朝、憂鬱な気持ちでベッドから起き上がる。
「…ねむ」
また地獄のような1週間が始まるのか。
「霰〜遅刻するわよ〜」
「わかってる」
学校に行きたくない気持ちを押し殺して制服に腕を通す。
「おはよ、母さん」
「おはよう、霰」
「ちゃっちゃと朝ご飯食べちゃいなさい」
「うん」
母さんのご飯はやっぱりおいしい
ご飯を食べ終え、身支度をしてお弁当を持つ。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
母さんとそんな他愛もない会話をして家を出る。
「あ・ら・れ・ちゃ〜ん」
「っ、」
「おはよ〜!」
「…おはよ」
エンドウトア
この人は遠藤兎愛。
俗に言ういじめっ子だ。
「誰にも話してないよね?」
「話してないよ」
「今日も体育館裏で待ってるね♡」
「…ん」
(いつまであの人のストレス発散の道具にされたらいいんだ。)
そんな事をため息交じりに思いつつ学校へ行く。
行きたくないと思いながらも学校へ行く足は止まらない。
「…着いちゃった。」
下駄箱で上履きに履き替え教室を目指す…なんてことはせずに 教室には入りたくないから保健室に真っ先に向かう。
「…失礼します。」
「あら?霰さん、どうしたの?」
「…教室に居づらくて」
「そう、落ち着くまで休んでっていいからね。」
この人は養護教諭の甲斐先生
優しい性格で穏やかな雰囲気も相まって生徒に人気だ。
「…すいません、いつも押しかけて。」
「いいのよ。保健室は怪我をした人や体調の悪い人だけじゃなくて、心を休めたい人の場所でもあると私は思うの。」
こんな感じで、すっごく良い先生だ。
…あたしもこのくらい優しかったら良かったのに
「たまにはお話聴こうか?」
「…いえ、先生の時間を使ってもらうのは申し訳ないんで」
「そう、ゆっくり休んでね」
「はい」
あたしはいつもそうだ。
人が心配してくれてるのに、気にかけてくれるのに、その言葉を信じれなくて素っ気なく言葉を返してしまう。
1時間目が終わるチャイムが鳴る。
流石にずっと居るのは申し訳ない
嫌だけど教室に戻らなければ。
「…先生ありがとうございました。」
「いいえ、いいのよ。逆に休ませるくらいしか私には出来ないから。」
「それでは」
「ええ。授業頑張ってね。」
そんな先生の優しい言葉でさえ、嘘に聞こえしまう。
(…最低だな、あたし。)
そんな事を思いながらも教室へ向かう。
教室に入ると自分の机の隣に見知らぬ人が座っていた。
(誰だ?)
机に座る時にちらっと隣を見た。
透き通るように白い肌。
綺麗な濡れ羽色の長髪。
大きな目は宝石のように綺麗だ。
誰が見ても美少女だと言うであろうその人物は、あたしの存在に気がつくと話しかけてきた。
「あ、あの!」
「…何」
「私、転校してきた鳥飼紗羅って言います。あなたのお名前は…?」
「…薄氷霰」
「今日からよろしくお願いします。薄氷さん」
「…呼び捨てでいいよ。あと、よろしくする気はないから。」
「えっ、」
「ちょっと〜、霰ちゃ〜ん紗羅ちゃんが可哀想だよ〜?」
「…兎愛」
「転校してきて頑張って話しかけたんだからさぁ、もうちょっと優しく接してあげなよ〜」
優しく接せれなくなったのは何処のどいつのせいだと思ってる。
「…霰ちゃんさぁ、明らかに紗羅ちゃんに対応冷たいよね?なんで〜?」
「…別に」
「え〜そうかなぁ?」
「あ、あの!私は大丈夫なので!」
「そう〜?ならいいや」
「今日はいつもより酷くしてあげる」
そう、兎愛に耳打ちされた。
あぁ、今日はとことんついてない
「…最悪」
そんな事を呟きながらも、授業が始まる。
「…ねむ」
そんな独り言を呟く。
授業なんて受けなくてもある程度勉強したらその知識が身につくタイプなあたしはいつも授業中寝ていた。
でも、今日はそんな事より紗羅が気になった。
どうしてよく知りもしない相手に話しかけれる?
あたしは自分で言うのもあれだが、ピアスをつけていたり、髪は脱色したように白い。
髪は生まれつきだ。そして、目も赤色。これも生まれつき。
そんな容姿も相まって、昔からよく「蛇みたい」と言われてきた。
普通、そんな奴に話しかけようと思うか?
しかも知らない人だ。余計無理に決まってる。
あたしなら絶対無理だ。
そんな事を考えていると、いつの間にか授業は終わり、昼休みになっていた。
(屋上行こ)
やっぱり屋上は気持ちがいい。
風もちょうどよく吹いていて、お弁当を食べるのには適している。
そんな事を考えていると屋上の扉が開いた。
扉の傍には転校生が立っていた。
「あ、えっと、お邪魔でしたか?」
「…別に。」
そんな会話をすると、転校生は…いや、紗羅はあたしの隣に座ってきた。
「…なんで隣?」
「あ、すいません。」
「いや別に謝ってほしいわけじゃ、っていうか敬語やめて。なんか気になる」
「わかった、えっと、うすら…霰さんって呼んでもいい?」
「呼び捨てでいいって…」
「で、でも」
「あたしは別にいいから。さん付けとか落ち着かない。」
「霰…よろしくね。」
紗羅は陽だまりみたいな優しい笑顔を向けてそう言った。
「…よろしく。紗羅」
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