「で。どういうことかな? 透子ちゃん」
店に一人残っていると、店も落ち着いた中、美咲が声をかけてきた。
「どうして君は樹くんではなく涼さんと、このお店に一緒に来たのかな?ゆっくり説明してもらいましょうか」
「あっ。美咲。片づけは?」
「もう店終わらせるし、そんな片づけは修平にやらせとけばいいよ。ホラ、あんたはこっち来てじっくり話す」
「はい・・」
別の席に美咲と座ると、美咲が私に問いかける。
「そんな目で見なくても・・・」
「そりゃ見るでしょ。樹くんは?」
「あぁ。うん・・。樹は、ちょっと今忙しくて最近なかなか会えなくて」
「えっ?それであんたたち元サヤに戻ったってこと?」
「は?違うわ。そんなワケないでしょ」
「涼さんは、樹の代わりにこのプロジェクト引き継ぐためにこっち戻って来たらしくて、これから一緒に仕事することになって」
「えっ?樹くんなんで?」
「実は・・・樹、うちの社長の息子だったらしくて・・。この前その社長が体調悪くて倒れちゃって、今、その仕事を樹が社長代理でやってる」
「ふ~ん。なるほどね。そういうことか・・・」
「美咲、あんま驚いてないね」
「まぁね。あんたんとこの社長の息子だってこと知ってたし」
「えっ?知ってたの!?」
まさかの美咲からの発言。
私が知ってるより前から美咲知ってたってこと?
「なんで、美咲が知ってるのよ」
「あんたお忘れでない?樹くんは修平の昔からの後輩で昔から知ってる間柄だし、実際樹くんが透子と付き合う前から、いろんなこと修平相談乗ってきてたし」
「あっ、なるほど。そういうことですか・・」
「実際さ、今日みたいに透子と涼さんこの店通ってた時から樹くんもこの店同じ時来てたからね」
「えっ!そうなの!? 樹、その時の私達のこと見てたの・・?」
「そうね~。まだそれも樹くん透子の会社入る前だったと思うよ~。まだ学生の時でフラフラ適当に遊んでた時だったし、この店にも女の子と普通に遊びに来てたしね~」
昔の話とはいえ、なんか胸がチクッとする。
私の知らない時の樹が、知らない女性と・・。
成り立たない過去の樹へのヤキモチだなんて、意味ないけれど。
しかも学生の時・・・過去を振り返ると年齢差が大きく感じる。
「その頃の樹ってどんなだったの・・・?」
「何、気になる?(笑)」
「そりゃ、まぁ一応・・。てか、何よ、その嬉しそうな顔」
私のその言葉にニヤニヤする美咲に思わずツッコんでしまう。
「あの時の樹くんは、そうだね~。まぁ昔からあのカッコよさでほっとかない女はいないからさ~。しょっちゅう相手もコロコロ変えてたかな~」
おっと。思ってたより遊び人だった。
「でもあの子もさ、社長の息子ってことでいろいろ葛藤もあったみたいで、なかなかそういう辛さ吐き出せる相手もいなかったみたいだし、あの時はそういうことで自分のバランス取ってたんじゃないかな」
「そっか・・」
「その時の樹くん。こんな自分好きなワケじゃないからって言ってた。だから自分でもどうしていいかわからなかった時期だったと思うよ」
そういえば。
樹、自分好きじゃなかったって言ってたな。
だから私の言葉が響いたって言ってくれた。
「親の愛情がよくわからないから自分も女性への愛情がどういうものかわからないって、その時は言ってたような気がする」
私と出会う前の樹は、若くて不器用で。
でもきっとその時を必死に樹自身生きてきていたんだろうな。
「母親のことは好きだったみたいだけど、父親の愛情表現が理解出来ないらしくて、自分は父親みたいに愛する人を悲しませたくないって思ってたらしいんだけどね。でも、その当時は自分も誰も大切に出来なくて愛することが出来ないって、父親と同じようなことしてるんじゃないかって落ち込んでた時もあったよ」
私の知らない樹の話がどんどん出てくる。
「その時はそこまでの相手いなかったの?」
「多分ね。相手は本気になってたみたいだけど、樹くんはどうしても本気になれないって、樹くんなりには悩んでたみたいだけどね」
「なんか意外。私の知ってる樹と全然違うから」
「そりゃそうでしょ。今みたいに樹くんが誰かに真剣になったのって透子がきっかけなんだから」
「そう、なんだ・・?」
「透子が知らない時から、樹くんは透子のこと真剣に想ってたからね。透子に出会って好きになってからは、急にそれまでの女性たちも精算してどんどん真面目になって変わっていったから、私も正直ビックリしたんだよね」
「そこまで? 私自身は全然知らなかったのに」
「うん。しかも透子がまだ涼さんとのこと引きずってた時から、多分あれ樹くん透子のことずっと気にしてたからさ」
「どういうこと?」
「多分それまだ透子のこと好きになる前だったと思うんだけどさ」
「樹が?まだ私が出会う随分前ってこと?」
「そっ。結構、涼さんと透子が二人でいる時に、たまたま樹くん居合わせたこと多くて。その時はまだ樹くんいろんな子と付き合ってた時で。そんな樹くんから見るとさ、二人の姿が印象的だったみたいよ」
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