テラーノベル
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揺らいだ心による問い掛けはどこか虚しく、空振りしてる気がした。それでも霧山は笑って答えた。口端をきゅっと締めるようにして、眉を下げながら微笑む。
「そうだね。私、誰とも結婚する気なかったんだ。……というより、結婚できないと思ってた。だから理由は色々あるの。世間体を考えて生きやすくなりたいとか、親を安心させてあげたいとか」
結婚できない。その言葉には、違和感を覚えた。彼女は誰とでもすぐに打ち解けるし、たまに突っ走るところ以外は非の打ち所がない。
しようと思えばいつでも結婚できるはず。それなのに。
「でも結局……結婚しないメリットより、結婚した場合のメリットをとったの。私と創くんは、そうやって生きてくんだと思う。これから先、一生」
創も……?
それは一体どういう意味なのか。いつもの笑みが消えた彼女から、視線を外せずにいた。
互いを“恋愛対象”として見ていない。
その言葉になにか引っかかるものがあるんだろう。創と霧山は、目には見えないなにかで繋がっているような気がした。
好きではないけど、家や自身のために結婚しようとしている。それだけで充分大問題。
自分は随分と自惚れていたようだ。彼なら、彼女なら大丈夫、なんて……そんな保証、どこにもないのに。
目の前に佇む女性を見て、その勘違いを思い知った。
「准くん? ……ごめんね、大丈夫?」
「あぁ、俺は大丈夫だけど……お前の方が大丈夫か?」
「大丈夫よ。覚悟ならとっくの昔にしてる。だから、どうかお願い。この事は誰にも言わないで。私と創くんは絶対後悔しない。自分で選んだ道だから、……誰にも迷惑はかけないから」
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