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夕方近く、ロビーはチェックインの客で混み合い始めた。
華は控えめに立ち位置を取り、律の動きを見守る。
彼は慣れた手つきで書類を確認し、的確に鍵を渡し、笑顔を崩さずにお客様へ声を掛けていた。
その表情は決して派手ではない。けれど、一つ一つの所作に無駄がなく、誠実さがにじんでいた。
「……すごい」
思わず小さく声が漏れる。自分に向けられるぶっきらぼうな態度とは違う、仕事に徹した律の姿。
その横顔を見て、華の胸の奥に小さな熱が灯った。
厳しいだけの人だと思っていた教育係は、誰よりも真剣に仕事に向き合っている――そのことを、初めて知った瞬間だった。