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#夢主
そら
255
みゅう

68
別れを切り出したのは、〇〇だった。
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兵舎裏。
夕暮れ。
初めて告白された場所。
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あの日は胸が高鳴った。
憧れの先輩だった。
格好よくて。
強くて。
優しくて。
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だから付き合った。
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後悔はしていない。
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けれど。
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「ごめんなさい」
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〇〇は真っ直ぐ相手を見た。
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「もう続けられない」
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先輩兵士の表情が固まる。
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「どうしてだ」
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その問いに。
〇〇は少しだけ考えた。
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責めたいわけじゃない。
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嫌いになったわけでもない。
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ただ。
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「私、自分じゃなくなってしまう気がするの」
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声が震える。
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「あなたといると、何を言えばいいのか分からなくなる」
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「何をしたら怒られるのか考えてしまう」
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「私……疲れちゃった」
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長い沈黙。
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先輩兵士は何か言おうとした。
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けれど。
結局言葉は出なかった。
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「……そうか」
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苦しそうな声だった。
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「分かった」
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それで終わった。
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一年にも満たない恋だった。
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帰り道。
不思議なくらい涙は出なかった。
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悲しいというより。
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肩の荷が下りた。
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そんな感覚だった。
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翌日。
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噂は兵団中に広がった。
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驚くほど早く。
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「あの二人別れたらしいぞ」
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「本当か?」
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「昨日だって」
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兵団に秘密など存在しない。
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昼にはほとんど全員が知っていた。
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そして。
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問題はそこからだった。
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「〇〇」
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食堂で呼び止められる。
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振り向く。
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顔見知りの兵士だった。
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「今度一緒に食事どう?」
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「え?」
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突然だった。
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翌日。
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「休日空いてる?」
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また別の兵士。
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さらに翌日。
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「前から気になってた」
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「俺と付き合わないか」
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〇〇は呆然とした。
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何が起きているのか分からない。
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元々人気はあった。
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だが今までは恋人がいた。
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だから皆遠慮していたのだ。
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その壁が消えた瞬間。
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一斉に動き出した。
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訓練場。
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食堂。
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廊下。
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どこへ行っても声を掛けられる。
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花を渡されたこともある。
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手紙をもらったこともある。
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新兵から先輩兵士まで。
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年齢も立場も関係ない。
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〇〇自身は完全に困惑していた。
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「なんでこんなことに……」
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同期たちは笑う。
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「むしろ今までが不思議だったんだよ」
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「恋人いたから皆我慢してただけ」
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「お前、自覚なさすぎ」
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〇〇はますます困る。
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そんなつもりは一切ない。
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誰かを期待させようとも思っていない。
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ただ普通に接していただけだ。
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なのに。
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周囲はそう見ていなかった。
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そして。
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その状況を最も不機嫌そうに見ている男がいた。
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リヴァイだった。
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「またか」
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訓練場の隅。
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遠くから見ている。
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知らない兵士が〇〇に話しかけている。
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緊張した顔の男。
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分かりやすすぎる。
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告白だ。
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今月何回目だ。
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リヴァイは数えるのをやめた。
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腹が立つ。
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理由は分かっている。
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ずっと好きだからだ。
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だが。
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今までは恋人がいた。
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だから自分を抑えられた。
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諦める理由があった。
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しかし今は違う。
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誰のものでもない。
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それなのに。
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他の男が群がる。
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「……鬱陶しい」
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珍しく本音が漏れた。
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気付いていた。
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自分でも驚くほど余裕がない。
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〇〇が誰かと話しているだけで気になる。
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誰かに笑いかけるだけで落ち着かない。
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そして何より。
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今までの恋人と別れた今。
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自分の中にあった最後の言い訳がなくなってしまった。
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好きだ。
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何年経っても。
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どうしようもなく。
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好きだ。
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けれど。
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肝心の〇〇は何も知らない。
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告白ラッシュに困惑しながら。
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「しばらく恋愛はいいかな……」
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なんて呑気なことを同期に話している。
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その言葉を聞いたリヴァイは。
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少しだけ安心し。
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そして少しだけ絶望した。
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自分にも。
まだ順番が回ってこない気がして。
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