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#高校生
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第39話 「背中を追うな」
2021年 五月。
夏の福岡大会まで、あと二か月。
柳城高校野球部は練習試合を重ねていた。
春のセンバツ出場で、県外の強豪校からも声が掛かる。
以前の柳城では考えられなかった。
その日も九州の強豪校との練習試合だった。
試合前。
一年生はボール磨きや整備。
塁も史陽もまだベンチ外だった。
だが二人とも不満は言わない。
やるべきことは分かっていた。
試合開始。
塁はブルペンで投球練習。
史陽はベンチ横でスコアを付ける。
福間監督は時折、その様子を見ていた。
試合は接戦。
柳城が一点を追う八回。
ショートが足を痛めた。
ベンチが慌ただしくなる。
「史陽」
突然名前を呼ばれる。
「はい!」
「行ってこい」
史陽は一瞬だけ目を見開いた。
そしてすぐに帽子を被る。
守備交代。
公式戦ではない。
それでも初めてのトップチーム。
緊張はあった。
しかし守備につくと消えた。
打球が飛ぶ。
ゴロ。
送球。
アウト。
また一つ。
また一つ。
特別なプレーではない。
だが確実だった。
試合後。
福間監督が呼ぶ。
「史陽」
「はい」
「兄貴みたいになろうとするな」
史陽は黙る。
みんなが兄の話をする。
甲子園。
福岡優勝。
小早川啓介。
どこへ行っても比較される。
福間監督は続けた。
「お前はお前や」
「兄貴の背中を追うな」
「自分の野球を作れ」
史陽は深く頭を下げた。
その言葉を聞いていた人物がいた。
塁だった。
帰り道。
双子は水路沿いを歩く。
夕焼けが水面に映る。
塁が口を開く。
「監督の言う通りやな」
史陽が笑う。
「珍しく真面目やな」
塁も笑った。
「兄ちゃんは兄ちゃんたい」
少し空を見上げる。
「でも負けたくはなか」
史陽は頷く。
それは同じだった。
追いかけるためじゃない。
超えるためでもない。
自分たちの甲子園を掴むため。
二人の挑戦は、まだ始まったばかりだった。
その頃、東京。
早川実業大学のグラウンド。
一人の捕手が黙々とノックを受けていた。
小早川啓介。
柳城から離れた場所で、自分の戦いを続けていた。
まだ誰も知らない。
数年後、この男が再び柳城へ戻ってくることを。
第39話 終