「前川くん、前行った時にその菜津?さんが書いたとされる住所が特定できたよ。」
「ほ、本当ですか?」
「あぁ、だけど…」
「だけど?」
「ここも、幽霊が出るって噂の心霊スポットらしいね〜…。」
「えぇ…」
××県××××町の人形旅館。その旅館の一番端の部屋に昔、ピエロ依存症の女の子がいたとされる。その女の子はピエロの人形を肌身離さず持っていた。そして、いつしかその女の子は姿を消した。そのピエロが今でもその部屋に残っているが、薄気味悪くて誰もその部屋に泊まったことはない…。
このサイトにはこのぐらいしか載っていなかった。他のYohoo知恵袋とかを調べてみたけど、適当な考察しかされておらず、まだ誰もその心霊スポットに行ったことがないらしい。
「前川くん。おかしいと思わないかい?」
「え?」
「ここは゛幽霊がでる ゛って言われてるんだよ?なのに、幽霊とかの写真とかもないし、なんなら全員行ったことがない。まだ誰も行ったことがないならその旅館の事自体知らないと思うし、もし私達が行ってみて、普通の旅館だったら、単なる風評被害に過ぎない。 」
「た、確かに。確定した証拠もないですし…。それに、ここは本当に誰かが利用したことあるんですか?」
「確かに、それも分からないね。とりあえず、行ってみようか」
「え?ディレクターも行くんですか?」
「あぁ、私も行かないとね。さすがに一泊二日も心霊スポットに行かせてしまったら色んな意味で労働基準法に引っかかる気がしてね…。さすがに眠れないよ…。」
「そ、そうですか…」
思いっきり深夜帯に心スポ行かせて、泥まみれになって帰ってこさせる人に労働基準法についてうんたらかんたら言われたくないな…。まぁ僕の職業的には大丈夫なのかもだけど。
「てことだから、明日の午前7時に集合ね」
「はい…。」
ーーーーーーーー
「よし、それじゃあ行こうか」
「はい。もし何か気になる物があれば言ってください。写真を撮っておくので。」
「ふふっありがとう。」
ディレクターは実は霊感がかなりある。ごく稀に、壁の方を見つめていた時があり、「どうしたんですか?」と言葉を投げかけたら、ディレクターが「なんかねー…。気になる」とだけ話したので霊媒師の人に見てもらったら、そこに女の手だけの死霊があったらしい…。
ただ、ディレクターには難点がある。それはボーッとしてしまうこと。心霊スポットでボーッとしてしまったら。トンネルの時と同じようになった時、気になる所がありすぎて、逃げられないかもしれない。だから僕をレポーターとしてお願いしたんだとか。
電車に揺られながら約2時間。ようやく××県に到着した。
「さすが少し山の方なだけあって、空気がいいね。でも少し湿気があるかも?」
「ここの地方はまだ梅雨明けしてないんですよ。だからまだジメジメしてるんです。」
「へー。そうなんだ。」
頓着しない返事を聞く。ディレクターは何をしてても比較的無頓着で無関心。そんな人がなんでディレクターをやっているのだろうとつくづく思う。
「貴方たち、見かけない顔だね?」
「あ、こんにちは。」
女性だ。こ××××町に住んでる人だろうか…。
「ここの町に来たってことは、人形旅館の事を調査するつもりだったの?」
「あ、はい。」
「……人形旅館の事、何か知ってるの?」
「え、えぇっと」
どうしよう。サイトや知恵袋など、調べれそうな所は調べ尽くしたけど、色々と謎が多い場所で締めくくられていた。
「知ってますよ。多少は調べたので。」
ディレクターが口を開ける。一知半解で得意気に話すのはどうかと思うのだけれど…。
「ふーん。まあまあ知ってるじゃん。てかさ聞いた?」
「?」
「その表情。まだ聞いてないっぽいね。人形旅館を経営してる岩崎さんの娘さんがこの間、行方不明になったらしいよ…。ひゃー怖いねー。」
「………それって菜津さんの事ですか?」
「うん。あれ?知ってたの?」
「はい、前川くんがつい最近レp 」
「はい、僕達ここの事について軽く調べてたので。」
「そ、そうか」
