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#文芸アクション
大正
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バン、と部屋の扉を開けて飛び出し、潤の待つ車に飛び乗った。
「遅かったな」
「潤の言う通り、僕がバカだった。ほんと、大バカもいいとこだ」
「自覚したならいい。さっさと役所行こうぜ」
「行けなくなった」
「は? この期に及んで――」
「違う。翠子に盗られた」
「は!?」」
「僕がぼけっとしていたから、こんなことになったんだ。翠子は僕の宝物を隠す場所を昔から知っていたから、きっと、寝室に忍び込んで盗ったんだ」
「マジか。ご令嬢のくせに窃盗までやるなんて、なかなかイカれてるな」
「ほんと、そう思う」
「まあやり方はどうかと思うけれど、そのくらいなりふり構わず睦月もやってみたらどうだ?」
「…そうする。折り紙に送ってくれる?」
「ラジャ」
勇気を持とう。先生とまた会えたのだから、もしフラれたとしても、何度でも好きだと伝えればいい。翠子のようになってはいけないけれど、それでも、彼女は僕よりも勇気がある。ずっと僕に『好き』という気持ちを伝え続けていたのだから。
僕は、この世でいちばん先生が好きだ。
どんな女性よりも。
その気持ちを、ありったけの想いを伝えたい――
こうなる前にもっと勇気を持ちたかったけれど、怖くて心のブレーキをかけていた気がする。
投資も怖いがやってみなきゃわからない。失敗するかもしれない。でも、その時はなにがダメだったのかをちゃんと反省して、次の投資をしていくんだ。失敗はぜったいに避けられない。紆余曲折・一進一退を繰り返しながらやらなきゃいけない、投資の基本を忘れていた。
恋愛もリスクがつきものだ。そのリスクを怖がっていたら、なにも手に入らない。結局勇気をもって飛び込んだ者にしか手にすることはできないんだ!
そんな肝心なことを忘れていた。
結局、婚姻届を出せなかったのも怖かったから保身に走っていただけ。
先生に嫌われたらどうしようとか、好きになってもらえない気がするとか、マイナスの可能性ばかりを心配していた。
「睦月」
「なに?」
「今まででいちばんいい顔してる。男らしい」
「…そうかな」
「ああ。いい男の顔になった」
「頑張ってみるよ。だめでも、諦めずに」
「それでこそ男だ」
潤がニカっと笑ってくれた。僕もニカっと笑ってそれに応えた。
折り紙に着く。ドキドキと心が高揚するが、ぐっと抑えて店の前に立った。
いざ!
あと30分ほどで開店前なので、すでに折り紙には入店のための列ができていた。TENGAで宣伝した甲斐もあり、かつての人気が戻りつつある。
株と同じで人気が出てから手を出すのは遅い。波風の立っていないうちから企業の魅力に目を付けて買わなきゃいけない。高騰している最中に手を出すと、ほとんど火傷して終わることになる。まだ早いうちに気が付けばそうでもないけれど、爆騰している中に買ってしまったら、ほぼ99パーセント失敗する。
準備中ということは、先生は中にいるかな。
「高梨佑里香先生!!」
僕は恥ずかしげもなく大きな声で佑里香先生を呼んだ。厨房で忙しくしている彼女がぎょっとしたような顔でこちらを見た。最近雇ったパートさんや彼女のお父さんも僕に注目している。
「先生、僕と結婚して!!」
かつて勢いで言った小学生の時のように、僕は彼女にプロポーズを行った。誰が聞いていても構わない。僕の気持ちは先生に助けてもらったあの日から、一度も変わらない。
「ん? どうした睦月君。君はもう佑里香と結婚しているじゃないか。あっはっは」
のんびり屋のお義父さんが笑い出した。しかし厨房から佑里香先生が飛んで出てきた。「ちょっと来て」
裏に連れていかれた。久々に入った折り紙の裏口。相変わらずいろんな調理器具が置いてある。かつてはそのすべてがきちんと手入れされていたが、今は見る影もない。恐らく、コロナ禍や客離れ、翠子のせいで少しずつこうなっていったのだろう。でも、これからは違う。かつての輝きを取り戻すために、僕が来たんだ。
たとえ僕の想いが届かなくても、彼ら親子にはちゃんと恩を返したい。大金を渡すとかそういうことじゃなく、折り紙の基盤を整えることこそが、本当の恩返しになるのだと思った。
「先生、ごめん! 嫌な思いさせちゃったよね! 謝らせて!!」
「なんのこと? 今、仕事中なのに突然どうしたの」
先生は目も合わせてくれず、ただ迷惑そうにしていた。まずい。これは非常にまずい誤解をされている!
「翠子から、僕が提出していない婚姻届、見せられたでしょ? 違う?」
先生は激しく動揺した。やっぱり今朝様子がおかしかったのはそのせいだったんだ。
「先生、聞いて!」
「もう、今は忙しいから後にしてくれる? からかうならもっとマシな嘘をついてくれたらよかったのに」
「からかうって? 僕はいつだって真剣だよ! プロポーズしたのも本音だし、婚姻届を出さなかったのにも理由がある」
「理由って? 私とは結婚するに値しない女ってことよね」
「違うよ先生! こんな…突然再会して、急に僕のお嫁さんになって欲しいって言われても、先生にとっては迷惑な話かもしれないって思ったから…だから、一緒に過ごして、僕と結婚してもいいって先生が思ってくれたら、その時に役所に出しに行こうと思っていたんだ!」
「だったらそう言ってくれたらよかったのに!」
先生は珍しく声を荒げて怒った。
「ごめんね先生。僕、ずっと、ずっと、先生が好きだったから…。卑怯な手を使ってごめん! でも、僕みたいな年下のガキ、先生が相手してくれるなんて思っていなかったし…ずっと、片思いだったし…勇気出せなくて…ごめんなさい」
誠心誠意謝ったけれど、先生は許してくれるのかな……。
コメント
1件
マジで泣いた😭💕 睦月くんの「僕はこの世でいちばん先生が好きだ」って決意、投資の例えで自分を奮い立たせるところ、そして恥ずかしげもなく叫んだプロポーズ…全部が尊すぎて胸が締め付けられたよ…!! 先生が怒るのも当然だけど、それだけ本気で向き合ってくれてる証拠だよね。2人の今後が気になりすぎる…!! 結婚届、絶対出してほしい〜〜😭💍💕