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「そういう捻くれた態度を取られると、余計に逃がしたくなくなる。香津美は俺をその気にさせるのが上手いな」
聖壱さんは何を言っているのよ、私はそんなこと頼んでないでしょう? 物事を何でも自分の良いように変えてしまう聖壱さんに私は唖然とするしかなかった。
「その気になるのは他の女性だけにして! 私を揶揄っているのなら許さないわよ!」
必死で睨んでも、聖壱さんはそんな私を見て「クククッ……」と笑ってるだけ。許せない、私を揶揄って遊ぶなんて!
このままじゃ、私が聖壱さんに負けているみたいじゃない。貴方なんて、どんな手を使ってでも……私は恥ずかしさを我慢して、自ら聖壱さんの身体に触れる。
「お、どうし……あ、こら! 擽った……はっ、はは、くははは!」
私は聖壱さんの脇腹を両手で擽ったの。何度もしつこく擽られ我慢出来なかったのか、聖壱さんの腕の拘束が解けたのでわたしは急いで彼から離れた。
「今度、勝手に私の身体に触れたら、こんなのじゃ済まさないからね!」
とどめとばかりに近くに置いてあったクッションを聖壱さんに投げつける。ここまで乱暴な妻になるつもりはなかったけれど、これは聖壱さんが悪いと思うの。
「香津美は本当に面白い女だな。結婚相手なんてつまらないただのお嬢様だと思っていたのに、見合いの相手がお前で本当に良かった」
聖壱さんはそう言って笑っていたけれど、彼の私を見る眼つきは獲物を狙う肉食獣のようだった。
「その、そろそろ聞いてもいいかしら? 私は今あなたが何をしているのかが、どうしても理解出来ないんだけれど?」
私の目の前で卵を握りつぶしているこの男は、いったい何を考えているのかしらね? いくらお金が余っているからってわざわざ食べ物を生ごみにする必要はないと思うのよ。
「何って、料理に決まってるだろ? 香津美はちゃんと目が見えているのか?」
ええ、ちゃんと見えているわよ。見えているからこそ聞いたんじゃないの、その惨状は何なのかってね。
私もあまり料理が上手な方ではないけれど、これはあまりにも酷すぎるわ。よく「朝食は俺が作ってやる」なんて言えたものね。
「そうね。少なくとも、私が育ってきた家ではこんな物を料理とは呼ばなかったわね」
聖壱さんから卵を取り上げて、慣れない手つきで割ってフライパンに落とす。簡単な料理くらいは家に来ていた家政婦から教えてもらっていたから出来るはず。
「香津美は料理が出来るのか? 俺はてっきり……」
出来ないと思ってた、って言いたそうね。確かに得意とは言えないけれど簡単なものくらいなら作れるわよ。
「少なくとも聖壱さんよりはましなものが作れると思うわよ? 味の補償はしないけどね」
「いや、香津美が作ってくれるとは思ってなかったからかなり嬉しい」
何よ、それ。聖壱さんはモテるんだから、今まで料理くらい沢山の女性に作ってきてもらってるでしょう? こんな子供が作るような料理で嬉しいなんて……
正直なところ、聖壱さんは変わった人だと思ってる。
背が高くてハンサムで……会社を経営しているのだから、きっと仕事も出来るんでしょう?
それなのに私みたいな捻くれた可愛くない女に「可愛い」とか「好きだ」と何度も伝えてくるの。貴方の方が視力は大丈夫って聞きたいくらいよ。
「ねえ、そこのお皿を取ってくれる?」
料理が出来上がったので、皿に盛り朝食の準備をする。聖壱さんは私が頼むと文句も言わずに手伝ってくれた。
聖壱さんって発言は俺様なのに、凄く優しいのよね。
「いただきます」
きっちりと躾けられたのだろう、行儀よく食べ始める聖壱さん。私も食事を始めると、作った料理が少ししょっぱい事に気付く。しまった、味付けを失敗したんだわ。
「聖壱さん、この料理失敗したみたい。無理に食べなくていいわ」
「そうか? 別に失敗なんてしてないだろ、俺は全部食べる」
どうして? はっきり失敗作って分かる味じゃないの。無理しなくていいって言ってるのに、どうして貴方はそんなに嬉しそうに私の料理を食べてくれるの?
「聖壱さんって、意外にも味覚音痴だったのね……」
「誰が味覚音痴だ。俺はいつもそれなりの店で食事をしてる、舌は肥えている方だ」
そうでしょうね、さっきの料理するところを見ていたら想像つくわよ。でも、それならなぜ……
「聖壱さんはどうして今朝は料理を作ろうと思ったの?」