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図書館の様な書斎に人間が一人、まるで玉座の様な椅子に足を組んで座っていた。
その人間の手には窓から射し込む月の姿を移すワイングラスが握られ、その中に血の様に赤いワインが流し込まれた。
その人間に近く者が一人。その一人は血で濡れたナイフを片手に持っていた。
その一人に気づいたのか、人間はとても低く、よく響く声で近く者の名を呼んだ。
「…本田 青」
本田青と呼ばれた女性は呼んだ者の名を呼び、更に口を開き、
「ロア……。なんでこんな時間に赤ワインなんて飲んでるんだ?」
「…ああ、一杯やるか?」
「…やめておく。…``仕事´´はこなしたぞ。
``家´´で寝させて貰うぞ」
「…ご自由に」
そうロアは言い切ると、ワイングラスの中の赤ワインを一気に飲み干した。本田はそれを見て生唾を飲み込む。
「…やっぱり、一杯だけ」
「…なんだ、意味の分からん奴だな」
「…悪かったな、意味の分からん奴で」
ロアに皮肉を言った後に用意されていた、と言っても過言ではない様なワイングラスに手を伸ばした。そして、そのワイングラスに赤ワインを注ぐ。
その後に口を開き、「なんで飲んでいるんだ?こんな時間に」そんな問いをぶつけた。
「…こんな日、こんな時間、こんな綺麗な月だから飲みたくなった…ただそれだけの話だ」
そのロアの答えに対し、即座に「よく分からない」そう発した。
ロアはその言葉を聞き、しばらくしてからフッと微笑むと、
「…分からなくてもいいさ。ただ、飲みたかったって話だからな」
そう言った。
ワイングラスのワインが小さな波紋を立てる。本田の顔には少し赤みが差し、酔いが回っている事が分かる。ふと、ロアが言葉を洩らした。
「…なんでこうも、赤ワインってのは血に見えるんだろうな」
「…お前が変なだけじゃないのか…?」
「…ナイフを貸せ」
ロアは本田から受け取ったナイフを手に取り、手の甲に十字架を刻む。その刻んだ箇所から血が滲み出た。
「…血も赤ワインの様だと思ってしまうと、血さえも飲みたくなる。…まるで新種の吸血鬼みたいだろう?」
「…そうか?…お前は何処かおかしいからなぁ…」
「…おかしい…ね。はは…そうかもな…」
そう言いながらロアは窓を覗く月を見る。
そして、また言葉を発する。
「…もしかしたらだが、俺は心も体も壊れているのかもしれないな」
「…その裏をつくと、片方だけが壊れているか、どちらも壊れていないか…だな」
本田の言葉にロアはしばし黙りこみ、血が未だに出続ける手の甲を舐めた。
「…あまり、美味しくはない」
「…なら、どれも壊れてないな。良かったじゃないか」
「……………」
心は、壊れているけどな。