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あ
16
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「ひっ、く……クソ……」
視界が涙で滲む。俺は自分の腕で何度も口元を擦りながら、誰もいない旧校舎の階段の踊り場までがむしゃらに走った。
4人の感触が残る唇が、気持ち悪くて、汚らわしくて仕方がない。
悔しさと屈辱で身体の震えが止まらなかった。
「……おい、いるま?」
不意に、すぐ近くから低く掠れた声が聞こえた。
ハッと顔を上げると、そこには昼休み中ずっと俺を探していたのだろう、なつが立っていた。
なつの瞳は、泣き腫らして口元を真っ赤に擦りむいている俺の姿を見て、驚愕に見開かれる。
「お前、なんで泣いて……その顔、何があったんだよ」
なつが一歩、俺に歩み寄る。その大きな手が、俺の肩に触れようと伸ばされた。
なつの顔を見た瞬間、張り詰めていた心の糸が切れそうになって、俺はすがりつきたい衝動に駆られる。
(助けて、なつ――)
そう叫びそうになった、まさにその時だった。
「だめじゃん、いるま?」
階段の上から、楽しげで、だけど心臓が凍りつくほど冷徹な声が響いた。
振り返ると、空き教室から俺を追ってきた蓮、拓海、大和、陸の4人が、階段を見下ろすようにぞろぞろと現れた。
リーダーの蓮が、俺の怯える顔を見てクスクスと笑う。
「俺たちの前を走って逃げ出すなんてさ。それに、せっかくのご褒美をそんなにゴシゴシ拭いちゃって……。お仕置き、まだ足りなかったのかな?」
「蓮……っ、」
俺の身体がカタカタと拒絶の震えを起こす。
なつは瞬時に俺の前に立ち、一軍の4人を殺気立った目で鋭く睨みつけた。
「テメェら……いるまに何した」
なつの低い声に、大和がため息をつきながらスマホを弄る。
「何したって、ただ楽しく遊んでただけだけど? なぁ、いるま。そんな陰キャに縋りついちゃってさ……シクフォニの他の奴らがどうなってもいいの? 俺たちの機嫌を損ねたら、明日には全員この学校にいられなくなるって、さっき話したばっかりだよね?」
陸がニヤニヤしながら、俺の制服の襟元を指差した。
「ほら、そいつに首輪(チョーカー)見られちゃうよ? 自分のせいで仲間が退学になってもいいなら、全部ぶちまければいいじゃん」
「っ……!」
人質。その最悪な言葉が、俺の脳裏を支配する。
なつの伸ばしかけた手が、すぐ近くにあるのに。
俺は唇を血が出るほど噛み締め、なつの手を思い切り振り払うようにして、自ら一軍の4人の元へと階段を上り始めた。
「……何でもねぇよ、なつ。ただの、じゃれ合いだ。お前には関係ねぇから、あっち行けよ」
震える声を無理やり作ってなつを突き放す。
階段を上りきった俺の肩を、拓海がガシッと抱き寄せ、蓮が俺の涙を指先でなぞって妖しく微笑んだ。
「よくできました。じゃあ、続きしよっか」
なつは、自分から4人の中に囚われにいってしまった俺の後ろ姿を、激しい怒りと悔しさ、そして今度こそ確信に満ちた瞳で見つめ返していた。
コメント
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第15話、読み終えました……胸がぎゅっとなる回でしたね。 いるまがなつにすがりたくても、「人質」を盾に自ら4人の元へ戻る選択をするシーン、すごく苦しかったです。震える声で「関係ねぇ」って突き放す台詞が切なくて、でもなつが確信に満ちた目で見つめてたのが、次に繋がる希望にも感じました。 ゆいさんの描く「助けたくても助けられない」もどかしさと、搾取される側の心理描写、本当に心に刺さります。続き、気になります……!