テラーノベル
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『あの星々は、どれも同じに見えるだろう。だが一つ一つ名前があるし、どれか一つでも欠ければ星座が成り立たなくなる。俺も君も、星々の一つだ。どんな個性を持っていても、生まれたからには誰かを励まし、何かの役に立つ』
彼の言葉をありがたく聞きながら、泣き疲れた私はぼんやりと夜空に瞬く星々を眺める。
『フェリは確かにレティシア王女とそっくりだが、能力が異なる』
アルフォンス様の口からレティの名前が出た時、胸の奥が微かに痛んだ。
『人々は聖女を強く求めるだろう。だからといって、フェリが引け目を感じる事はない。大切なのは王女らしく誇り高く生きられるかだ。王族としての矜持をしっかり持ち、誰も自分の代わりになれないと胸に刻むんだ』
『……努力します』
控えめに返事をすると、アルフォンス様は小さく笑う。
『今はまだ難しいかもしれない。でも昼間に見せてくれた能力が、君を大きく変えるかもしれない。あの力で何ができるかを考えて、いつか俺に答えを示してくれ。……たとえば、手始めに楽器の演奏でもしてみたらどうだ? フェリは別の楽器を弾き、あの見えない手でもう一つの楽器を弾く。ヴァイオリンとヴィオラ、ピアノを演奏できるようになったら、俺がチェロを弾いて参加しよう』
アルフォンス様に言われると、いつもなら『無理』と言いそうな事でも、できそうな気がしてくる。
『頑張ってみます』
『いい子だ。じゃあ褒美をあげよう』
ご褒美と言われ、私はキョトンと目を瞬かせた。
するとアルフォンス様は右手に光を宿し、先ほどの道化と同じようにクルッと手首を捻る。
途端に彼の手に、みずみずしい果物や食用花が刺さった、美味しそうな物が現れた。
『シャレット聖王国の賢い姫君に』
少しおどけて言った彼は、私に串を持たせた。
『ありがとうございます』
沢山泣いて喉が渇いていた私は、先端に刺さっている赤くて大きな苺に齧り付いた。
『んン、美味しい!』
頬張った瞬間、口内にジュワリと甘さとみずみずしさが広がり、鼻腔に甘酸っぱい香りが抜けていく。
『お気に召して何よりでございます』
道化のように言われ、私はクスクス笑う。
オレンジや南国で採れる珍しいフルーツを完食した私は、改めて彼にお礼を言う。
『励ましてくださってありがとうございます。殿下はとてもお優しいですね』
そう言うと、彼は微妙な表情で笑った。
『そう感じるのは、俺が未熟だからだ。俺も君ぐらいの年齢の時、数え切れないぐらい失敗した。だが沢山学び、物の善し悪しを見極め、可能な限り善くあろうと努めてきた。俺は失敗を知っているから、失敗した人を嗤わない。君が前を向き努力したいと思っているなら、寄り添って応援したい』
彼の言葉は、スッと私の胸の奥に沁み入っていく。
『私も殿下のようになれますか? 私も殿下のように強くて優しい王女になりたいです』
アルフォンス様と同じようになりたいなんて、おこがましいにも程がある。
けれど当時の私は、目の前で眩く輝く星に懸命に手を伸ばし、少しでもいいからその光を浴びたい、触れたいと望んでいた。
『君さえ誇りを失わなければ』
『……はい!』
――この方に認めてもらえる、善い王女になりたい。
そんな強い想いが心に芽生え、そっと根を張っていく。
『私は聖女にはなれませんが、唯一無二の第二王女になってみせます』
『その意気だ』
彼はトンと私の背中を叩き、晴れやかに笑う。
その笑顔は今もこの胸の奥に焼き付いている。
帰国したあと、私はアルフォンス様と文通を始め、様々な事を逐一伝えるようになった。
そして彼に言われた事を実行すべく、インビジブルハンドを使っての楽器演奏の練習を始めたのだった。
**
私は成長と共に、徐々に家族や周囲の人たちに期待する事をやめていった。
レティは公務を務める傍ら、聖女として名を広めていく。
外国へ行った時、家族が障壁を張ったり、王族や貴族に加護を与えたりしている間、私は何もする事がなく座っている。
そんな私が嗤われるのは当然だ。
『あんな無能な姫が生まれて、陛下はさぞ気落ちされているでしょう』
『あの姫君がいるから、聖女様の尊さが伝わってくる』
『もしかしたら、フェリシテ様は陛下の子ではないとか……?』
『なら、双子のレティシア様も陛下のお子ではないの?』
『弟君もどうだか……』
私だけでなく、両親やフェリ、弟にまで迷惑をかけてしまう事になり、私がいる事そのものがみんなの迷惑になっているのだと実感していった。
『お父様、私が公務に同行してもできる事はありませんし、逆に良くない噂を生んでしまいます。それならばいっそ、聖なる力が求められる公務には同行せず、その間、国内で私にできる事をさせていただけませんか?』
十歳の時にそう伝えると、父も色々言われているのは耳にしていたのか、『フェリがそう望むなら許そう』と承諾してくれた。
その後、私は国内でできる事をし、積極的に孤児院や病院の慰問に行った。
勿論、そこでもあまり歓迎されなかったし、『なんだ聖女じゃないのか』という態度をとられたけれど、だんだん慣れていった。
十二歳の時にジョゼと出会い、彼女と打ち解けたあとは、アルフォンス様からの課題である楽器演奏の話をし、応援してもらった。
最初は自分でヴァイオリンを弾き、インビジブルハンドでピアノを弾く練習をした。
次いで同時にヴィオラを弾く練習をし、さらに打楽器を演奏する事を目標にしている。
私が一人で行うコンサートは、意外にも評判が良かった。
最初は〝聖女じゃないほう〟と思われていたけれど、次第に〝楽器を演奏できるほう〟と認識されていったみたいだ。
時間がかかったし、血の滲むような努力を経てだけれど、頑張った分報われるのは嬉しかった。
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