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完璧な、非の打ち所がないイケメン営業スマイル。
それは、俺にだけ向けられるはずの熱や温度とは明らかに違う
冷徹なまでに狡猾で、計算され尽くした「商品」としての顔だった。
店から出てきた玲於と合流したとき、俺の機嫌は最悪の一言に尽きていた。
「……また客に愛想振りまいてた」
歩き出して早々、俺は口を尖らせて吐き捨てる。
「そりゃあ、仕事だからね」
玲於は悪びれる様子もなく、整った顔で肩をすくめる。その余裕が余計に癪に障った。
「仕事って……ただ髪切るだけなのに? あそこまでベタベタさせる必要あんの?」
「スキル以前に客商売なんだからさ。この顔を活用した方が効率がいいんだよ。店での俺の格も上がるし、指名も増える。悪いことなんて何もないでしょ?」
「でも……っ!」
反論しようとした俺の言葉を、玲於が遮る。
彼は不意に歩みを止めて俺の顔を覗き込み、宥めるような、けれどどこか反論を許さないような静かなトーンで言った。
「でも? なに? 霄くんだけは特別って、分かってるでしょ?」
「わ、分かるけど…俺以外に……あんな顔しないでよ……。他の奴にあんな距離で笑いかけるの、見るの嫌なんだよ……」
「……あんな顔って?」
玲於が面白がるように聞き返してくる。
「優しく笑ったりとか、あんな甘い声出したりとかさ……。我慢して見てる俺の身にもなってよ」
「我慢してよ、霄くん。仕事なんだからさ。……それこそ、霄くんが裏垢で欲求満たすのと同じだと思うけど?」
「……っ」
冷徹なまでの正論。心臓を直接掴まれたような衝撃に、俺は唇を噛んで黙り込むしかなかった。
俺がSNSの海で誰とも知らない奴らに自分を切り売りして承認欲求を満たしていることを、こいつは武器として使ってくる。
「それとも霄くん、俺のこと信用してないの? 俺がその客とどうにかなるとでも思ってるわけ?」
「……ホストみたいなこと言うなよ…そういう問題じゃなくて……っ。足りないんだよ」
「……なにが?」
「玲於の“特別”だけじゃ、足りないの……」
「……へえ」
玲於が意外そうに、あるいは観察するように、興味深そうに眉を上げる。
「俺、玲於の全部が欲しいのに……玲於はそうじゃないじゃん。仕事って言えば、他の奴にいくらでも隙見せるじゃん……」
俺は地面を見つめた。
玲於が俺を愛しているのは分かる。
けれど、彼が外で見せる「完璧な美容師・玲於」の顔まで、俺が独占することはできない。
その埋まらない溝が、虚しくて、悔しくて仕方がなかった。
「霄くん……」