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霧山は目を眇める。揺れた瞳の中に、准を通した虚像を映した。
その虚像こそ、婚約相手の創だろう。
彼女の気持ちを汲んで知らないふりをするのは容易い。しかしこのままだと、彼らは本心を押し殺して、逃げられない道へ入る。
本当にそれで良いのか。訊きたいけど訊けなかった。親の為、世間体の為に一生を捧げる彼らに。
まだ何の選択もしてない自分にどうこう言う資格は無いと思ってしまう。無力な自分が何よりも惨めだった。
「お前は偉いな。偉いし、強いよ」
「そう? ……いえ、そうね、私は強い方ね」
「何だそりゃ」
可笑しいけど、無理して明るく振舞ってるんじゃないかと心配になる。彼女は、いつもそうだから。
「挙式は半年先だけど……こんな話して、本当にごめんなさい」
霧山はゆっくり、しかし深く頭を下げた。
「い、いや、俺に謝る必要はないよ。むしろ、その……首突っ込んで悪かったな」
「ううん、准くんは大事な友達だし、創くんの従兄弟だから。創くんと結婚したら、私達も身内になっちゃうよ」
「ははっ、そうだな」
「うん。って、冗談は置いといて。……いつも三人一緒にいたから」
彼女の言葉に頷いて、記憶を辿る。
俺と創は物心ついたときから一番の親友で、家の付き合いもある玲那とよく遊んだ。本当に古い記憶だ。覚えてることの方が少ないぐらい、遥か昔のこと。
だけど絶対に変わらない関係。そう思っていた。それも、いつの間にか変わっていたんだ。
「霧山、話してくれてありがとう」
受け止めるには色々重い話だったけど、彼女の気持ちを聴くことができた。
結婚を望んてないのは、変えようのない事実。だけど元々仲の良いふたりなら、笑いの絶えない家庭を作れるかもしれない。
……そう信じるしかない。おかしな話だけど、それが彼らの決めた道なら。
後は、創にもそれとなく訊いてみよう。
そう考えたとき、本来一番最初に確認する予定だった加東の話を思い出した。
「あのさ、霧山。これもちょっと聞き辛い話なんだけど、ひとつ心配なことがあった」
「何?」
「その、お前と創が浮気してるって噂が立ってたらしい。もちろん、俺は嘘だって信じてるけど……そのこと、誰かから訊いてる?」
あまりに失礼な内容なので、一歩下がりながら尋ねた。反応を恐々待ったものの、彼女は特に驚いた様子はなく。やがて飛び出した回答は、耳を疑うものだった。
「あぁ、それは本当よ。私、恋人いるの」
「えっ!?」
「あと私だけじゃない。創くんも恋人みたいな存在がいるらしいよ。私は会ったことない……と思うけどね」