ディレクターの口を手で塞ぐ。このことを知られては色々と面倒臭くなるからな。
「と、とりあえず、道はあっちだから。テレビの応援はしないけど、頑張ってね。」
「あ、ありがとうございます。」
マップを見ると人形旅館まで後1キロだった。そのぐらいの距離間なら全然大したこと無さそうだな。
「…………?」
「どうかしましたか?」
ディレクターの口元にあった僕の手を払って、1点を見つめている。きっとディレクターの霊感が働いているのだろう。
「ここ、写真撮って。なんかいる」
「わかりました。」
カシャ
田舎の自然豊かな音に反するかのようにスマホのシャッター音が響く。そこには案の定何も写ってなかったが…。
「うんうん。よく撮れてる。」
「あれ? 見えるんですか?」
「たまにねー。霊媒師さんとかに見てもらったらわかると思うよ。しっかりとではないけど、写ってはいる。霊感が強い人なら全然一般人でも分かりそう」
「へ、へー。じゃあ僕は霊感が弱いということで」
「そうなるね。まぁそっちの方が楽なんだけど。」
写真を見返してみる。写っているのか? 僕にはただ生い茂った草木しか見えない。
「あ、着いたじゃん。ラッキー 早かったね」
「ここが、旅館?」
心霊スポットにしてはなんだか、ごく普通の旅館って雰囲気がした。
「入ろうか」
ガラガラガラ
「いらっしゃいませ。人形旅館へようこそ。」
「あの、2名なんですけど空いてますか?」
「あー…今では一番奥の端の部屋しか空いてませんねー。」
「!」
「それでもいいなら…」
「はい、問題ないです。」
「それでは先に、何処に何があるのかを説明して周りますね。」
「ご丁寧にありがとうございます。」
本当に普通の旅館だ。サイトの情報は虚偽だったのか?
「前川くん」
「?」
「なんかありそうだね。」
「え?あ、あぁ」
油断してはダメだ。猫を被って仲の良い夫婦を演じてるだけかもしれない。第一に、この人は菜津さんのお母さんだ。まだ不確かだけど、きっとそう。あの子に類似するところがある。お母さんと喧嘩したと言うけど、普通家を出てったなら、追いかけるべきだ。まずそこからおかしい。……。
「では、最後に寝室です。ゆっくりしてってください。 」
「ありがとうございます。」
「はい。それでは。失礼します。」
ガチャン
「………ここって!」
「そうみたいだね。運の女神が微笑んだのか、最後くらい楽しませてやろうと死神がからかったのか…。ここがピエロの人形の部屋だったみたいだね。」
あたりを見渡せばピエロの人形で部屋が埋め尽くされている。大きな…僕達とほとんど同じくらいのピエロもいれば、頭だけの奇形なピエロもいる。
「ねぇ、ぬいぐるみとか人形を使った殺人事件の事知ってる? 」
突然ディレクターが話始めた。
「え? あぁハローキ〇ィーのやつなら…。」
「なんとなくそれに近いのかなって。」
「と言うと?」
「ここの明確な情報がないのは、それだけ悲惨な事件があったって事かも知れない。」
「でも、〇chでも漁りましたが明確な情報がありませんでしたよ?」
「てか、まずここの情報がない時点で少しおかしいんだけどね。まず、旅館を開業するにも、色んな人が必要になるんだ。最初に旅館業法窓口とかに相談しに行くのが普通なんだけど…。ここはなんだか…。少し大きな家に人を泊まらせているって感じがするんだよね…。」
「つまり、ディレクターはここを旅館ではなく、ただの大きい家と? 」
「地区内の人々を沢山泊まらせてきたから、ここを旅館としようってあの人達は思って、何も決めずにできたんじゃないか?」
「それはそうと、ここを利用したことある人が地区内の人だけだったら、その幽霊の噂を立てたもの、地区内の人って事になりますよね?」
「そうなるね。誰がどうゆう目的で、サイトを書いたのか気になるね。しかもここはあのトンネルと近いし…。きっと何かしらの関連性はあるよ。」
「菜津ちゃんの事…トンネルとの関連性…情報の発信源…旅館の事…多いですね。」
「あぁ、でも気になる事を全部探してしまうと、私達は怪しまれてしまうし、警察のお世話になるかもしれない。今は、ピエロの事だけを集中しようか。」
