テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#異世界転移
花月夜れん
2,559
設楽理沙
880
耀聖(ようせい)
269
耀聖(ようせい)
855
「お前が描いたんだな?」
「いえ、えーと……それは……」
まずい。やらかした……。
見せられた紙には、卓の上で絡み合う男女の絵が。
執務室へとやってきた彼女と口論している内に、心に秘めていた思いまでもを暴露。互いの本音を知った二人は、そのまま彼が仕事をしていた卓の上で――。という設定。
女性のはだけた服からは胸がこぼれ落ち、その先端部に男性が吸い付いている。男性の手は女性の背と太腿へ、女性の手は男性の頭へ。
女性の顔は蕩けそうなほどにウットリとして、見ているこちらの身体まで熱くなってくる……って、自分の描いた絵にドキドキしている場合じゃなーいっ!!
そう、麗霞が宮女たちに売り渡していたのは男女の性的な様子を描いた絵。いわゆる春画である。
煜峰の手にあの春画があるということは、麗霞の懐に今あるのが、本来渡すべき発注書。
何たる失態。さっさと渡してしまおうと持っていかずに、いつも通り画院に置いておいて、煜峰が来たタイミングで渡せばよかった。
「も……申し訳ございません。本来ならこちらをお渡しするべきところを、間違えてしまいました。殿下には大変ご不快な思いをさせてしまい……」
「私の質問の答えになっていない。お前が描いたもので間違いないな? 麗霞……いや、恋恋と呼ぶべきか?」
『恋恋』というのは麗霞が絵を描く際に使っている筆名。煜峰は絵の下に書かれた『恋恋』の署名を指さしながら、意地悪く口元を歪め笑っている。
「その様子だと、昼過ぎに永夏殿の裏で官女に渡していたのも春画であろう?」
そんな?! 見られてたの??
驚きを隠しきれない麗霞は、思わずヒュっと息を飲み込んだ。
「ちちち違います! その様なふしだらな絵を私が描いただなんて、そそそそんな訳ありません!! それに官女に渡していたのはただの手紙で、絵ではありません。私が個人的に楽しんでいた絵でございます!」
「そうか。なら後宮を含む宮中全ての宮女たちの品を改めさせて、万が一恋恋の署名がある絵があったならば、全て焼き払ってしまおう。まずはこの絵からだな」
煜峰が片手で持っていた紙の端に、もう片方の手を添えた。
「宮中の風紀を乱すこの様な絵、誰にも見られぬよう粉々に破りさいて……」
ダメ!
破かれる!!!
「いやぁぁぁ! ダメです! どうかご勘弁をぉ!!」
その絵は麗霞が描いた春画の中でもかなり出来のいい作品。依頼主はかなり羽振りのいい人なので、水墨画に着色までした力作なのだ。出来ることなら掛け軸にして飾っておきたいくらいなのに、それをビリビリに破いた挙句に燃やして炭にしてしまうなんて……!!
画院で働く煜峰は、画人の気持ちをよく心得えていた。自分の描いた絵をごみにされ捨てられるのは、死を賜わるより耐え難い苦痛だと。
絵を必死に取り返そうとする麗霞で遊ぶかのように、煜峰は絵を頭上高くに上げた。
「お願いします、煜峰殿下。その絵は私の宝なのです。何でもしますからお返し下さい」
「何でも……?」
何か思いついたような顔をした煜峰は顎に手をやり、さらに考え込むようにして麗霞の方を見てくる。
「そうだな……。正直に申せばこの絵を返し、官女に売り渡していたことも不問に処す。さらに今後お前が誰にどんな絵を売ろうと目を瞑ろう」
「本当ですか?!」
「ああ、もちろんだ。お前も何でもすると言ったこと、嘘ではないな?」
「はい。絵のためなら煜峰殿下の為に何でも致します。その絵は私が描きました。私が春画家の恋恋です」
何をさせられるのか分からないが後悔はない。これで春画たちが救われるのなら本望。
額を床に擦り付けたまま告白する麗霞に、煜峰は呆れ気味に息をついている。
「絵のためにそこまでするか、普通」
「私の絵を……恋恋の絵を待っている女性たちがいるのです」
ことの始まりは簡単。
絵を描くことを諦めきれない麗霞が手慰みに、ちょっと描いたいたずら書きを、友人の官女が気に入り欲しいと言ってきたことから始まった。
最初は男女がただ熱く見つめ合うだけの絵だったのだが、それが友人を介してあっという間に官女たちの間で評判となり、次々に描いて欲しいと依頼が来るように。
女性たちの要望は次第にエスカレートしていき、麗霞の妄想もエスカレート。指をからませ合う絵から口付けへ、口付けはやがて首筋から胸へ。今では真っ最中の絵も。
内容が内容だけに表立ってはいないが、今や宮中で働く女性たちの間では、春画の恋恋として名を馳せている。
「春画をか? なにもお前の描いたものでなくとも、金さえ出せばいくらでも買えるだろう」
「お言葉ですが、恋恋の描く春画はそこらの春画とは違います」
「ほう? 面白い。どこがどう違うのだ?」
すっと顔を上げると、煜峰と目が合った。
曲がりなりにも麗霞は春画家だ。描く絵にはそれなりの自信と誇りがある。
「巷で売られている春画が男性向けとするならば、恋恋の描く春画は女性向け。とでも言いましょうか」
男女の閨事を描いている点は同じでも、視点が違う。
一般的な春画は主に男性が楽しむ為に、あるいは嫁入り道具のひとつとして女性が見るもの。但しその場合でも、男性の為という事には変わりない。夫を喜ばせるために妻は閨事を学ぶのだから。
だから描かれている絵は男性が主体的。
女性の顔ももちろん笑っていたり恥じらっていたりはするのだが、表現が直接的でグロテスク。
時には男性のあそこの大きさが顔ほどもあったり、詳細に描かれているものだから、前後や最中のイチャイチャを重要視する女性としては、ただの性的欲求を満たす行為を描いているようにしか見えないのだ。
「いいですか、煜峰殿下。女性は愛のある房事が好きだし、したいのです。例え現実では親の決めた相手と結婚してことに及ぶとしても、絵の中でくらいは自分を思いっきり愛して乱してくれる男性と……と夢を見せてあげたいのです。ついでにその相手の男性が美形ならば言うことなし! 女性が見たい春画は性行為そのものだけではありません! 必要なのは恋愛です!!」
だいたい、春画の男は身体がたるみすぎ。女性は美人に描かれているのに、男側はお腹ダルダルの冴えない顔付きの人だったり、いい歳のおっさんだったりする。
別にそういう人がダメとか言いたいんじゃない。
男がムチムチの身体付きをした若い女性を好む人が多いように、女だってムキムキの筋肉質なイケメンに抱かれてみたいと思うのだ。
そんな女性たちの願いを絵の中で叶えてあげるのが、春画家『恋恋』なのである。
コメント
1件
いやもう第2話からガチ展開すぎるでしょ!!😭💕 麗霞が春画家「恋恋」ってバレて、しかも煜峰に絵を人質に取られるとか胸熱すぎる…「何でもしますから」って土下座するところ、絵への愛が伝わってきて泣ける。それに「女性向け春画にはロマンスが必要」って麗霞の持論、めっちゃ共感! 確かに既存の春画は男目線すぎるもんね…💦 煜峰のニヤニヤした余裕ある対応も気になるし、これから何をさせられるのか続きが気になりすぎる!! 次話も楽しみにしてます🌸✨