テラーノベル
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※架空のオリキャラ:真野優斗(28)が出てきます
『さぁ!始まりました!今夜もとんでもNight!』
明るいスタジオセットから、軽快なテーマソングとともに画面に映し出されたのは、毎週高視聴率を誇る某有名トークバラエティ番組。司会の芸人が巧みな話術でゲストのプライベートや意外な交友関係を暴いていくスタイルで、毎回放送後にはSNSでトレンド入りするほどの人気番組だった。
『今夜もすっごいゲストが来てくれてますよ〜! 今夜のゲストは、俳優、アーティストと多方面に活躍する真野優斗さんと、変幻自在の大注目5人組ダンスボーカルグループM!LKのリーダー、吉田仁人さんです!』
観客の悲鳴と共に、長い足を軽い足取りでひな壇から降りてくる男性、真野優斗。
180センチの恵まれた身長に、衣装の上からでも分かる包容力を感じさせるがっしりとした体格。その圧巻のスタイルで華やかに登場する真野と、その後ろを照れくさそうに微笑みながらカメラに「よろしくお願いします〜。」とペコリと会釈して続く、我らがリーダーの吉田仁人。
中央のトークブースに着いたところで、MCの芸人がさっそく2人の関係性に切り込んでいく。
『いや〜豪華な2人が来てくれたわ!でも2人はアレやろ?吉田くんは真野くんの料理番組で共演経験があるやんな?当時SNSでまのじんとかって言われてめっちゃバズってたよな!吉田くんが物取ろうとしてすっ転んで真野さんに腰抱きされたやつ!』
『ありましたね〜!!』とMCが煽ると同時に、バン!と大きなテロップで自分が転びそうになったところを真野が吉田の腰にすっと手を回し片手を支えた動画を出され、吉田は思わず席を立つ。
『うわ、ちょ、やめてくださいよ!!!』
側から見たらまるで社交ダンスをしてるかのような1枚の絵になったポーズに観客からはいっそう大きな「キャー!」という黄色い声援が上がる。
『今ではすっかり友達なんやろ?』
『あははは!そうですよ〜。あのおっちょこちょい加減は可愛かったなぁー。あの吉田くんの反響がすごくて。あの後何回かゲストで来てくれたんだよね?そこから料理とソロ活動繋がりで、友だちって形で仲良くさせてもらってます。』
ね?と真野は隣にいる吉田に微笑み、照れくさそうに吉田が答える。
『ありがたいことに…。お互い生活の価値観が似てるからですかね?あとこの人めっちゃギターマニアなとことかあって、自慢したLINE送っきたり。番組用に試作した料理の失敗した写真も送ってくるよね。これ番組で出せないどエライやつ笑』
『マニアは仁人くんもでしょう笑!失敗と言えばこの間の番組で仁人くんの可愛い失敗エピソードを持ちネタにしてきたんだけど聞きます?』
『待って、優斗くん何言うつもり?!』
わちゃわちゃと楽しそうに掛け合う画面上の2人。そして、放送と同時にSNSのタイムラインは「#まのじん」のワードで爆発的な盛り上がりを見せていた。
そんな中、TV局から次のスタジオに移動中の車内で中某テレビ番組をリアルタイムでSNSの反応を見るのは、吉田仁人と同じグループで最年長である佐野勇斗。
某SNSにて
『うわ、可愛いって言いましたー!?まじまのじんやばい。』
『吉田さんの腰細すぎる件』
『2人の距離感やばすぎ!まのじんをゲストで呼んでくれて神』
『あの料理番組は神だったな〜ひたすら可愛い仁人くんを真野さんと拝む時間。また仁人くんをゲストで呼んでほしい』
