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「フィーが王子…。そうか、確かあの少年がそのようなことを言ってたな。聞き間違いをしてるのかと思っていたが。旅をしていてまれに銀髪の者を見かけることがある。どちらかというと灰色に近いくすんだ色だ。だがフィーは輝くような美しい銀色だ。その銀髪を見て王の血縁ではないかと俺も薄々思っていたのだが…。だがイヴァル帝国には王女しかいないと聞いている。そうか…双子か。なぜ王子の話は耳に入って来なかったんだ?」

リアムが腕を組んでブツブツと呟いている。

僕は身体ごとリアムの方を向いて、両手でリアムの腕に触れた。

リアムが口を閉じて僕を見る。

「…イヴァル帝国では、双子は災いをもたらすと言われてるんだ。そして王になるのは女の方だと決まってるから男の僕は呪われた子供だ。だから本来は、生まれてすぐに消される運命だった。だけど双子の姉上が病弱だったために、僕は姉上の身代わりとして生かされたんだ」

「は?なんだその悪習は…。双子でも男でもどちらも王の子だろう」

「うん…。バイロン国では双子に生まれても大丈夫なんだね。羨ましい…」

「当たり前だ」

僕はリアムの腕に触れていた両手を降ろして固く握りしめた。そうしていないと震えてしまうからだ。

「イヴァル帝国ではね、僕の存在は無いものとされているんだ。僕は姉上の身代わりとして生かされていただけだから…。姉上の代わりをしている間にね、何度か毒を盛られた。だから少しは毒に慣れてるんだよ」

「フィー」

あれ?おかしいな。固く握りしめているのに手が震えている。声も震えている。気を緩めると涙まで零れそうだ。

震える僕の両手が、大きな手に包まれた。とても温かくて、堪えていたのに涙が出てきた。

「良い薬のおかげで…姉上は少しずつ元気になってね、リアムと出会う数日前には全快したんだ。だから僕は…不要になった。国の端にある村に行けと…城を出されて、あの森で殺されるはずだった。そこをリアムが助けてくれたんだよ」

「そうか、ならば間に合ってよかった。双子に生まれたから殺されるなんてふざけている。フィーはもっと怒っていいのだぞ」

「どうして?僕は生まれてきちゃだめだったんだよ?呪われた子なんだよ?」

「バカがっ!生まれてきてはいけない子なんてっ、呪われた子なんて世界中どこにもいるもんかっ!」

「…いるよ、僕がそうだもの」

「違うっ!俺が証明してやる!フィーは生きてていい、愛されるべき人だとっ」

「生きて…いい…?」

リアムが力強く僕を抱きしめる。

あまりにも強く抱きしめられて息が苦しい。

唯一僕に生きていていいと言ってくれたのはラズールだった。だけどもう傍にラズールはいない。だから次に王の追手に見つかったら、抵抗しないで死のうと思っていた。とっくに覚悟もできていた。なのに今、リアムが生きていいと言ってくれる。いいのかな?本当に僕は呪われた子じゃないのかな?僕が生きててイヴァル帝国に悪影響はないのかな?

「そうだ、俺のためにも生きてくれ。俺は…フィーを愛している」

「…え?」

僕はリアムの言葉に、涙でぐしゃぐしゃの顔を上げた。

涙に濡れた僕の顔を見て、リアムが愛おしそうに目を細める。

「ごめん、俺もフィーに辛い想いをさせたよな…。フィーと出会って、一目惚れをしたのは本当だ。フィーが男だとわかって勝手に裏切られた気になっていた。腹が立った。だが腹が立っていたのは、男だとわかってもフィーのことばかり考えてしまう自分の気持ちを誤魔化すためだった。怒っていないとフィーが好きだという気持ちが溢れてしまいそうで戸惑っていた。俺は本当にバカだ。凝り固まった考え方で自分の気持ちを認めようとしなかった」

「うん…」

リアムが大きな手で僕の濡れた頬を拭う。

「でも無理だったよ。フィーを愛しいと想う気持ちが大きくて、誤魔化すなんてできなかった。だからフィーと離れたくなくて追いかけたんだ。…でも俺から逃げたフィーは、俺のことを嫌いかもしれない。そう思うと素直になれなかった」

「うん…」

「フィー、改めて言う。俺はフィーを愛している。俺の妻になって欲しいという気持ちは変わらない」

「うん…え?妻?僕は男だよ…」

「知ってる」

リアムが太陽のように眩しい笑顔で頷く。

僕はあまりの眩しさに、逞しい胸に顔を伏せて隠れた。

「あの…バイロン国では、男を妻にできるの?」

「できる。というか俺が法を変えてやる」

「ええ?リアムって本当にすごい自信家だね…」

「まあな。どうだフィー、俺に惚れたか?」

僕は視線だけを上げて、リアムの灰色のマントを握りしめる。

「あの…僕、人を好きになるということがわからないんだ。だから…もう少し待って?リアムの傍は心地いいし一緒にいたいと思ってる。でもそれがどういう気持ちからなのかわからない…から、もう少し待って…お願い」

「うっ…その顔はずるいだろ…。わかった。フィーが俺を好きになるまで、いつまでも待つ」

「ありがとう。本当に感謝してる。僕はリアムに出会えたことが、生きてきた中で一番の幸せだよ」

「……」

見上げた先のリアムの耳が、みるみる赤く染まっていく。

僕は驚いて膝立ちをすると、両手でリアムの耳に触れた。

「なっ、なんだっ!」

「リアム、熱が出てきてない?耳が熱いよ?」

「ばか…それはおまえが…」

「え?なに?大丈夫?」

「ちょっ…やめっ」

僕は額を出して、リアムの額に当てる。でも思ったよりも冷たくて、小さく首を傾けた。

「あれ?冷たいね…」

「おまえ…距離感がおかしいだろうが」

「だってラズールが、よくこうして熱があるか見てくれたよ?」

「…ラズールって、誰?」

いきなり不機嫌な顔になったリアムが、僕の肩を掴んで低い声を出す。

思いの外強く掴まれたために、魔物に傷つけられた箇所が痛んで、つい声が出た。

「あ、いたっ」

「悪いっ」

僕の声を聞いてリアムが慌てて手を離す。そして僕の両手を握りしめながら、今度はとても優しい声を出した。

「ごめん…フィー。フィーの口から知らない奴の名が出て腹が立った。ごめん」

「どうして腹が立つの?ラズールは僕の世話をしてくれた人だよ。今は姉上の側近になってるらしいけど…」

「は?フィーがいなくなった途端に仕える主を変えたのか?」

リアムが険しい顔で言い放つ。

僕の胸がズキンと痛む。

ラズールは十六年間ずっと僕の傍にいたんだ。簡単にはラズールがいなくなった寂しさは癒えない。

黙って俯いてしまった僕の頭を、リアムが大きな手で優しく撫でた。

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