「えっ、なんで?」
「多分その当時いつも一緒に二人でいる姿が羨ましかったんじゃないかな」
「羨ましい?」
「あの時の樹くんは誰か一人大切にして愛したり出来ない子だったから。いつも見かける二人が幸せそうな姿が逆に気になったのかもね」
そんな時から樹は私と出会ってたってこと?
確かにあの時の私は涼さんといることがすべてで幸せだった。
「だから涼さんと別れてそれから一人で店来てた透子が、そうじゃなくなったのがやけに気になったみたい」
「そっか。樹はそんな頃からの私の歴史知っちゃってんのか」
「その頃なんじゃないかな。樹くんも今まで店で見かけていた透子と、自分が会社で出会った相手が同じ透子だったって一致して気が付いたのは」
「そう、なんだ・・」
「透子がたまたま店一人で来てた時、樹くんもいてね。その時、新人研修で出会った会社の先輩が透子かもって気付いたらしくて。それで私が樹くんに教えてあげたんだよね。自分の親友で、あの時の彼氏とはお別れしちゃったってこと」
私の知らない気付かなかった過去から、樹は私をこんなにも知っていた。
だけど、私は涼さんと、そしてその後はずっと一人で自分の人生を歩んできた。
その一方で、樹の人生にすでに私は存在していて。
交わらない所で、同じ時間を歩んでいた。
なんかすごく不思議な変な感覚。
「そこからかな。樹くん、すべてが一致して透子が気になりだしたのは。そこからは早かったよ。透子一途になるまで」
「全然知らなかった・・」
「私も正直苦しかったんだよね~。親友の透子に黙ってなきゃいけなかったからさ」
「そうだよ!なんで言ってくれなかったの!親友じゃん!」
「だからだよ」
「えっ?」
「だから言えなかった。涼さんの時に傷つく透子見て来て、今度こそは幸せになってほしかったから」
確かに。
あの時の私はボロボロで、美咲にも随分心配させてた。
「いくら修平の後輩だとはいえ、今までの樹くんを私は見て来てるから正直心配だった。大事な透子にいい加減な気持ちで接してほしくなかったし」
「美咲・・・」
そうだ。
美咲は、こうやっていつも自分以上に私のことを考えてくれていた。
「だから樹くんがどこまで真剣に透子を想ってるのか私は見極めなきゃいけなかったし、透子にも私がとやかく言わずに、自分の気持ちにちゃんと向き合って、これから歩んで行く相手を選んでほしかった」
美咲の言葉が優しく温かく胸に染みていく。
「だから樹くんにはもちろんいい加減な気持ちで透子に近付いたら許さないって釘刺しておいたし、自分の力と魅力でちゃんとモノにしなって、親友の私に期待するなって言ってやった」
「ふふっ。美咲らしい。男前な親友持って嬉しいよ」
「当たり前。何年あんたと親友やってきたと思ってんの」
「ありがとう。ちゃんと見守ってくれてて」
「まぁ樹くんも修平の可愛い後輩だし、私もあの子のこと気に入ってるからさ。実際、性根入れ替えて透子大事にしてくれるならって思ってたから、結果的に透子が自分で樹くん選んで付き合ったワケだし、私は正直ホッとして嬉しいワケよ」
美咲もこうやってずっと前から私を、私と樹のことを応援して見守ってくれていたんだと知って嬉しさが込み上げる。
「だからさ安心していいよ。樹くん、今ではちゃんと素敵に変身して、私がちゃんと保証出来るくらいホントに透子のこと真剣に好きだからさ」
「うん。わかった・・。 ありがと美咲」
誰に何を言われるより、長年親友してきた美咲に言われるのが一番説得力があって信じることが出来る。
「だから、もう涼さんのとこ戻っちゃダメだよ?透子」
「あっ、それは、ホント大丈夫」
今ではもうそうハッキリ言えるくらい、涼さんと樹への気持ちの違いがハッキリしている。
「ホントに―!?」
「ホントに。いや、最初はさ、私もまた昔の気持ち引きずっちゃうかなと思って、実際は会うの怖かったっていうのはあった」
「そりゃそうだよね」
「でもさ。いざ今回仕事仲間として会った時。ホントそれだけだった。今は自分でもビックリするくらい樹だけのことしか考えられない。仕事仲間として先輩として、涼さんのあの仕事出来る姿は正直尊敬出来るしすごいなって思う。でもさ、それと同時に同じように樹ならって思っちゃうんだよね。なんでも樹と比べて樹のこと考えちゃって・・私も相当重症だね(笑)」
「それだけ樹くん一色なら、心配ないね」
「でしょ?」
いつもの私と違うこと気付いて、それだけ伝えるだけで、美咲はわかってくれた。
「でも。今あんまり樹くんと会えてないんでしょ?そんな忙しいんだ?」
「みたいだね。これからどうなるのかも全然わかんないけどね」
そう。
この会えない時間がいつまで続くのか、どうなっていくのか。
このまま樹は社長として引き継いでいくのか、それともまた戻ってくるのかもどうかさえも。
そして、いつまでこのすれ違いと忙しさが続いて、いつの間にか樹の気持ちが私から離れていくかもわからない・・・。
だけど、今の私にはどうすることも出来ない・・・。
ただ、また樹が自分の元に戻って来てくれるのを願うことだけしか・・・。
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