コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
緑川さんにあいさつをして、レストランから出た。
海岸が目の前だ。
「海、寄って行きますか?」
「えっ、いいんですか?」
「もちろんです」
近くの駐車場が運よく空いていたため、車を停めて海へ向かう。
砂浜を歩くのは久しぶりだ。
「海、触ってもいいですか?」
久しぶりの海に気持ちが高まる。
こうやって遠方に来たこともあまりなかったので、楽しい。
「もちろん。タオルとか持ってきてるんで、服とか心配なかったら足とか入っても大丈夫ですよ?」
「ありがとうございます!」
靴を脱ぎ、一歩一歩ゆっくり進んで行く。
もう少しで波が足にあたる。
「冷たいです!」
思っていたより、海水の温度が冷たく感じた。
「楽しそうで良かった。俺も嬉しいです」
「楽しいです!ありがとうございます」
ワンピースを膝までめくって、海水に入る。
子どもに戻ったみたいで楽しかった。
大きな波、小さな波、向かってくる波の大きさは規則的ではない。
楽しすぎて深くまで入りすぎてしまい、砂で足がとられそうになり、黒崎さんが手をとって海から出ることを手伝ってくれた。
「ごめんなさい。はしゃぎすぎました」
「俺も見ていて楽しかったので、気にしないでください」
そう言ってほほ笑んでくれる。
足を洗いに、共用部分まで行く。
「休憩しましょうか。飲み物買ってきますね」
「あっ、私が行きますよ」
「ダメです。ここに居てください」
私ばかり楽しんでしまっている。
彼は帰りも運転だ。
私ができることくらい何かしたい。
そう思い考えていると、黒崎さんが飲み物を買ってこちらに歩いてくるのが見えた。
私も立ち上がり迎えに行こうとすると、黒崎さんに話しかける水着を来た二人組の女性がいた。
何を話しているのだろう、遠くて会話までは聞こえない。
黒崎さんが女性二人にむかって軽く会釈をしたのが見えた。
「お待たせしました。どっちがいいですか?」
「ありがとうございます。あの、さっき何を話しかけられていたんですか?」
「ああ、大したことではないです。連絡先を教えてほしいと言われただけなので。もちろん断りましたが」
やっぱり、逆にナンパされるほど黒崎さんはモテるんだ。
それはそうだ、私だって一目惚れだったんだから。
「俺が興味あるのは、愛ちゃんだけです。なので、心配しないでください」
私が不安になった時、彼はいつも私が欲しい言葉を伝えてくれる。
「はい」
両手に飲み物を持っている彼に、思わず私からギュッと抱きついてしまった。
「残念です」
一言彼は呟いた。
「えっ?」
「持っていなければ、俺も愛ちゃんを抱きしめられるのに」
思わず、彼から離れてしまった。
二人でベンチに座り、ジュースを飲みながら海を見る。
「楽しかったですか?」
「はい、楽しかったです。また来たいです」
「初めてのデートでしたけど、どこか不満はありましたか?」
不満なんて、とんでもない話だ。
「そんなことっ!」
あっ、一つだけお願いしたいことがあった。
「黒崎さん。私のこと、これから呼び捨てで呼んでください。愛って呼んで下さい」
彼は優しい顔をしながら
「わかりました」
返事をしてくれた。
しかし
「では、俺のことも名前で呼んでください」
「へっ?」
「俺も名前で呼んでほしいです」
黒崎さんを名前で呼ぶ。
自分で言い出したことなのに、恥ずかしくなる。
「名前で呼んで?愛?」
「……!」
名前を言われ、心拍数が上がる。
彼を見ると、彼は真剣な顔をしていた。
「れ……ん……さん」
「「さん」はつけなくてもいいですよ?」
「ダメです。年上ですから」
「わかりました。では、それは後々のお楽しみにとっておきます。もう一回呼んでください」
「蓮さん……」
彼はふっと笑って
「よくできました」
私の頭を撫ででくれた。
なんだか悔しい、私だって彼をドキドキさせるようなことをしたい。
でも、どんなことをすればいいのか全く浮かばないよ。