「わかりました。ところでなんですけど…温泉行きません?」
「いいね。頭を使ったんだ。リフレッシュしに行こう。」
僕達は部屋から出た。その瞬間誰かの嗚咽が鼓膜を貫いた。
「う…凄い悲鳴ですね。…?ディレクター?」
「………」
体に電流が流れたような顔をしている。
「ディレクター…なにかわかります?」
「…なんとなくは…ね。あくまで私の憶測なんだけどね。温泉は人が多いから、寝る前にまた話すね。」
「わかりました。」
そうして僕達は温泉に浸かりに行った。思いの外浴場は広く、何故か僕達だけだった。貸切にした記憶もないし…女性だけがここを利用しているのかなーなんて考えも頭によぎった。
「ディレクター、タバコ吸うんですね。」
「まぁね〜」
温泉でゆっくりした後に軽く外に出てみた。空を見上げてみたらピンクと青色の雲だった。所々、青が強めの紫色になっており幻想的だ。山もあり星も所々見え始めている。月はでていないが、こうゆう風景を見ると風光明媚な自然景観は良いとつくづく思う。
「空がピンクって珍しいですよね? 」
「確かに、私達が住んでるところでは中々ないね。」
「なんでピンクとか青色とかになるんですかね? 」
「ビーナスベルトだよ。日の出前や日没直後に,太陽と反対側の空にピンク色の帯が見られる現象らしいね。私も細かいことはよくわかんないんだけどね。」
「へー…物知りですね。」
「前川くんよりかは、長生きしてるからねー。はぁ、もし前川くんが女性だったら、凄いロマンチックになってたのになー…。」
「ディレクターまだ結婚してなかったんですね。」
「そうだよ? 私にも彼女が欲しい物だねー…」
「ここに来た目的忘れてませんよね?」
「もちろん忘れてないよ。うぅ…それにしても、蒸し暑いね、汗かきそうだし戻ろっか。」
「そうですね。」
その後、夕飯を頂いて、僕達は寝床に着いた。今日は意外と何も無かった気がする。一泊二日だから、普通に友人と小旅行に来た感じがして、逆に楽しい…。っていけない、ここは心霊スポットなんだ。夜に何が来てもおかしくない。
「幽霊は草木も眠る丑三つ時…つまり、深夜の午前2時から2時半にかけて活動するらしいよ?」
「そうなんですね。だから僕に行かせた時が深夜の2時だったのか…」
「そうそう。あ、話の続きしていい?」
「あ、はいどうぞ。」
つい忘れていた。
温泉に入る前部屋から出た時に後で話すと言っていたなそういえば…。
「完結に話すよ? 私は人形の中に゛遺体 ゛が入っていると思う。」
「それって…まさか本当にぬいぐるみを使った殺人事件って事ですか?」
「ああ、そのまさかだ。だけど、これはちょーっとだけ仕込んである。現にほら、私達のいるこの空間は血生臭くないだろ?」
「確かに…じゃあ遺体って」
「呪いって言うべきかな…なんとゆーか…。そうだ、この人形、どう感じる?」
「どうってそりゃあ、気味悪いですよ。ピエロの顔だけなんですから。」
「この中、少しだけ固まってる物があるはず、あるかい?」
恐る恐るピエロのぬいぐるみに手を埋めてみる。そうするとなにか固形物のような物が手に当たった。
「あ…なんとなく…。あるような気がします。なんか長細い?」
「そうか…。多分僕達がいるこのピエロ部屋は、足の骨があるっぽいね…。」
「足の骨…」
ディレクターの考えは驚異的なものだ。ディレクターが実際にトンネルや廃墟の学校に行った訳ではないのに、僕が収穫したものを自分の記憶に取り込んで、考察し、実行させる。しかもあまり外れたことがない。言葉にちゃんと筋が通っていて、正当性がある。ネットの適当な考察とは違う…。もし、ディレクターが淡々と話しているこの憶測があっていたら、凄い事件になりそう…。
「ごめんね。冗長してしまって。完結に話すね。」
「はい…。」
「前川くんがトンネルであった、岩崎菜津ちゃん、その子の遺体が各部屋のどこかしらの人形にバラバラに隠されている。それを隠すべく、夫婦は行方不明という事にした。だから、ピエロ依存症の女の子は菜津ちゃんになる。実際には幽霊はここにはでない。」