『真野くんがただえでさえイケメンなのに吉田仁人が絡むと余計にイケメンになる現象をなんて言えばいいですか?』
『まのじん相性良すぎるでしょ』
『てか吉田さん!抱かれてる腰ほっそぉ!真野さんの手がでかいのか吉田さんの腰が細いのか』
『それはどっちもか』
『真野さんの仁人くんを見る目が優しすぎて滅』
(……何〜が『可愛い失敗エピソード』だよ。)
スマホの小さな画面の中で、真野の手が仁人の腰を抱きかかえる映像がリフレインされる。
スタジオの歓声。画面越しでも伝わってくる、真野の優しい眼差しと、それに対して顔を真っ赤にしてツッコむ仁人。
そして何より、佐野の胸を不快にざわつかせたのは、仁人が口にした「優斗くん」という呼び方と、二人の間の空気感だった。
それと気に入らないのがもうひとつ。
「……けッ。なにが『まのじん』だっつーの。……距離ちけぇんだよ。」
画面をスクロールすれば、SNSのタイムラインは「#まのじん」のワードで大盛り上がり。
『真野さんの仁人くんを見る目が優しい』『相性良すぎる』
次々と流れてくるファンたちのツイートに、佐野の眉間にはどんどん深いシワが寄っていく。
(仁人の奴、普段は俺がちょっと距離詰めただけで『ウザい』『近い』とか言ってくるくせに……なんであいつにはそんな顔すんの? 友達? 抱きかかえられて照れてんじゃねぇよ……てか腰触んなよ!)
湧き上がる感情の正体にまだ気づいていない佐野は、ただただ不機嫌さを隠せない。
「……佐野さ〜ん?スマホ壊れるくらい睨んでるけど大丈夫?」
助手席からひょっこり顔を出したのは、本日バラエティで一緒だったメンバーの塩﨑太智が完全にニヤニヤしながら振り返ってくる。
「勇斗ぉ、わかりやすすぎ。顔に『真野優斗むかつく、さのじんパクんな!』って書いてあるで。」
「書いてねぇわ! 別にむかついてねぇし! ただ……なんか仁人のやつ、ベタベタしすぎじゃね? アイドルとしての自覚っていうかさぁ。」
「……え、そこ? 笑」
身を乗り出して熱弁する佐野に、塩﨑は大きくため息をつく。
「まぁまぁ、吉田さんだって友達できて嬉しそうやん。真野さん大人で優しいから安心すんのちゃう?」
「……は?? 優しくたってあんなのビジネス……いや、ただの策略だろ!まのじんとか言って…仁人あいつ、すぐ騙されるから!」
「……お前さぁ。」
必死に真野の悪口を探そうとする佐野を見て、塩﨑は心底呆れ果てた顔で呟いた。
「ほんと、自分の気持ちに鈍感な男って見ててイライラするわ〜。仁人が誰と仲良くしようが自由だし、佐野さんにそこまで嫉妬される筋合いないやろ。」
「し、嫉妬してねぇわ!! 俺はグループのバランスを心配して……!」
「はいはい。早く素直にならんと、マジで仁人取られるで〜。」
「……取られるって何だよ! おい太智! 説明しろよ!」
後部座席で一人キーキー騒ぐ佐野を、塩﨑は「うるさ」とイヤホンを耳に突っ込んでスルーする。
あからさまにモヤモヤを撒き散らす佐野に、塩﨑は呆れるのと同時にさのじんに関わるのが面倒くさくなりそれ以上突っ込むのはやめた。
(さのじんめんどくさぁ…。これ、どっちの感情かわからんけど無自覚で嫉妬はしてんな……。)
今日は久しぶりに、M!LK全員でYouTubeの動画撮影を行う日だった。撮影が行われるスタジオの楽屋には、朝から5人揃って集合することになっていた。
佐野は楽屋に向かいながらふと息をつく。
(まのじんか…。)
吉田と佐野はファンからも「夫婦」なんて呼ばれるくらいの信頼関係。
結成初期の右も左もわからなかった頃から、苦しいことも悔しいことも一緒に乗り越えてきた一番近くの相棒。言葉にしなくたって、仁人が何を考えているかくらい全部わかっていた。
