テラーノベル
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試練場の崩壊とともに、空間の歪みが収束していく。
気づけばRatとGatitoが立っていたのは、最高層の漆黒の謁見の間――すべての運命を司る支配者スペクターの玉座の足元だった。
足元には砕け散った神の試練の破片が散らばり、冷たい赤黒い霧が足首を這う。
Gatitoは背中の魚の骨柄パーカーのフードを乱したまま、緑の大きな爪を構えて警戒の色を滲ませた。
トゲ付きの首輪と腕輪が、緊張感からカチャカチャと音を立てる。
「ちっ……どうやら神様のお怒りに触れたらしいぜ。どうする、ドブネズミ……」
「慌てないでくれ、Gatito。システムエラーの数値は僕の計算通りだ。……まあ、最高神がどんなお仕置きを用意しているか、見ものだけどね」
Ratは白衣の裾を払いながら、ヘルメット上のサングラスをクイッと押し上げ、不敵な笑みを浮かべた。
その左手は、Gatitoの右手をしっかりと繋いだまま離さない。
その時、玉座の上から、気だるげでありながら底知れない威圧感を放つ足音が響いた。
「――おやおや」
赤く染まった影から姿を現したのは、愛用の赤いシルクハットを小粋に傾けたスペクターだった。
冷酷で、人間的な温かみを一切持たないその顔には、道徳も倫理も超越した「完璧な笑顔」が貼り付いていた。
スペクターは優雅に歩み寄り、二人が繋いだ手と、荒い息を整える姿をじっと見下ろす。
「私が仕掛けた絶対の試練を、まさか生体毒のハッキングと特例権限の悪用で正面から叩き潰すとはね。……君たちには、本当に驚かされるよ」
「……で、処刑か? それとも消去か?」
Gatitoが身構え、Ratを庇うように一歩前に出る。透ける胴体の奥で心臓が跳ねた。
しかし、スペクターの口元に浮かんだ笑みは、怒りや冷徹さとは程遠い、純粋な歓喜の色を帯びていた。スペクターはゆっくりと両手を広げる。
「処刑? 消去? とんでもない。私はね、激怒などしていないよ」
低く、劇場的な響きを持つ声が謁見の間にこだまする。
「私の箱庭『FORSAKEN』は、絶望と苦悶、そして死の恐怖を餌に回る世界だ。だがね、それだけではいつか退屈が勝る。……そこに、君たちのような不純物が混ざり込んだ」
スペクターは赤いシルクハットを脱ぎ、優雅に一礼した。
「命を投げ出すほどの狂おしい執着。死の恐怖を乗り越えて繋ぎ止められた、あまりにも歪で濃密な『愛』の感情。サバイバーとキラーという対立構造を完全に踏みにじり、私のゲームシステムそのものを私物化したそのドラマ……!」
スペクターの赤い瞳が、熱を帯びて輝いた。
「これほどまでに上質で、濃厚な『歓喜』と『苦悩』のエネルギーを、私はかつて味わったことがない。君たちは、私の最高の食糧だ。……いや、最高のエンターテインメントだよ!」
「……は?」
Gatitoが緑のドミノクラウンの奥で目を点にし、ポカンと口を開けた。
殺される覚悟で身構えていた黒猫にとって、支配者からのまさかの絶賛は予想の斜め上をいくものだった。
「道徳を理解しても行動原理を持たない私にとって、君たちのその無茶苦茶な生き様は、何よりも美しい『正解』に見える。ルールを歪めた罰など与えない。むしろ褒美を与えよう」
スペクターは指をパチンと鳴らした。
瞬間、二人の周囲を包んでいた冷たい霧が、温かな紫色の光の粒子へと変わっていく。
「これからも、その狂った愛の実験を続けるといい。存分に私を――この箱庭を、楽しませてくれたまえ」
道徳の欠片もない神の気まぐれによって、ふたりの「死刑」は、まさかの「無罪放免(かつ公認の特等席)」へと書き換えられたのだった。
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城プル
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