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#異世界転移
花月夜れん
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設楽理沙
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耀聖(ようせい)
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耀聖(ようせい)
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「お代、これでいいかしら?」
官女から麗霞の手にこっそりと渡されたのは、一本の簪。
艶のある薄いあめ色をしており、先が葉の模様に彫られている。
「羊角製?」
「そうよ」
「いいわ。取引成立」
ニヤリと笑って今度は麗霞が、官女に1枚の紙を手渡した。
受け取った官女は紙を広げて中を確認するなり、目を大きく見開いて凝視している。
「やだ、すごい……こんな体位……」
「立ってっていうのもいいでしょ?」
「ええ、いいわ……ほんとに」
官女は紙から目を離すのは惜しい。まだ見ていたい。とでも言いたげに丁寧に紙を折りたたむと、小さな巾着袋から銅貨を数枚取り出して、麗霞の手のひらに乗せてきた。
「追加よ。受け取って」
「気に入ってくれたようでよかったわ。絶対に、誰にも見られないようにね」
「もちろんよ。こんなもの見られたらタダじゃ済まないもの」
そう言って大事そうに紙を懐へとしまった官女は、「じゃあね」と言って足早に去っていった。
麗霞がお代替わりの簪を受け取って渡したのは絵。
絵といってもただの絵ではない。
花や鳥が描かれていれば、なにもこんな風にコソコソと取引する必要は無いのだから。
「さて、もう一枚は……と」
懐にはもう一枚、麗霞が描かいた絵が納められている。こちらは先程とはまた別の女性に渡す用。
後宮で仕えている官女を特に女官と呼ぶのだが、依頼主は女官なので、後宮に入ったタイミングで渡さなければならない。
今日後宮に行った時に渡せるようにと懐にしまってあるが、それはまたあとで。とりあえず仕事を片付けに、麗霞は自分の持ち場である画院へと足を向けた。
くねくねと曲がる九曲橋を渡ると、池のほとりに置かれた大きな奇石と水面に浮かぶ蓮の葉が見える。途中にある亭を抜けさらに進み、ようやく目的の建物が見えてきた。
――宮廷画院。
そこは国内の書画に優れた者たちの集うところ。
皇族の肖像画制作を初めとして、壁画や観賞用の絵画、さらには行事の記録画から歴史画まで、ありとあらゆる絵画がここで制作されている。
栗麗霞はこの宮廷画院の官女として働きはじめて3年。19歳になる。
小さな頃から絵を描くのが好きで、初めは両親もこんな特技があるのなら、殿方にも気に入られるだろうと喜んで見ていた。
しかし麗霞が絵の世界で生きていこうと息巻くようになると、両親の態度は一変。
「女の子が絵でお金を稼ぐだって? 何を馬鹿なことを」
「良縁に恵まれ、旦那様の子供を産むことこそ女の幸せなのよ」
中央官である麗霞の父からは、女性が芸を売りお金を稼いで暮らすなど栗家の恥。とんでもない! と一蹴され、仕舞いには母に「皇宮で縁を掴んできなさい」と官女の登用試験を受けさせられた。
後宮に入れられるよりマシかと諦めて試験の募集要項をよく読めば、募集部門一覧に『宮廷画院』の文字が。
自分が筆をとり絵を描くとこは叶わずとも、せめて絵に携わる仕事に就きたい。
試験までに必死に勉強した麗霞は見事、宮廷画院の官女として採用され今に至る。
「えーと、そろそろ顔料の発注をしないとよね」
画院へと戻ってきた麗霞は本来の業務へと戻り、顔料の在庫チェックをしていく。
「辰砂と岩緑青はまだある……桂孔雀石は足した方がいいかな」
顔料の入った引き出しを開けては閉めてを繰り返し、一つ一つを確認。足した方が良い顔料を紙に書き付けて、発注してもらう為、上の人に見てもらう予定だ。
「あら、もうこんな時間? 姜弘様にそろそろお茶をお出ししないと」
姜弘は麗霞が主に付いている画人で、毎日申の刻に変わる時間ピッタリにお茶を出さないとへそを曲げる、気難しいおじいちゃんだ。今は後宮の壁画を制作していて、画院からは離れている。早く行って準備を始めないと間に合わない。
お茶の準備に取り掛かるため筆記具を片付けて、更に発注書をしまおうと引き出しを開けたところで麗霞の手が止まった。
発注書を見てもらう予定の上司も、制作状況を見るためにもしかしたら姜弘の所へ行っているかもしれない。
昨日見に行くようなことを言っていたし。ついでに持って行って渡しちゃおう。
紙を丁寧に折って懐に入れた麗霞は、姜弘お気に入りのお茶菓子を持って後宮へと向かった。
「姜弘様、お茶をお持ち致しました」
「おお、麗霞か。もう腹ぺこじゃわい」
「夾心もありますよ」
平たく薄い生地の間にたっぷりと木の実入りの黒あんが挟まった夾心は、姜弘の好きなお菓子の一つ。
「どれどれ、頂こうか」
姜弘は顔に無数の皺を寄せてクシャッと笑った。もうすぐ古希を迎えるが、腕はまだまだ衰えていない。宮の壁には見事な鶴が空を舞い、桃の花が咲き乱れている。
麗霞がお茶を入れている間にも姜弘は夾心を頬張り「うまい」と唸った。
「煜峰殿下もどうですかな? 麗霞の入れる茶は美味いですぞ。毒ならほら、入っていませんよ。こんなに食べてもピンピンしておりますわい」
やっぱりここにいた。麗霞があとで会おうと思っていた上司だ。
『殿下』と呼びかけられたその上司は、宦官用の官服を着用している。とは言っても一般的なものよりも少し豪華で、幞頭も被らず長い髪が顕になったまま。
「それではひとつ、頂きましょう」
その端正な顔にほほ笑みが浮かぶと、周りで見ている女官たちの頬は桃色に染まった。そんな周りの反応に、麗霞は心の中で「信じられない」と毒を吐く。
うえぇ、相手は宦官よ?