もちろんグループ内での仁人のコンビはどれも人気だ。
山中との「YJ」、曽野との「そのじん」、塩﨑との「塩レモン」。どれも仲が良いからこその空気感があって、佐野もそれは微笑ましく見ていた。
だけど、自分と仁人は違う。最年長とリーダーとして、グループの土台を支え合ってきた確固たる絆があるはずだった。
それなのに——ぽっと出の男に「まのじん」なんて言われて、世間からニコイチ扱いされているのが、たまらなく腹が立つ。
(ていうか『真野優斗』って名前も俺とかぶってて余計むかつくわ……。)
「まのじん」なんて騒がれる前までの、二人のやり取りを思い出してもう一度ため息をつく。
「ねぇ仁人。桃のゼリーあげるよ。仁人好きだろ?」
「えっ!どうしたのこれ。」
「さっきまでのバラエティでさ、スタッフさんにおすすめのフルーツ専門店を紹介されたんだよね。1番人気が桃のゼリーでさぁ、桃見たら仁人の顔浮かんじゃって。あ、閉店間際でラスイチだったから皆には内緒な?」
佐野が自分達メンバーの好物を買ってくることはよくあるが、こうもさらっと『仁人の顔が浮かんだから』と添えるのはさすがスマートすぎる。
(…このモテ男が…)と悪態つきながらも自分だけに買ってきてくれたことに吉田の胸はじんわり暖かくなっていた。
「…ありがとう。」
「……食べさせてあげようか?」
「はぁ!?うっざ!きっしょぉ!」
前言撤回。こいつは上げておいてすぐ俺をイジる。
ケラケラ笑いながら「か〜わいいね仁ちゃん笑。ほら、早く食べな。」と大きな手で差し出したスプーンとゼリーを素直に受け取る。
「ど?美味しい?」
一口食べた瞬間、吉田の丸い目がパッと輝き、まるで美味しいものを見つけた子供のように足をパタパタさせ始めた。メンバーだけにしか見せない、警戒心を完全に解いた無防備な表情。
「うん! めっちゃうまぁい!! 上に完熟の果肉がこれでもかってくらい入ってて、ジュレも二層になってるから……甘いのに全然くどくない。これ、無限にいけるやつだ……。」
夢中でスプーンを動かす姿に、佐野の目元が自然と柔らかくなる。
「食レポうますぎね?笑」
(あとなんだよその仕草、可愛すぎだろ……。)
佐野は思わず、吉田の髪を耳にかけるような優しい手つきで頭を撫でる。
耳がぴくっと反応して「ちょっと勇斗」と吉田が見上げてきた瞬間、楽屋のドアが開き塩﨑、山中、曽野が入ってきた。
「おはよぉー…ってうわ、カメラ回ってなくてもさのじんタイムやめてよ。」
「相変わらず仲良しやなぁ〜。」
「きっついもん見せんとってよ〜。てか仁人なに美味そうなもん食べてんの。」
メンバー3人に『またさのじん』と鬱陶しがられながらもケラケラ笑い合える日常。これがずっと続くと思ってた。
文句を言いながらも決して拒絶はせず、眉をひそめつつも受け入れてくれていた仁人。
ファンに見せる「ビジネス熟年夫婦」ではなく、誰の目もない楽屋だからこその、あの心地いい無自覚な距離感。
(あいつのあの顔も、ツッコミも、全部俺のものだったはずなのに……。)
楽屋のドアが近づくにつれて、佐野の胸のモヤモヤは重くなっていくばかりだった。
だが、いざ楽屋に入り、M!LK全員でのYouTube動画撮影が始まると、佐野の心配をよそに、いつもの「さのじん」の空気が自然と出来上がっていた。
楽屋での動画撮影が終わり、久々にカメラの前で佐野とガッツリ絡んだ吉田は、どこかホッとしたような、晴れやかな気持ちになっていた。
(……あー、やっぱり勇斗との掛け合いって楽しいな。)
