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シリアスだったんで、コメディにしますわぁ〜…!
イギリスさんの休日
午後三時。
空は柔らかな曇り空、庭園には紅茶の香りがただよっていた。
イギリスは背筋を伸ばし、ティーカップを静かに傾ける。
「ふむ……やはり午後の紅茶は格別ですね。スコーンも焼き加減が良い…
いやはや、私の孤独こそ最高の贅沢というものです」
彼の休日は、決まってアフタヌーンティーから始まる。
栄光ある孤立。誰にも邪魔されない時間。
……のはずだった。
ドタドタドタッ!
けたたましい足音が庭へ迫ってくる。
イギリスはカップをソーサーに戻し、額を押さえた。
「……嫌な予感がしますね…」
「親父ィィィィィィ!!!助けてくれぇぇぇ!!!」
叫び声とともに、アメリカが庭に突っ込んできた。
サングラスは首まで下がり、顔は青ざめている。
イギリスは椅子を動かさず、ただ視線を上げただけで息子を見やった。
「……アメリカ。無粋極まりないですね。
この優雅なティータイムを邪魔するとは、命知らずにも程があります」
「そんなこと言ってる場合かよ!こっちは命の危機なんだって!」
「命の危機? ふむ……またハンバーガーの食べ過ぎで喉につまらせたのですか?」
「ちげえよ!!」
アメリカは机に突っ伏すようにして叫ぶ。
「カナダだ!カナダがヤバいんだよ!!」
「……カナダが?」
イギリスは眉をひそめた。
あの影の薄い次男坊が「ヤバい」などと形容されるのは珍しい。
「そうだよ!アイツ、またヤンデレになってんだ!!」
「……はぁ……」
イギリスは長いため息をつき、眉間を押さえた。
「また精神が不安定になったと……。
はぁ…なぜ私が紅茶を楽しむこの平和な休日に、どうしてそう騒がしいことばかり起こるのですかね…?」
「そんな呑気にしてる場合じゃねえ!ヤバいんだって!親父、マジで殺される!!」
イギリスは無言でティーカップを持ち上げ、ひと口すすった。
「……命の危機というわりに、随分と元気そうですね。
……で? カナダはどこに?」
その時、ギィィ……と、錆びた蝶番が軋む音を立てて、庭の門がゆっくりと開いた。
そこに立っていたのは、ふらふらと歩きながら、微笑みを浮かべるカナダだった。
だが、その手には……鈍く光る巨大な斧。
「……おやおや」
イギリスは紅茶を置き、立ち上がった。
「これはまた……物騒なものをお持ちで」
「父さん……」
カナダは、にこりと優しく微笑む。
「僕のこと、最近あんまり見てくれませんでしたよね」
「ヒィィィ!!出たァァァ!!!」
アメリカは椅子の後ろに飛び退き、必死に叫んだ。
「親父!言っただろ!アイツ完全にスイッチ入ってんだよ!!」
イギリスは咳払いをひとつ。
「……カナダ。落ち着きなさい。君は理性的で穏やかな子でしょう。
そんな得物を振り回すのは――」
「でも……父さんは兄さんばっかり見てる。
僕のことは……影みたいに放っておいて……」
カナダの声は柔らかい。だが、握られた斧の刃先は、月光のように冷たい光を宿していた。
「……ひっ!」
アメリカはイギリスの後ろに隠れる。
「ヤバい!親父、俺マジで狙われてる!!」
「落ち着きなさいアメリカ、紳士は騒がないものです」
イギリスは肩をすくめ、涼しい顔を保つ……が、額には冷や汗。
「……とはいえ、このままでは本当に我が家が墓場になりますね…。」
「父さん……僕を見て。僕だけを見て……」
カナダが一歩、また一歩と近づいてくる。
「わ、わわわっ!?やめろってカナダァァァ!!!」
アメリカは必死に逃げ回り、イギリスのティーセットをなぎ倒していく。
「……スコーンが……!」
イギリスの顔が、ついにぴきりと引きつった。
大乱闘!紅茶 vs 斧 vs ハンバーガー
「貴方達いいぃぃぃ!!!」
ついにイギリスの紳士的仮面が外れた。
「私の! 私の午後のひとときを! 台無しにしおってェェェ!!」
「違う!俺のせいじゃねえ!!」
アメリカは必死に逃げながら叫ぶ。
「悪いのは全部カナダだ!カナダがヤンデレってんだよ!!」
「父さん……僕を悪者にしないでよ」
カナダはにこりと微笑み、斧を振り上げた。
「だって、僕はただ……父さんに、愛してほしいだけなんだよ?」
「こ、怖ええええ!!!やっぱこいつヤベェェェ!!!」
アメリカはテーブルを盾代わりにするが、カナダの斧が机ごと叩き割る。
紅茶が飛び散り、スコーンが宙を舞った。
「や、やめなさい貴方たち!!!」
イギリスは必死に二人の間へ割って入る。
「まったく!どうして我が子らは、揃いも揃って理性というものが欠落しているのですか!」