どんなに顔が良くたって宦官よ?
いくらなんでも男に飢えすぎでしょ。
上から目線な上、無礼を承知で言わせてもらえば、麗霞的に煜峰は顔はアリ、身体はナシだ。
下がないんじゃ、麗霞の心は寸分もときめかない。
そんな美男子煜峰は姜弘の隣に座り、一緒になって夾心を食べ始めた。
煜峰は『殿下』の敬称を付けて呼ばれているだけあって、正真正銘、現皇帝の子供。第23皇子であらせられる。
それでは何故宦官の服を着ているのかといえば、彼が宮刑を受けて浄身したから。まぁつまり、玉なしということ。玉どころか棒もない。ぜーんぶスッキリ取ってしまうらしいから。
煜峰が宮刑を受ける原因となったのは5年前。皇帝陛下の還暦祝いに宴が催された時のこと。
なんと煜峰が後宮の妃の一人とやらかしてしまったらしい。
還暦男性の妻と言ったって、若い妃は沢山いる。酒の勢いで父の妻に手をつけてしまった煜峰は、二度とそんな過ちは犯せないようにと、アソコを切り落とされてしまったのだ。
皇族の身分は剥奪されなかったものの、成人をとっくに迎えた今も王号が与えられることはなく、宮廷画院の宦官として働いているという、なんとも残念な皇子様なのである。
宦官と言えば後宮で働くか、皇帝のすぐ傍に侍るのが一般的だが、画院は後宮への出入りや皇族とのやり取りも多い。宦官も何人か置かれていて、煜峰は麗霞の上司になるのだ。
「それでは私はこれで」
姜弘と一服し終えた煜峰が立ち上がった。
「あっ、煜峰殿下。こちらを」
麗霞は懐から折りたたんだ紙を取り出した。足りないものを書き付けておいた発注書だ。
「発注書でございます。ご確認お願い致します」
「分かった。目を通しておく」
お茶出しも間に合ったし発注書も渡したしで、あとは画院に戻って雑用諸々を片付けるだけ。
あ、『例の絵』を注文者へ渡しに行くのも忘れないようにしないと。
後宮にある炊事場所で茶器を片付けていると、ドアの開く音が聞こえた。
「煜峰殿下。何か御用でしょうか」
炊事場所にわざわざ来るなんて、もう一杯お茶を飲みたいのだろうか?
いや、煜峰の表情を見ると怒っているとは少し違う、問い詰めるような眼差しでこちらを見つめてきている。
「今すぐ一緒に来なさい」
一言だけいわれたが、理由を聞ける雰囲気ではない。
まさか何か、ミスでもしちゃったのか。
冷や汗がうっすらと額に浮かんでくる。
「分かりました」とだけ返事をし、ついて行くと、煜峰が使っている画院の執務室へと通された。
他に人気はなく、煜峰と麗霞の2人きり。
何が起こるのか戦々恐々とする中、煜峰は先程麗霞が渡したと思われる紙を出して見せてきた。
「これを書いたのは麗霞、お前で間違いないな」
3つ折りにされていて中は見えないが、聞き方からしてさっき渡した紙だ。
麗霞が画材のチェックをして、足りない画材を書き付けただけの紙。
「はい」と頷き返すと、煜峰は折りたたまれた紙の端を持ってハラりと広げて見せた。
「あ゛……」
これまでの人生の中で初めて、出したこともないような声が出た。
嘘でしょ?! なんであの絵が煜峰の手に?
コメント
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みぅ🤍です、こんばんは🌙 読んだよ…第1話、めっちゃ気になる始まり方だった! 麗霞がこっそり官女に渡してた絵が、“春画”って察したとき「あっ…やっぱり!」ってなった笑 で、その発注書代わりに渡した紙がまさかのあの絵で、しかも煜峰殿下の手に渡ってるのヤバすぎる…🧎♀️ 「あ゛…」の声、私も心の中で叫んだよ。 宦官であり皇子って設定も熱いし、麗霞が絵に生きようとしてる芯の強さも好き。 軽快な語り口なのに、後宮の空気がちゃんと重くて、続きが待ち遠しい作品だなって思った。 また読みにきますね📖✨