ここ最近、お互いにソロの仕事が増えたり「まのじん」なんて騒がれたりして、佐野と二人きりで話す機会が自然と減っていた。
またSNSでみ!るきーずから「今日のさのじんヤバい」「距離感バグってる」と弄られるのは目に見えているけれど、それでもやっぱり、この独特な空気感が一番落ち着くのは事実だった。
そんな矢先、佐野の主演ドラマの制作が決定する。
原作は今大人気の少女漫画。
ズボラな干物女の主人公が、佐野が演じる家事完璧な年下の会社の後輩とひょんなとこから同居し恋に落ちるラブコメディだ。
そして——主人公を巡る恋のライバル役に抜擢されたのが、真野優斗だった。
顔合わせの当日。キャストやスタッフが入り混じる現場で、挨拶を交わす二人。
「佐野くんと一緒に共演できて光栄です。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
爽やかな笑みを浮かべる真野に対し、佐野は営業用の笑顔で頭を下げる。
そこへ、主演の女優がクスクスと笑いながら話しかけてきた。
「ふふ、二人って背格好も名前も似てるんだねぇ。顔とか雰囲気は全然違うけど、後ろから見たら双子みたいだよ。」
「……ですかねぇ笑」
(全然嬉しくねぇわ……!)と心の中で毒づく佐野。
その後、スタッフたちが打ち合わせで離れ、二人きりになった一瞬のタイミングだった。真野が何でもないような顔で佐野に歩み寄ってくる。
「……仁くんから聞いてる? 俺のこと。仲良くさせてもらってるって。」
「あー……はい。友達だって。いつも仁人がお世話になってます。」
「いえいえ。こちらこそ。実は佐野くんに会ったら、一回聞こうと思ってたことがあってね。仁くんってさ、」
そこまで聞いたところで、佐野の眉がピクッと跳ね上がった。
「……ちょ、待ってください。『仁くん』? 仁くんって呼んでるんですか?」
(……なんだよそれ、急に親しみやすさ全開かよ。)
「うん? 本人の許可は得てるよ。あ、それと俺たち同い年だからタメ口でいいよ? なんなら芸歴は俺の方が後輩だしね。」
「……いやいや、俳優業はそちらのほうが…って、まぁ、うん。……で、聞きたいことって何ですか?」
どこか余裕のある真野の態度に、佐野の胸の奥で黒い感情がふつふつと湧き上がる。
真野は佐野の目をまっすぐに見つめると、少しだけ声を落として言った。
「うん。佐野くんは『どっち』なのかなぁ、と思って。」
「……どっち、とは。」
「俺と同じなのか、違うのか。……仁くんを見る目。」
「は……?」
空気が一瞬で凍りつく。真野の瞳から「お兄さん」の優しさが消え、一人の男としての鋭い光が宿っていた。
「ぶっちゃけ、佐野くんが俺と仁くんの仲を面白くないって思ってるの、今日対面して確信したんだよね。」
「……」
「俺、本気で可愛いと思ってるんだ。仁くんのこと。友達だけど、ふとした時に見せてくる少し甘えてくる感じとかさ。『俺だけに見せてくれてるのかな』って思わせてくるずるいところ……正直、独り占めしたくなる。」
一歩も引かない真野の宣戦布告。
胸の奥を激しく揺さぶられながら、佐野は固く拳を握りしめた。
(……俺だけに見せてくれる仁人。そんなの、一番俺が知ってる。)
警戒心マックスのチワワみたいで、でも心はウサギみたいに繊細で。
俺の前だとリーダーの仮面を脱いで、弟みたいにくだらないボケをかましてくる。俺の反応を見ていたずらっ子みたいに笑って、そのくせ俺が悩んでる時は真っ先に気づいて、一番優しく甘やかしてくれる——。
(頼むから……誰のものにもならないでくれ。)
