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どうも、しゅうとです。
只今、いんくのメンバーで焼肉屋に来ています。
ここは個室があるから、声が分かりやすいふうはやのお気に入りで良く食べに来るんだ。
そして今日は俺の悩みを聞いて欲しいと思います。
みんなは『選ぶ』って簡単にできますか?
俺には選ぶって難しい。
しかもこんなのどうやって選べって言うんだ?
「しゅうとはどっちとならキスできる?」
「えぇ……?」
「オレとりもこん、どっち?」
なんて不自由な2択だ。
しかも質問もエグい。
俺はとりあえずその手元に握りしめられている酒のグラスをやんわりと取り上げて、水を差し出した。
こんな時、きっとかざねは当たり障りがないスマートな返しが出来るんだろうし、りもこんなら悪乗りして良い感じに会話が出来るはずだろうと思う。
俺にはそれが難しい。
っていうか、いつの間にこんなに酔ったんだ、ふうはや。
酒弱いんだから加減を知って欲しい。
ぐっと近付いてきたふうはやの目が座っていて怖い。
「黙ってるならオレってことで……キスしちゃうけど」
「ええ!?いや……それは……」
「ほらほら、早く〜」
「うぅ……」
掴まれた手首が熱を帯びる。
ふうはやの手も酷く熱かった。
「ふうはや!しゅうと困ってるって」
「かざねさん……!!」
救世主だ!
かざねはやっぱり頼りになる。
「しゅうと。どっちも無理だって言ってやれ。しゅうとはイケメンで美声のかざねとしかキスできないって」
うん……?
「選択肢追加来たか?しゅうと良かったなぁ」
「り……りもこん!!なんで見てるだけなんだよ!止めてくれって……!」
「いや、オモロイから。答えも気になるし」
りもこんは鉄板から肉を1つ箸でつまんで笑った。
楽しいことの為ならこんな質問の選択肢に自分の名前があっても気にならないらしい。
味方がいない……!
「しゅうと〜タイムリミット来ちゃうけど〜?」
「いや、だから……!って言うか本気じゃないよな……?かざねさんも酔い過ぎなんじゃ……」
「いや、本気でしょ」
「かざねさん!?」
「当たり前だよなぁ!」
「当たり前ってどっちなんだ……?」
左腕をふうはやに取られて、右手にはかざねの手が重ねられていて、正面には肉を食ってるりもこん。
え?待って、これどういう状況なんだ?
頭がぐらぐら、というか思考がぐるぐるしてまともに考えられてない。
だってここで『俺は男だ』なんて言ったらマジレス過ぎるのかも知れないし、本気にするなんてって笑われるかも。
ふうはやみたいな、かざねみたいな、りもこんみたいな面白いヤツになりたいって思うけど、いつも上手く行かない。
「お……俺には選べません……」
「え?なんで?」
「しゅうと、理由は?」
「www」
「りもこん!笑ってないで助けてくれっ」
「ヤダよ。だって、俺のこと選んでくれてないし?」
「〜〜〜〜っ!りもこん!りもこんにする!」
両隣の酔っぱらいより、テーブルを挟んだ向こう側のマトモそうなりもこんを選んだ。
苦し紛れに出した選択が間違っていないことを祈る。
だから頼む。
りもこん、助け舟を出してくれ。
視線の先では目を丸くしたりもこんが息を飲んだ。
「ええええええ!!!」
「なんで!あいつが1番無いでしょ!?」
「なぁんか失礼な事言われてるなぁ」
りもこんが立ち上がって俺を挟んでやんややんやと騒いでいる2人を引き剥がした。
びっくりするほどホッとした自分がいる。
「はいはい、勝者が通りますよっと」
「ちぇっ!オレは肉食べよーっ!りもこんの分まで食っちまうからな!」
「りもこん、酷いことするなよ」
「うう……」
ふうはやとかざねはりもこんが座っていた向かい側の席に座り直して、またぎゃあぎゃあと騒ぎながら肉を焼き始めた。
皿をひっくり返して豪快に肉を焼き始めたふうはやにかざねがキレる。
良かった、どうやら通常運転に戻ったらしい。
ホッと胸を撫で下ろした俺の横にりもこんが座った。
「お選びいただきどうもどうも」
「りもこん……。マジであの2人酷くないか?こんな風にからかうなんて……」
「んー。きっとからかってないと思うけどねぇ」
「え?」
「それじゃあ勝利したプレゼントをもらおうかな」
「……はい?」
「ん?だって君、俺のこと選んだでしょ?」
「……え、え、ええ!?だっ……だって、それは……!」
「いやぁー嬉しいですなぁ。キス、だっけね?これは忘れられない思い出になるね」
せっかく助かってホッとしたと思ったのに。
どこからどこまでが本当なんだ?
さっきまではからかわれてて、今は?
口元は笑ってるのに、りもこんの目はさっきのふうはやみたい座っていて、冗談に見えない。
いや、りもこんは嘘か本当か分からない言動が多いし、これも嘘か?
「…………」
「しゅうと?」
何だか腹が立ってきた。
酔っ払いすぎのふうはやも、シラフのフリして飲み過ぎのかざねも、楽しさ全振りでからかってくるりもこんにも、腹が立ってきた。
楽しい思い出が欲しいみたいだしな?
そんなもんは俺が作ってやる。
「プレゼントあげるよ」
「え?わ、あ……」
「受け取れ!」
「!!!」
襟首を引っ掴んだ俺は勢いに任せてりもこんを引き寄せた。流石に唇は避けて、りもこんの頬へと唇を寄せる。
やば、ちょっと唇かすった……。
数秒押し付けた唇を離して、後は何も見られなかった。
3人の顔も見られない、言葉なんて聞こえない、恥ずかしさと沸騰しそうな顔の熱さを腕で隠して立ち上がった。
「ちょっとトイレ!!!」
場違いなほど大きな声でそう告げて、俺は部屋を離れた。
選ぶんじゃなかった!
理不尽な選択肢を恨み、突発的に取った自分の行動を嘆きながら俺はトイレの個室にうずくまってしばらく過ごしたのだった。
******
「しゅ、しゅうとにキスもらった……しかも唇の端に」
「りもこん……!お前ぇ!!顔真っ赤じゃんか!!」
「りもこんお前!ズルすぎ!」
「いや、ズルくはないでしょ!しゅうとが俺のこと自分で選んだんだから」
「ぐぅうううっ……羨ましい……!」
「クソッ……俺もしたかったのに」
「しゅうと、さっきめっちゃ顔赤かった……可愛かった……」
「ああーー!!それはズルい!!オレだって見たいーーっ!!りもこんの独り占めは良くないぞっ」
「やっぱズル過ぎだって!!」
「勝利者の当然の権利です」
「クソーー!!!」
騒ぎすぎて店員の注意を受けたことは言うまでもない。