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コメント
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読み終わりました…!サーシャが結界の中に平然と入って、魔王の岩の上に「よいしょ」って座るシーン、めっちゃ好きです。あの軽さと強さのギャップがたまらない。エカテリーナの朝から下ネタぶっ込むツッコミどころも笑ったけど、魔導士たちが限界のなかでサーシャの一音で確信するラスト、痺れました。アズレイトの震える指先も、隠した笑顔も、全部刺さる…次はどうなるんだろう、ずっと見てたいです🤍
王宮の地下にある魔王を封じた結界の入口は、宮廷魔導士の徹底した監視下に置かれ、蟻一匹だって侵入を許されない。
しかし扉を守る青年魔導士は連日連夜、結界から溢れ出る瘴気を抑えるために駆り出された一人のよう
で、杖を支えにして立っているのがやっとの状態だ。
そんな彼に、アズレイトは威厳のある視線を向ける。
「ご苦労。聖女様をお連れした。扉を開けてくれ」
「あ、は……はいっ」
ヨロヨロしていた魔導士が、すぐにきりっとした姿勢になるのを見て、サーシャは目を丸くする。
これは王族に対する畏敬の念からくるものなのか、それともようやくこの状況から脱することができる安堵からくるものなのか。
そのどちらかなのか、両方なのかわからないけれど、鋼鉄でできた頑丈な扉は青年魔導士の解除の術によって開かれた。
扉の先にある結界の間は、想像を絶するカオスな状態だった。
古代文字で描かれた魔法陣の中央に、まるで黒曜石の塊のような大きな石がある。これこそが魔王が封印されている結界だ。
そこから絶え間なく黒い瘴気が湯気のように溢れているが、魔法陣から外に出ることはない。
まるで腕を伸ばすかのようにうごめく瘴気は、見えない壁に阻まれ、ある一定の距離で行き場を失い彷徨っている。
魔術師が瘴気を抑えるためにはこの方法しかないので、予測通りの光景だ。しかしその周辺は、どう言葉にしていいのかわからない。
宮廷魔導士たちは老いも若きも皆、杖を掲げて結界に魔力を陣に注いでいる。頬は削げ落ち、目に隈ができて、涙目だ。気力も体力も限界を通り越しているようで、プルプルと生まれたての小鹿状態で痛々しい。
王宮以外に散らばる魔導士たちを集めて交代制にしているようだが、休息中の魔導士たちは床で雑魚寝をしていたり、一心不乱に食べ物を胃の中に詰め込んでいたりする。
わずかな時間で体力と魔力を回復しないといけないから、どんな行動を取っていても咎められる筋合いはない。でも、”女王がいる前で”という前置きが付くと話は別だ。
(……いいのかなぁ)
お節介だとは思いつつもサーシャは、ソワソワと落ち着かない気持ちになってしまう。
この結界の間には、女王エカテリーナがいる。魔法陣のすぐ傍で、玉座とは言い難いどこにでもあるような椅子に腰かけて、足を組んで魔導士たちを見守っている。
でもどんな粗末な椅子であっても女王が着席すれば、そこはたちまち玉座となる。
これこそが人の上に立つ者のオーラなのだということをサーシャは改めて知った。
そして玉座の前で礼を欠いた行動を取っている魔導士たちが、そうとう追い詰められていることも。
エカテリーナも十分わかっているようで、魔導士たちを目にして不快な表情を浮かべることはしない。ただただ労わりの視線を向けるだけ。
その視線は、サーシャへと移り軽い驚きの色に変わった。
「随分と早起きをしたのだな、サーシャ。どうじゃ?我が息子は美味かったか?」
ソワソワしていたのは何処へやら。サーシャはうんざりした表情を作ってしまう。
いっそ早朝から下ネタをぶっ込んでくれたエカテリーナに対し、「陛下こそ早起きですね。やはり年を取ると、寝覚めは早くなるんですか?」と憎まれ口の一つでも叩いてやろうか。
そんな恐れ知らずな発想を胸の内に収めて、サーシャはエカテリーナの前に立つ。
「おはようございます。さっそく始めてもよろしいですか?」
主語を省いたサーシャの問いに、エカテリーナは小さく頷く。
そうすればサーシャは、身体の向きを変え、結界へと足を向けた。
魔法陣は瘴気が外に漏れないよう、魔王を封じている結界を覆うように見えない壁を作っているので、内側からも、外側からも術を解かなければ、立ち入ることができない。
しかしサーシャは魔導士の魔力を凌駕する聖女だ。何の抵抗も無く、そこへ足を踏み入れた。
魔導士一同は、思わず息を呑む。目の前の光景が信じられず、目を瞠った。
どこをどう見たって魔術など持ち合わせていない少女が、ごく自然に魔法陣の中に入ったのだから。
それだけではない。結界から溢れ出す瘴気は強い毒である。僅かでも触れれば、人体に多大な悪影響を及ぼす恐ろしいもの。
しかも瘴気を一点に集めた魔法陣の中は猛毒の塊だ。あっという間に死に至る。
そのはずなのに、サーシャは苦悶の表情を浮かべることも、身体をふらつかせることもしない。しっかりとした足取りで魔王を封印している岩の前に立つと、「よいしょ」と言いながらちょこんと腰かけた。
「ええええっ!?」
「ちょ、待てっ」
「いやいやいやいや、そんなことがっ」
まだ辛うじて体力が残っている魔導士たちは、最後の力を振り絞って驚きの声をあげた。
初日に謁見の間に同席していた老魔導士のロガーにいたっては、サーシャを呼び戻そうと自ら結界の中に入ろうとして、他の魔導士たちに羽交い絞めにされている。
そんな騒ぎが間近で行われているというのに、サーシャは竪琴の調弦をするのに忙しく、まったく気づいていない。
ゆっくりと時間をかけて調弦を終えたサーシャは、一度だけアズレイトに視線を向ける。彼は毅然とした姿でだったが、わずかに指先が震えていた。
でもサーシャと目が合うと、不安な気持ちを隠してニコリと笑みを浮かべる。
(まったくもう。こんな時まで嘘つきなんだから)
こんなことなら、地下に向かう時に「絶対に大丈夫」と励ましてあげれば良かった。
小さな後悔を振り切るように、サーシャは竪琴を膝に置くと目を閉じて、息を整える。
聖女の浄化に失敗はない。だって聖女は、神様が悪しきものを浄化をするために造った存在なのだから。
祈りを込めて、サーシャは竪琴の弦を弾く。
──ポロン……。
たった一音奏でただけで、サーシャがこの国を救う唯一無二の存在であることを、ここにいる誰もが確信した。