自分の感情の正体に、佐野が完全に気づかされた瞬間だった。
「……どう思ってもらって結構ですよ。……俺からはひとつだけ。仁人を傷つけたら絶対許さない。あいつはその辺の奴が気軽に触れていいような人間じゃないんで。」
佐野の瞳から温もりが完全に消え去り、肉食獣が獲物を仕留める直前のような鋭い光が宿る。
「……ふぅん。触れたらどうなるの?」
「潰す。」
「……え?」
「ぶっ潰す。どんな手を使っても。俺は自慢じゃないけど、有言実行の男ですよ。」
「……おぉ怖。……あと君の答えもわかっちゃったよ。でもそうだな、アプローチや告白は自由だよね? 仁くんがそれに答えてくれるのも自由でしょう?」
「ですね。あんたが告白するしないは自由ですし、そこは止めません。ただ仁人があんたにYESと言うことは絶対ないですよ。」
「……ふぅん、その自信はどこから?」
佐野はスッと目を細め、逃がさないと言わんばかりの視線で真野を見据えた。
身長はほぼ同じはずなのに、なんだこの凄まじい威圧感は。数々の映画やドラマで修羅場を演じ、修羅場の撮影や一癖ある役者たちとの共演経験も豊富な真野ですら、思わず足元がふらつきそうになる。
「——俺がいるから。」
ぞわっと背筋を走った鳥肌を隠すように、真野は思わず自分の腕をさすった。
(アイドルでも伊達に俳優業やってないな……。あれは目だけで人を殺せる目だ。)
後日、真野は吉田と二人で出かけることになった。
並んで街を歩いていると、真野が自然な動作で車道側へ立ち、吉田を歩道の内側へエスコートする。カフェに入り、二人で分けるケーキが運ばれてくれば、真野は迷わず大きい方のカットを吉田の前に差し出した。
(……あ。)
ふとした優しさのデジャヴに、吉田の口元が思わずほころぶ。佐野といる時もいつもそうだ。雑に見えて、歩道側を歩かせたり、美味い方の食べ物を当たり前に譲ってきたりする。
「仁くん、どうかした? 俺の顔に何か付いてる?」
「いや! なんでもない。……ただ、ちょっと『アイツ』と同じことするなぁと思って。背格好だけじゃなくて、そういう変なところが似てるんだよなぁ優斗くんと勇斗って。」
可笑しそうに笑う吉田に、真野は「へぇ……」と興味深そうに目を細めた。そして、ふと思い出したように現場での佐野の様子を口にする。
「そういえば、ドラマの現場で佐野くん見てるけど……あの人、かなり自分を追い込んで撮影に臨んでるよ。見ててハラハラするくらい。仁くん、心配じゃないの?」
「あー……。勇斗は仕事に対して自己追い込み型の極致みたいな人間だからね。限界まで自分を詰め込むのが趣味みたいなところがあるから、パンクしてないか正直気が気じゃないんだよ。……もう、リモートミーティング以外で直接会えてないのが10日も続いててさ。」
一息にそこまで口にしてから、吉田はハッと気づいたように「あ」と小さく声を漏らし、慌てて首を振った。
「……あ、いや、別に会えなくて寂しいとか、そういう幼い感情じゃないからね? 単に最年長が過労でクマでも作って倒れたら、グループのスケジュールとビジュアルのブランディングに多大な支障が出るっていう、至極合理的な心配だから。」
ペラペラと早口で防衛線を張る吉田を見て、真野は心の中で苦笑する。
(……10日会えないだけでそんなに饒舌になるほど、顔が見たくて寂しいんだな。)
カフェを出て通りを歩いていると、ある店舗の前で吉田の足がぴたりと止まった。
シックな外観の高級フルーツ専門店。
(あ……ここ。前に勇斗が買ってきてくれたお店だ。)
——『桃見たら仁人の顔浮かんじゃって。皆には内緒な?』