「え…? で、でもそれじゃあトンネルであったあの子は!」
「幽霊って事になるね。それにしても、自分の居場所をメモ用紙で伝えるなんて…。前川くんは優しい霊にあったんだね。それと、女の子の死因は多分、母親からの殺害だと私は考える。」
「あー…。喧嘩したって言ってたから…。」
「喧嘩だけで、ここまで発展するなんてね。まぁあくまで憶測に過ぎないけど。」
「じゃあここにはもう幽霊はでないって事ですか?」
「そうだね。普通に寝て大丈夫だと思うよ。あ、でもー…。」
「?」
「私、ちょっとタバコ吸いたくなったから行ってくるね。前川くんは先に寝てていいよ。」
「そ、そうですか。行ってらっしゃい」
「ふふっ行ってきます」
電気を消し、布団の中に潜り込んだ。収穫というか…今回はディレクターがただ考察してただけというか…。それにしても、なんであんな頭の回転が早いのだろう。勤め先ではいつもおちゃらけているのに。
ディレクターが言っていた通り、菜津ちゃんがピエロ依存症だったら、本当に誰がそのサイトを書いたんだろう…。わからない…。
目を薄ら開けると、視界にはピエロだらけだ。ピエロ依存症…聞いたことないな…。帰ったらまた調べよ…。
ーーーーーーー
「ありがとうございました。またお越しくださいませ。」
「いえいえ、こちらこそ。」
それから僕は睡魔に襲われた後、快眠をした。怖い夢を見たわけでもないので、本当にただただ友人 と旅行した気分だった。
「そういえばですけど。次の放送、どうします? これといった収穫ないですよ?」
「それについては大丈夫。昨日の夜、写真を幾つか撮っておいたから」
「タバコ吸いに行った時ですか?」
「うん、なんか圧迫されてる感じがしたから、もしかしたらなーって思って。一応撮っておいたんだよ。だから番組の事は心配しないで。」
「わかりました。」
「あとひとつ、予言するよ。」
「予言?」
「あぁ、放送日と同じ雨の日、ここ付近でまた拉致されるよ。小学6年生の男の子4人が。」
「え…?なんでわかるんですか?」
「なんでだろ…。私特有の霊感が働いてるのかも」
「そ、そうですか。」
ーーーーーーー
そんなことないって思ってた。デタラメだろうと、しかし、本当に起きてしまった。××県××××町でまた、何者かによって拉致されたと。そしてまた、コワイモノミタと5回…。それも4人とも。まさかと思い、僕はすかさずディレクターにメールを送った。
【ディレクター。もしかして、拉致事件の関係者ですか?】
そんな事は無いと思う。けれど、そう思うしか僕にはなかった。ただただディレクターからの返信を待って、約10分、ようやく返信がきた。
【まさか本当に当たるとはね。実は夜、違う人がタバコを吸っていて、その人と軽く喋った時に、なんか怪しいなーって思って。雨降ってたのに、全然傘ささないし、しかもその人、ずっと小6の話しかしないの。だからもしかしたらなーって思ってさ。あ、人形旅館の利用者じゃなかったけどね。】
さっきからずっとディレクターに疑いの目を向けていたからか、文字一つ一つが怪しいと感じてしまう…。けれど、ディレクターがそんなことする人じゃないことは僕だってわかるので、その考えを頭から離す。すると連続して、ディレクターから返事の続きが来た。
【それはそうと、前に前川くんに撮って貰った1枚の写真。あれ、この間霊媒師さんに見てもらったよ。なんかその霊媒師さん特殊で、霊感がない人でも幽霊が見えるようにできる凄い人なんだって。写真送っとくよ。多分前川くんでも普通に見えると思うから。】
写真を見る。ゾッとした。そこには、この前、トンネルで追いかけて来た、あの女の霊がこっちを見て笑っていた。
コメント
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夜に読むとすげー怖い
柊無さん難しい言葉を使いますね((そして長い文章お疲れ様でした!続き楽しみにしてます!