テラーノベル
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家に帰った涼ちゃんは、自室のベッドに座りこみ、そっと右腕の袖をまくった。
白い包帯が赤く染まりはじめている。
ほどいてみると、まだ新しいリスカの傷口から、血がじわりと滲んでいた。
その血を眺めながらも、涼ちゃんの目にはもう何の感情も浮かんでこない。
まるで世界から光が消えてしまったみたいに、ただぼんやりとした虚無だけが広がっていた。
— — —
一方、若井は「このままじゃだめだ」と思い続けた。
それから毎日、元貴と連れ立って涼ちゃんの家のインターホンを押しに行った。
「涼ちゃん、会おう?」「話そう?」
何度も呼びかけるが、返事はない。カーテンさえ揺れない日もあった。
それでも若井は、諦めずにインターホンを押し続けた。
何もできない自分が悔しくて、せめてここにいることだけは伝えたいと思った。
— — —
窓際に座る涼ちゃんは、外の景色をじっと眺めている。
だけどその瞳は、目の前に広がる世界を本当には見ていない。
何も感じたくない。
誰にも触れられたくない。
自分の世界に閉じこもって、ただ何も考えずにぼんやりと時間だけが過ぎていく。
そんな日々が、静かに、けれど重く重く流れていった。
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