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付き合って一週間。及川は今日も彼女と別れた。
「ごめんね、やっぱなんか違った」
「そっか〜。うん、全然大丈夫!」
笑って、手を振って、終わり。
俺は少し離れたところからそれを見ていた。
「お前さ……」
帰り道、隣を歩きながら低く言う。
「毎回それでいいのかよ」
「何が?」
「何がって……」
及川はスマホをいじりながら肩をすくめる。
「向こうが好きって言うから、付き合うだけ。嫌になったら終わる。それだけでしょ?」
軽い。
あまりにも。
俺は思わず立ち止まる。
「お前、誰のことも好きじゃねぇだろ」
空気が、ほんの一瞬だけ止まった。
及川は笑う。
「ひどーい。俺、博愛主義なんだけど?」
違う。
こいつは誰にも本気にならないんじゃない。
――なれない。
小学生の頃、怪我して泣きそうになってた自分に、
及川は必死な顔で言った。
「岩ちゃんは俺が守るから」
あのときの目を、岩泉は忘れられない。
今の軽い笑顔とは違う、本気の目。
「……なぁ及川」
「ん?」
「もしさ」
言葉が、喉につかえる。
「お前が、本気で誰か好きになったら」
及川の歩幅がほんの少しだけ乱れる。
「どうすんだよ」
沈黙。
数秒。
やけに長い。
それから、いつもの声。
「どうもしないよ」
「は?」
「言わない。絶対」
俺は思わずは眉をひそめる。
「なんでだよ」
及川は空を見上げる。
夕焼けが、やけに赤い。
「だってさ、壊れたらやじゃん」
その言い方は、冗談じゃなかった。
胸がざわつく。
「好きって言って、離れられたら終わりでしょ?」
及川は笑う。
でも目が笑っていない。
「今みたいに隣にいられる保証、なくなるし」
言葉を失う。
それは、
“失いたくない相手がいる”って意味じゃないのか。
「……弱ぇな」
やっと絞り出した声。
「うん、弱いよ」
あっさり認める。
「だから俺は、来る者拒まず去る者追わずでちょうどいいの」
誰にも期待しない。
誰も追わない。
誰も引き止めない。
でも――
「岩ちゃんはさ」
及川がふと立ち止まる。
振り向いた顔は、少しだけ真剣だった。
「俺がいなくなったら、困る?」
心臓が跳ねる。
なんでそんなこと聞く。
「別に」
即答。
「困らねぇよ」
嘘。
及川は一瞬だけ目を細める。
「そっか」
その声は、どこか安心したようで。
どうせ岩ちゃんは気づかない。
俺がその夜、
ベッドの中で天井を見ながら呟いたことを。
『岩ちゃんが困らないなら、言わなくていいよね』
好きだなんて。
幼馴染のまま、隣にいられるなら。
告白して、壊れるくらいなら。
誰とでも付き合って、屑って思われてるほうがマシだ。
岩ちゃんは知らない。
俺が “唯一追わない人間”であることを。