「理性?あるよ。だって……」
カナダは優しく言った。
「僕はちゃんと、父さんの言うことだけは聞くんだから」
「おおっ!?じゃあ今すぐ斧を捨てろ!!」
アメリカが叫ぶ。
「……兄さん黙ってて」
カナダの斧が、アメリカの足元すれすれに突き刺さる。
「ヒィィィィィ!!!?」
イギリスは頭を抱えた。
「……ああ、紅茶の香りもすべて吹き飛びましたね……」
だが、それでも止めねばならない。
イギリスは杖を握り――
「よろしい。父の権威というものを、思い知らせて差し上げましょう…!」
その声と同時に、庭園はまるで戦場のごとき大乱闘へと変貌した。
アメリカの叫び、カナダの笑い声、イギリスの怒号。
紅茶もスコーンも吹き飛び、ただ混乱だけが渦巻いていく――。
庭園はすでに、戦場と化していた。
芝生はえぐれ、テーブルは真っ二つ、ティーポットは粉々。
「はあぁぁぁ!?何してくれてんだよカナダァァァ!!!」
アメリカが吠える。
「やっぱお前ヤベェ!狂ってんだろ!?」
「狂ってなんかないよ?」
カナダはにこりと笑みを浮かべる。
「僕はただ……父さんが大好きなだけ」
「そ、それが狂ってるってんだよ!!!」
アメリカはハンバーガーの袋を取り出し、カナダに投げつける。
「これでも食って落ち着け!!!」
…だがカナダは斧で一閃、ハンバーガーは宙で真っ二つ。
「……そんな脂っこいもの、僕はいらない」
「ぎゃああああ!!!」
アメリカは転げ回り、庭を右往左往する。
「……やれやれ」
イギリスはこめかみを押さえた。
「我が家の平穏は、毎度こうして崩壊していきますね。」
そして視線をカナダに向ける。
「カナダ。君は私の大事な息子ですよ。
ですがね、愛情というものは独占するものではないのです」
「違う。父さんは僕を一番に思ってくれない。
だから……僕が証明してみせる。僕が、父さんの一番だって」
カナダの目に宿る光は、柔らかな笑顔の裏に潜む狂気。
イギリスはぐっと息を飲んだ。
……これは、理屈で止められる段階ではない。
「親父ィィィィ!なんとかしろよぉぉぉ!!!」
アメリカが泣き叫ぶ。
「俺もう心臓止まる!!」
「落ち着きなさい、息子よ」
イギリスは燕尾服の袖を正し、真剣な顔つきになった。
「ここは父としての威厳を見せる時ですね」
「威厳!?さっきまで紅茶飲んでただけじゃねえかよ!!」
「黙りなさい! 紳士の威厳は紅茶の香りと共にあるのです!」
イギリスの声が庭に響き渡る。
次の瞬間、イギリスは素早くカナダの腕を取り、斧を弾き飛ばした。
カナダの瞳が大きく揺れる。
「父さん……僕を、拒絶するの……?」
「拒絶ではありません」
イギリスはぐっと彼を抱き寄せ、耳元で静かに囁いた。
「貴方を正気に戻すためです」
カナダは小さく震えたが……その表情はどこか満足げで、力が抜けていった。
……だが、次の瞬間。
「やべっ!親父後ろォォォ!!!」
アメリカの叫びが響き渡る
振り返ると……なんと斧はまだもう一本あった。
カナダの背中の方にもう1本隠されていたのだ。
「お父さん……やっぱり僕のことだけ見てよ」
「しつこいわぁぁぁ!!!!!」
イギリスは思わず素で怒鳴った。
そこからさらに混乱は激化。
アメリカが叫びながら物を投げ、カナダが笑いながら追い回し、イギリスはひたすら止めようと走り回る。
庭は修羅場、紅茶の香りは完全に吹きとんだ。
気がつけば、空は茜色に染まっていた。
庭は瓦礫の山。椅子も机も原型を留めていない。
アメリカはソファに投げ出されるように眠り込んでいた。
疲れ果て、口を半開きにして寝息を立てている。
カナダは……今は静かにイギリスの傍らで、まるで小さな子供のように眠っていた。
斧は取り上げられ、彼の手は空っぽになっている。
イギリスは崩れかけのテーブルに腰を下ろし、冷め切った紅茶のカップを見つめた。
少し口をつけて、眉をひそめる。
「……ふむ。冷めた紅茶は、どうにもいただけませんね。」
周囲を見渡す。
瓦礫、倒れた家具、散乱するスコーン。
静寂だけが夕暮れの庭に広がっていた。
イギリスは小さく息を吐き、ひとりごとのように呟く。
「結局……私の休日というものは、いつもこうして台無しになるのですね…。
栄光ある孤立? まるで笑い話です。
……ですが」
眠るアメリカとカナダに視線を向ける。
彼らの寝顔は、どこか無邪気で、憎めない。
「……まあ。こうして誰かと共にあるのも……悪くはないのかもしれませんね。」
イギリスはそっと紅茶を置き、夕暮れに染まる空を見上げた。
その瞳には、疲れと苛立ちと、ほんの少しの温もりが混じっていた。