこの学校には“購買の焼きそばパン”という伝説の存在があって、たまに袋が2重になってるの!」
「ナンデ!?安全ですか!?」「いやたぶん、おばちゃんのミス!」
「オーケー!重要情報ですぅ!」
「それから、屋上は開かずの扉!でもももは5回くらい開けようとして怒られた!」
「それは、もはや英雄行為ですぅ!」
そこへ通りかかった直人が、思わず足を止めた。
「……お前ら、なにしてんの?」
「ナオトくん!今、校内サバイバル講習やってるの!」
「それほぼ無意味だからな?」
翌朝、登校してきた直人は思わず叫んだ。
「なにそのおそろいのハチマキ!?」
「見て見て!友情の証だよー!」
「”バカを”って書いてありますぅ♥」
「いや書くな!?堂々と!!」
エレナという新たな”嵐”が加わった教室。
果たして直人は、この先も無事でいられるのかー。
チャイムが鳴った瞬間、ももとエレナは弾丸のように教室を飛び出した。
目的地はもちろん一一購買部。
「今日こそ焼きそばパンゲットするぞおー!」「ヤキソバパンは、日本の“ソウル”ですぅ!」
ももとエレナは、まるで映画のワンシーンのように並んで廊下を駆け抜けた。すれ違う生徒たちがざわつく。
「なんか……あの2人、似てない……?」「似てるけど、1Qの総合値が心配になるね……」
購買部前一
「はあはあ……あと3人前……」
「ドキドキですぅ……!」
そしてついにー!
「やったあああ!!最後のひとつ、げっとおお!!!」
「Victoryですぅ!!」
歓喜の声とともに、2人は揃って焼きそばパンを掲げた。
…..が、その直後。
「え、これ……中、焼きそばじゃなくで”うどん…….?」
「うっそ!?え!?どういうこと!?」
袋のラベルには「焼きそばパン」と確かに書いてあるが、中身はどう見ても”カレーうどん”。
「これは…..新種のバグですぅ!!」
「うどんで、しかもカレー味……もも、嫌いじゃないっ!」
放課後、帰り支度をしていた直人の元に、エレナが駆け寄ってきた。
「ナオトくーん!明日、遊びにいっていいです
かあ?」
「…….え?」
「モモと一緒に!あなたの家、冷蔵庫にチョコありますか?」
「ちょ、待て、勝手に決めんな!」
ももが顔を出す。
「やったー!じゃあ明日、3人でパーティだねっ!!」
「いや、だから勝手に一」
一直人の声は、エレナの
「カレーうどんもう一回食べたいですぅ!」にかき消された。
翌日
「おじゃましまーーーす!!」「おじゃましまーすぅ!ナオトの家、いい匂いしますねぇ:」
玄関のドアを開けた瞬間、ももとエレナの声が響き渡った。
「いや、うるさいから……もうちょっと静かにしてって…….」
直人のツッコミもむなしく、ふたりは靴を脱ぐと同時にダッシュでリビングへ。
「おおーっ!ソファだっ!」
「ふかふかですぅ~!ロシアの雪よりやわらかい~!」
「そんな比喩、初めて聞いた…..」
「ねえねえナオト〜、冷蔵庫開けていい?」
「ダメに決まってんだろ」
「わーい!ありがとー!」
「聞いてないんだよな、完全に……」
バタン。
「わっ、チョコあったー!あとさ、ハムと……
あ、これナオトが食べかけて戻したプリンじゃない?」
「それ食うなよ、」
一方、エレナは電子レンジの前で硬直していた。
「これが…..噂の”チン”ってやつですか?」
「電子レンジ初めてなのか……?」直人が訝しげに覗き込むと、エレナは感動したようにボタンを見つめていた。
「まるで……核融合炉ですねぇ〜!」
「例えが物騒すぎる!!」
しばらくして、ももが謎のカレーうどんを温め始めた。
「ねぇナオト、カレーうどんあるけど食べる?」
「いや、なんで持ってきたんだよそれ」
「購買の袋から出てきたんだもん。なんか…..運命を感じちゃって///」
「そんなラブロマンス、聞いたことねえよ…….
突如、エレナが叫んだ。
「わたし、アイス食べていいですかぁ!?」
「え!?あるの!?」ももも目を輝かせる。
「ちょ、ちょっと待て、勝手に冷凍庫
一」
バタン。
「アイスないですぅううう!!」
「いや無いんかい!!」
「しょぼん……」
夕日が差し込む中、三人は畳の上に寝転んでいた。
「なんかさぁ…..」ももが言った。
「ナオトの家、落ち着くね」
「そうですう~。ロシアに帰りたくなくなりそう〜」
「いや、日本に来たばっかだろ…….」
静かな時間。騒がしくて、バカみたいで、それでもーどこか心地いい空間。
直人はふたりの寝顔を見ながら、ふと心の中でつぶやいた。
(…..もう、疲れた……💦)
そして、転校生エレナとの生活が始まる。