テラーノベル
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若井は静かに元貴の話を聞き終えると、「そっかー……」とだけ呟いたあと、少し考えて言った。
「……涼ちゃんの家、行こっか。」
元貴は涙が止まらないまま、静かに頷いた。
レコーディングを終え、2人は並んで涼ちゃんの家のインターホンを押す。
ややあって、ぎこちなくドアが開いた。
そこには髪の乱れた涼ちゃんが立っていた。目にはまだ疲れや腫れぼったさが残っている。
「……またなんなの? 帰ってくれない?」
ぶっきらぼうな声に、ふたりとも一瞬戸惑う。
涼ちゃんはすぐにドアを閉めようとぼそっと背を向けかけるが、
若井が強い声で呼び止めた。
「おい!」
そして咄嗟に涼ちゃんの右腕を掴む。
「痛いっ!」
涼ちゃんが反射的に痛みを訴えた瞬間、若井はあわてて手を離す。
「ご、ごめん……」
一瞬、沈黙が落ちる。
涼ちゃんは顔をそむけ、
「もう……もう話しかけてこないで」
と言葉を押し絞ると、ドアをバタンと強く閉めてしまった。
外に残された若井と元貴は、しばらく呆然と立ち尽くす。
どうしたらいいのか。
もう何を言えばいいのかわからず、ただ重たい空気と自分たちの無力さだけが、その場に残されていた。
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