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「好きな自分でいられる相手」
それを聞いたのは、本当に何気ない会話だった。
調査兵団の食堂。
任務明けの昼食。
同期たちとテーブルを囲んでいた時のことだった。
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「結局さ」
同期の一人がパンをちぎりながら言った。
「恋人って、一緒にいて楽しい相手がいいよな」
「それはそうだろ」
「いや、楽しいだけじゃなくて」
彼は少し考えるように視線を上げた。
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「好きな自分でいられる相手」
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〇〇の手が止まった。
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「好きな自分?」
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「そう」
同期は笑った。
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「背伸びしなくていい相手」
「無理しなくていい相手」
「自分らしく笑える相手」
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周囲が頷く。
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「分かる」
「気を遣い続けるの疲れるしな」
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何気ない雑談。
誰も深い意味で話していない。
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なのに。
その言葉だけが胸に残った。
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好きな自分でいられる相手。
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その日の夜。
〇〇は一人で考えていた。
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自分は今。
好きな自分でいられているだろうか。
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答えはすぐに出なかった。
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けれど。
思い返してしまう。
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「その兵士とあまり話すな」
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「今日は誰といた」
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「男に愛想を振りまくな」
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最初は心配されていると思った。
愛されていると思った。
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でも。
いつからだろう。
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人と話す前に考えるようになった。
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怒られないだろうか。
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嫌な顔をされないだろうか。
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誤解されないだろうか。
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昔の自分なら。
そんなこと考えなかった。
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誰とでも笑った。
誰とでも話した。
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それが自分だった。
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なのに今は。
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少しずつ。
少しずつ。
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自分を削っている。
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恋人の望む自分になろうとして。
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好きな自分ではなく。
好かれる自分になろうとしていた。
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気付いた瞬間。
胸が苦しくなった。
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自分は何をしているんだろう。
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好きだから付き合った。
憧れていたから。
嬉しかったから。
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それなのに。
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最近は会う前から緊張する。
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何を言おう。
何を言わない方がいいだろう。
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そんなことばかり考えている。
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それは本当に恋人なのだろうか。
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その数日後。
〇〇は訓練場で同期たちと話していた。
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笑い声が響く。
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昔みたいに。
自然に笑えた。
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肩の力が抜ける。
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好きな自分でいられる相手。
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頭の中で言葉が繰り返される。
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そして初めて考えた。
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このまま付き合い続けて。
自分は幸せになれるのだろうか。
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彼は悪い人じゃない。
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優しい時もある。
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好きになった理由だってちゃんとある。
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けれど。
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今の自分は。
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笑うことより。
気を遣うことの方が増えている。
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会いたいより。
緊張するが先に来る。
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そんな関係を。
恋と呼ぶのだろうか。
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その夜。
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恋人から届いた手紙を見つめながら。
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〇〇は長い時間返事を書けなかった。
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そして。
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生まれて初めて。
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「別れた方がいいのかもしれない」
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そう考えた。
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まだ決意ではない。
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まだ答えでもない。
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けれど確実に。
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〇〇の心は。
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今までとは違う方向へ動き始めていた。
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#リヴァイ兵長
みゅう

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