テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
1件
第40話、読み終えました。紅白戦の描写が非常に具体的で、塁の第一球がミットに突き刺さる場面から、確かな力強さが伝わってきました。何より印象的だったのは主将・柴田の「柳城の未来です」という言葉です。自分たちの最後の夏に、あえて後輩を推す選択——その覚悟と静かな説得力に、胸が熱くなりました。ベンチに入れなかった三年生の存在にも触れている点が、この作品の誠実さだと思います。
第40話 「最後の一枠」2021年 六月。
夏の福岡大会まで一か月。
柳城高校野球部。
福間監督は、頭を悩ませていた。
ベンチ入り二十人。
最後の一枠が決まらない。
三年生を入れるか。
将来性のある一年生を入れるか。
監督室には選手名簿が並んでいた。
その中にある名前。
小早川 塁。
小早川 史陽。
一年生。
実力は十分。
だが夏の大会は特別だった。
三年生にとって最後の夏。
経験も大切だった。
翌日。
紅白戦。
福間監督は一年生を多めに使った。
塁は七回から登板。
相手は上級生中心の打線。
マウンドに立つ。
深呼吸。
第一球。
ミットへ突き刺さる。
「おっ」
ベンチがざわつく。
二球目。
空振り。
三球目。
見逃し三振。
続く打者も打ち取る。
二回を無失点。
力は本物だった。
一方の史陽。
途中からショートへ入る。
難しい打球。
バント処理。
中継プレー。
すべてを落ち着いてこなす。
派手さはない。
だが安心感がある。
試合後。
三年生の主将・柴田が福間監督を訪ねる。
「監督」
「なんや」
柴田は少し迷った。
そして言った。
「一年の二人、ベンチ入れてください」
福間監督は黙って聞く。
「俺たちより上手いとかじゃないです」
「でも必要です」
「柳城の未来です」
静かな言葉だった。
福間監督は少し笑う。
「偉そうになったな」
柴田も笑った。
その夜。
ベンチ入りメンバー発表。
部室。
緊張が走る。
名前が読み上げられていく。
三年生。
二年生。
そして。
「小早川 塁」
塁が目を見開く。
続いて。
「小早川 史陽」
史陽も顔を上げた。
ベンチ入り決定。
一年生での夏の大会登録だった。
周囲が拍手する。
しかし。
最後に名前を呼ばれなかった三年生もいた。
うつむく姿。
泣き出す者。
福間監督は全員を見る。
「ベンチに入る二十人だけで戦うんやない」
静かな声。
「全員で甲子園へ行く」
誰も喋らなかった。
その言葉が本気だと知っていたからだ。
外では雨が降り始めていた。
夏が来る。
福岡大会が始まる。
そして柳城高校は、再び甲子園への挑戦を始める。
第40話 終
#高校生