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それもこれも、アルフォンス様とジョゼのお陰だ。
彼女は私の能力を生かすアイデアを考えてくれ、まるでマネージャーのようだ。
インビジブルハンドで何ができるか実験を繰り返し、その中でも最も有益だったのは、精神感応の付与をオンオフできる事だ。
インビジブルハンドは、私の手が複数あると考えていい魔術だ。
自分の手で呪物に触れば呪われるけれど、精神感応を切れば、呪いを持つ物に触っても無影響でいられる。
いわば人が握っていないフォークなどで、呪物をつついているようなものだ。
それとは別に、誰かが私に属性のある魔力を注いだら、インビジブルハンドにその属性を纏わせられると分かった。
加えて、もっとありがたい恩恵もあった。
人は体内にオドという魔力を宿し、持ち主の健康状態や心情によって性質を変化させる。
怒っている人のオドは荒れているし、あまりに激怒すれば周囲にいる人が影響を受けて具合を悪くしてしまうほどだ。
平民に比べて王族や貴族ほどオドの量が多く、大きな魔術を使える。
だから王侯貴族は常に精神を安定させ、優雅さを失わない事で、オドを安定させなければならない。
私が五歳の時に帝国でインビジブルハンドを暴走させてしまったのも、オドを制御しきれなくなったからだ。
インビジブルハンドの精神感応を切ると、周囲の人たちのオドを感じなくなる。
今まではすれ違うたびに嘲りの感情や、不気味がられている気配が分かったけれど、精神感応を切ると何も感じなくなり、過ごしやすくなった。
……と言っても、実際に嗤われたり陰口を叩かれれば相応に傷付くけれど。
でも、以前よりは成長できたと思っている。
それに少しでもできる事を増やそうと、地政学や歴史、語学や計算など、様々な勉強に身を入れていった。
**
十四歳のある日、ジョゼに提案された。
『どれだけ遠くの物に触れられるか、測ってみませんか?』
『そうね。自分の能力を把握していると、いざという時に役に立つかもしれないわ』
ジョゼに提案された私は、庭に出て今の自分がどれだけインビジブルハンドを伸ばせるか測る事にした。
私は離れた所に立っているジョゼが持つ鈴を、インビジブルハンドで触れて鳴らす。
チリンと鈴が鳴ると、彼女はもう片方の手に持っている赤い旗をあげた。
私は少しずつ距離を伸ばして鈴を鳴らす訓練をしながら、彼女と雑談を交わす。
『これ、何の役に立つかしらね?』
私は五メートルは向こうにいるジョゼに言い、意識をポーンと飛ばして鈴にタッチする。
チリンッと鈴が鳴ると、ジョゼは旗をあげて一歩下がる。
『いつか何かの役に立つのではありませんか?』
『適当ねぇ……』
『泣いている子供をあやすために、木に咲いている花を摘んであげるとか』
『あら、そういう子は〝高い高い〟をすると、ビックリして泣き止むのよ』
『見えない手で持ち上げられるなんて、恐怖じゃないですか。ギャン泣きしますよ』
『ジョゼは子供心が分かってないわねぇ。そのスリルを喜ぶ子がいるのよ。孤児院でやったらウケたじゃない』
『……羽目を外して〝とっても高い高い〟をして、シスターに怒られたのはどなたでしたっけ』
『うう……』
痛いところを突かれ、私は黙る。
『子供を落としそうで怖いと言われるなら、距離だけじゃなくて重さにも対応したほうがいいですね』
『そうね』
『精神感応を切れば、どれだけ熱いもの、冷たいものに触れても大丈夫ですから、家事があった時に人命救助のために役立てるのではありませんか?』
『確かに! それはいいわね』
私はジョゼと話しながら、次の目標を決めていく。
こうやって自分たちでやる事を決めるのは楽しかった。
王族の朝食の席で侍従長が一日のスケジュールを読み上げるけれど、私はそれに無関係と言っていい。
聖王家の公務に参加しなくなってから四年、最初こそ王族の使命を放棄したようで申し訳なく、恥ずかしく思っていた。
けれど父は食事の時、私が何をして過ごしたかを知りたがり、自然と夕食時は報告会のようにもなっていた。
周囲の貴族たちは私を嗤うけれど、両親が私にきつく当たった事はない。
むしろ母は『そんなふうに生んでしまってごめんなさい』と責任を感じているほどで、だからこそ私は明るく振る舞わないといけないと思っていた。
一人でも侍女と力を合わせて色々と学び、修行できていると分かると、両親は幾ばくか安心したようだった。
食事の席では勿論、レティやシャルルの活躍を聞く事もあり、最初は劣等感を抱いていたけれど、少しずつ慣れていった。
私に聖属性の加護がないのは誰もが知っている事だし、ないものに焦がれても仕方がない。
いま一番大事にすべきなのは、アルフォンス様に言われた通り、自分にしかできない事を模索し、己を高めていく事だ。
家族と別行動を取るようになって早四年経ち、今ではそれぞれの活躍を褒め合えるようになった。
けれど家族が帝国に行った時は『私も行きたかった……!』と悔しくなる。
なにせレティが嬉しそうに『アルフォンス様とお会いしたわ』と言うものだから、胸の奥がジリジリする。
今でも私はブルーのドレスを身に纏い、レティはピンクのドレスばかり着ている。
子供の頃はとても嫌だったし悲しかったけれど、それにも慣れつつある。
でも『青のほう』『青に用はない』と言われると、『失礼ね! 私には名前があるのよ!』と突っ込みたくなる。
いまだに女性に嗤われた時はインビジブルハンドでスカートめくりをしてやろうかと思うし、中年の男性にいやみを言われた時は、かつらをとってやろうかとも思う。
けれど王族たるもの、心を強く持ち、オドを穏やかに保たなければ。
五歳の時のような失敗は、もう繰り返してはならない。