コユキは興奮して喜んでいるが、善悪は一連の出来事に度肝を抜かれたままで考える。
――――驚いたでござる。 これは紛(まご)う事無き奇跡でござるな。 バチカンに申請したらこれ認定されるであろ? さすれば、参拝客が大挙して…… ガッポガッポでござ…… いやいやいや、まずは茶糖家の皆さんの救出でござったな。 しかし、これは相手の情報を得る為に大きく一歩前進したのでは? うん、そうでござる、イッツ ア ビッグステップでござる! しかし、僕ちんの半生ムニュだけじゃなくて、こんな小さな石にも悪魔って憑依するのでござるな? まあ、彼らで無くて少し残念でござるが…… それにしても、何故このタイミングで語り掛けて来たのでござろ? 何か理由があるのでござろうか? あの声が頭に届く直前何を話していたんであったか? 確か…… っ! もしかして! ……聞いてみるでござるか
ゴホンと一つ咳払いをした後、善悪が少し緊張気味に赤い石に語り掛けた。
「もしもし、あー、オルクス、君、かな? えー、もしかして君が声を掛けて来た理由って、こっちの肉、いやコユキ殿が目を瞑って(つぶって)いたのに攻撃を回避出来た事と、関係が有るのであろうか? いや、ありますか?」
聞いてみると、先程と同じ様に一瞬だけ白いオーラが輝きを増した。
「おぉ、先生イエスですよ、イエス! えーっと、じゃあ、それはオルクス君がアタシの体を遠隔操作して避けてくれたって事でいいのかな?」
コユキは一切緊張し無いらしく、親戚の子供に話し掛ける感じで質問をしている。
この問いに対して、赤い石オルクス(仮)は今度は輝く事無く、不自然にゴロっと転がって見せた。
「ノーって事でござろうな……」
呟いた後、不意に先程声を届けられた事を思い出した善悪は、改めて質問をし直す。
「えー、こちら善悪でござる。 オルクス君聞こえますか? 聞こえていたらさっきみたいに頭の中に直接答えを送って欲しいのでござる。 コユキ殿が視界に頼らず回避出来た理由を教えてくれると嬉しいでござる。 宜しくなのでござるよ。 オルクス君、オッケイ?」
|暫く《しばらく》待っていると、今度はオーラが不安定に揺らめいた後、テーブルの上をコロコロと前後に落ち着かなさそうに行ったり来たりし始めた。
その様子を見てコユキが言った。
「ええ、先生、なんか困ってるぽいじゃ無いですかー。 まだそんなに話せ無いんじゃ無いですかねぇ? どうオルクス君?」
そう言った途端、コロコロしていた動きがピタリと止まって、例の如く一度だけ輝いた。
「うんうん。 やっぱりそうだよね。 じゃあさ、何かアタシの事分かってるよって言葉、短くてもいいから送ってくれる? 無理だったらいいんだけど、どう?」
『……サン ……センチ』
コユキの頭の中に直接声が囁かれる。
「うほ♪ 先生、オルクス君アタシの事『サンセンチ』だって♪ やっぱ分かってるのよアタシの事!」
善悪も思わず身を乗り出して石に向かって話し出す。
「もしもし、オルクス君聞いてるでござるか? こちら善悪でござる。 拙者の事も分かっているようなら、何か送って欲しいでござる。 ギブミーパスワードでござる。 ドウゾ」
『……オウコク ……ツルギ』
「おおおお、んんん~~~~~~~~!」
「え? 何て? ねぇ先生何だって? 何て言ったんですかぁ?」
何やら、感極まっている善悪にコユキが興味津々で尋ねている。
どうやら、二人同時に語り掛けたり、一方だけだったり自由自在に選んでいるようである。
「某の事『オウコク、ツルギ』だって、えへへ♪」
「おおぉ!」
照れくさそうな善悪に、一々リアクションオーバーなコユキ。
善悪が間を置かずに呟いた。
「なんか、オルクス君、可愛いのでござるっ!!」
「ね! ね! 可愛いですよね! ね、先生! 可愛いですぅ~♪」
メチャクチャ嬉しそうな様子の二人は、いつの間にかお互いに手を繋いでキャッキャッと、子供のようにはしゃぎ始めていた。
そんな風に喜んでいると、頭の中に今度は声ではなく、注意を引くかのように想念が届いた。
言うなれば『!』と言った所か?
二人が即座にオルクス君(決定)に目を向けると、一瞬では有ったが今までと比べて、一際大きく輝いて見せた。
まるで、大事な事だからちゃんと聞くように促しているようだ。
注目している二人の頭に例の声が直接届いた。
『ハヤサ…… モット…… モット……』
「「っ!」」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!