あの時の佐野の甘い声と、自分だけに買ってきてくれた桃のゼリーの味が鮮明に蘇る。ガラス越しに並ぶ桃を見つめながら、吉田は無意識にぽつりと呟いていた。
「……あのバカ。『俺の顔が浮かんだ』なんて言っちゃってさ……。」
(…俺もだよ、勇斗。俺だって、お前の顔が浮かんでるよ。)
そこまで言って、吉田は胸の奥がキュッと締め付けられるような感覚に襲われた。
「……俺、思ってた以上にアイツに会えなくて寂しいのかも。」
強がりを捨て、寂しそうに困り果てたような笑みを浮かべる吉田。
胸を刺すようなその切なく無防備な愛おしさに、真野は一瞬息を呑み——そして、試すように静かに手を伸ばしたのだった。
「……ねぇ。俺にしてみない……?」
「……え?」
「俺、誰よりも仁くんを幸せにする自信あるよ。」
一瞬ぽかんとした顔をした後、吉田は困ったように眉を八の字に下げた。その顔を見た瞬間、真野は察して優しく微笑む。
「……なんてね。ごめん、嘘。」
「え?」
「好きなのは本当だよ。でも『誰よりも幸せにする』は嘘。……佐野くんには負けるからなぁ。」
「えぇ?? あ、す、好き……!?」
「あはは、仁くんも大変だなぁ。あんな檻に入ってないような、周りを威嚇しまくる肉食獣に好かれて。もう捕まったら囲い込まれて一生逃げ出せないよ。」
「は、え、肉食獣……? 誰のこと……?」
いつもは頭の回転が早いのに、想定外の事態が起きると途端に語彙力が子供のように幼くなってしまう。そんなところも、真野から見れば本当に可愛らしかった。
「……まぁ、バックにあの佐野くんがいるなら諦めるよ。仁くん、食われる覚悟しておいた方がいいよ。」
「え、まじなんなの!?怖い!なんの話か1ミリもわかんない!!」
パニックになって声を張り上げる吉田の頭を、真野は最後にあやすようにポンポンと優しく叩いた。
「ふふ、じゃあそろそろ帰ろっか。駅まで送るよ。」
「えっ、あ……うん。サンキュ……。」
歩き出しながら、真野は横目で吉田の横顔をそっと見つめる。
(……この可愛さは、あの男も嫌ってほどわかってるんだろうな。……嫉妬に狂う気持ちもわかるわ。)
自分の手には負えないほど愛されている男の無自覚さに、真野はくすりと苦笑いを浮かべた。
駅で「じゃあね」と爽やかに手を振り、今度こそ未練を断ち切るように去っていく真野の背中を、吉田はただポカンと見送るのだった。
後編に続く
コメント
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最高でした!檻に入ってない肉食獣、チワワみたいに臆病でうさぎみたいに繊細など、表現の仕方が素敵だなーと思いました!💛さんが驚くと語彙力少なめになるところ、美味しいものを食べた時の反応や、🩷さんが自己追い込み型であることなど、解釈一致でとても読みやすかったです!腰細すぎるの同意です😭続きも楽しみにしています!
美月ゆめかだよ〜🌸 読了した感想、めっちゃ滾ったから語らせて!! まず「まのじん」と「さのじん」の対比、もう最高すぎん?? 佐野くんの嫉妬に気づいてないモヤモヤ感、顔に「むかついてます」って書いてあるの笑ったけど、それってつまりそれだけ仁人くんのこと大事ってことじゃん…!😭💕 真野さんの余裕ある大人アプローチもずるカッコよかったけど、 「俺がいるから」って言い放った佐野くんの目、マジで肉食獣だったね…。 そしてラストの仁人くんの「あのバカ」からの自覚し始める切なさ…もう感情が追いつかないよ〜!! 続きが気になりすぎて今夜眠れないかも! つぶ貝さん、尊い現場をありがとうございます…!!✨