``なんでも出来る子´´
なんで自分はこんな所で追われているだろう…そんな考えが脳の片隅に浮かぶ。俺はあの人を見た時、とてつもない恐怖に襲われた。だからと言って何故逃げたのか。
闇から現れ、暗闇の人と言うにふさわしいくらいに美しい女性から。
その人は屈託のない笑顔でナイフを片手に持っていた。艶やかな黒髪を背中まで垂らし、身を白いブラウスに包む。一見、白の天使にも見えた…でも、その小さな体の奥底に潜む莫大な殺意と使命感が感じれていた。
その女性が今、俺の喉元にナイフを突き立てている。微かに臭い路地の香りが急に花のシャンプーの様な香りになる。女性は口を開き、とても良い声で「……お前の名前は?」と聞く。その声につい俺は反応した。
「……か……竈門……善一……」
女性は満足そうに先程とは違う女神の様な微笑みを浮かべると俺から離れてまた喋る。
「……そうか。なら幾つか聞く。此方が聞いたものだけを答えろ。
まず始めに、お前は雑用・家事・勉強・運動……全て出来るか?」
「……で、出来ます……」
何故そんな事を聞くんだ?
「では次にお前は両親が好きか?」
「……好き……ですけど」
両親は正直言って好きな方だ。
あの人達は優しくも厳しく、良い人達だから。
「…お前にとって呪いの言葉はなんだ?」
……これは言えない。言う事は出来ない。
「……分かりません」
「分からない?」
女性の額に青筋が浮かぶ。また殺意が溢れだし始めた。
「分からない、なんて選択肢はない。お前には闇があるはずだ」
……闇?
「……そんなの、ありません」
「…あるんだよ。人には必ず闇がある。金、性欲、食欲……様々な欲求や考え、言葉に闇が存在する。お前にとって嫌な言葉はなんだ?」
「……褒められる事……``なんでも出来る子´´って言われて…楓夏といつも比べられる事です……」
「何が嫌なんだ?」
「……俺は」
俺はいつでも``なんでも出来る子´´とされてきた。俺が努力して褒められるのは楓夏ではなくいつも俺だった。それが辛かった。俺よりも楓夏の方が何倍も努力していた。なのに何故俺が褒められるのか。いつも大人は量より質を見た。俺が良い作品を1つ仕上げ、楓夏が良い作品と少し良い作品を1つずつ仕上げると、何故か俺ばかり褒められた。楓夏の事は褒めなかった。そんな楓夏を見る度に俺は辛くなった。
小学校は楓夏と違ったが、俺は常に``なんでも出来る子´´でなければいけなくなった。
それは維持出来たが、俺の事を良く思わない人からは常に妬まれた。そして更にそれは悪化し、大人が見えない所で``いじめ´´というものを受けた。助けを求めれば良かったのだろうが、誰にも言えぬまま小6となったが舞に助けられた。
「……随分とまぁ、キツいな」
女性がド直球な感想を放つ。それに対して俺は何も言えなかった。女性はナイフの刃を俺の左腕に這わせると右腕に優しくナイフを入れながら肌の繊維通りに十字架を刻む。少しの痛みに俺は顔をしかめつつ、その十字架から出る血を眺めた。
女性は刻み終わると「終わりの印だ」と言って俺の前から去った。
……十字架……何故十字架なんだ?そして何故肌の繊維通りに十字架を刻める?
俺の頭に謎が浮かぶが、それ以上は考えない事にした。
……何か、触れてはいけない様な、闇の存在を感じたから。
コメント
1件
そんなにッ、そんなにッ、本田さんはお綺麗なのですかッ! 是非、家の家政婦に((殴×666