テラーノベル
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“バタバタ…”
人通りの多い廊下で、さっそく女子生徒が盛大にプリントをぶちまけた。
内心ガッツポーズをしながらお得意のミステリアス(風)ヒーロー様を演じて近づく。
「大丈夫?」
スマートにプリントを集めて、渡すときはほんの少しだけ微笑む。
日頃の成果は今ここで発揮されている。
「あっ…ありがとうございます。」
目の前の女子生徒は頬を赤らめる。
やっと、宏斗の願いが叶いかけた____そう思った瞬間だった。
「プリント、こっちにまで飛んできてたけど」
周囲の空気が、一瞬で変わった。
真後ろから聞こえた、透き通るような甘い声。
風になびかれ、柑橘系のようないい香りが鼻を通る。
さっきまで騒がしかった廊下が、どこか浮ついたようにざわめく。
ふと、顔を上げると目の前の女子生徒は顔を真っ赤にして俯いていた。
「きっ如月くん…ありがとう…」
如月…?彼女の目線をたどり振り向くと、そこには言葉では表せないほどのイケメン…いや、ヒーロー様が立っていた。
「別に…飛んできただけだから」
少し目にかかる白銀の髪は、透き通るように美しかった。
鼻筋は高く、長いまつ毛が影を落とす。ピンク色の唇がわずかに動いた。
“イケメン”という言葉だけでは物足りないくらいの浮世離れした容姿だった。
____こんなん、勝ってっこないだろ。
“本物のヒーロー”を目の当たりにして、全身の活力が抜けた。
圧倒的な差を思い知らされ、自分が演じていたヒーローはただのお遊戯会レベルに過ぎなかった。
男女問わず視線を独り占めし、演じずとも“存在しているだけでヒーロー”となる。
「…っくそ」
下唇を噛みしめる。悔しい。
圧倒的すぎて、笑えてくる。
でも――
「お前からヒーローの座、奪ってやる!」
_____________
“一位 如月律”
「きゃぁぁ!如月くんまた学年一位だって!」
廊下に貼り出された学期末考査の結果を見て、宏斗は顎を震わせた。
一方、“102位 皐月宏斗”______
「くそっ!!」
ぐしゃぐしゃに丸めた答案用紙を床に投げつける。さすが少女漫画の世界…ヒーローキャラをここまでえこひいきにするとはな…。
だが、皐月宏斗にはまだ希望があった。
「如月くん」
ジャージのポケットに手を突っ込み、お得意の斜め45度に首を傾げる。
如月は、無関心そうに宏斗に視線を向けて面倒くさそうに顔を引きつらせた。
「次の体育、バスケだろ。俺と勝負しろよ」
希望とは、このことだった。運動神経には自信がある。
「いいけど」
如月は、前髪をかき上げ、まっすぐ宏斗を見た。
背景に飛び交う鬱陶しいオーラをイライラしながら振り払う。
しかも、そのポーズでそのセリフ、こいつしか許されないだろ!
「その鼻、へし折ってやるから」
決まった__!宏斗は、心の中でガッツポーズをしてその場を後にした。
_____________
“ピピーーーーッッ”
体育館に笛が鳴り響き試合が終わる。
「きゃあああああ!如月くーーーーーん♡♡」
そして、黄色い声援が飛び交った。女子たちも体育のはずなのに、男子の体育を見に来るなんてこちらの世界だったらありえないことだ。そして、なんといっても______
32対7
「俺の鼻、へし折るんじゃないの?」
“ボロ負けした”
それから、何度か如月律に勝負を持ちかけたものの、勝てないどころか勝てる希望さえ見えなかった。この世界に愛されたヒーロー“如月律”は、正真正銘のヒーロー様だと思い知らされる。
「ばっかみて…」
屋上でただ一人、乾いた笑いを漏らした。
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