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とめぃと
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ゆ あ ち ゃ !
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ぷりっつ視点
放課後の静かな教室。
夕日に染まる窓際で、目的もなくSNSを眺めていた。どうやら最近発売されたゲームが面白いと話題らしく、誰か誘って遊ぼうかと思ったものの、しばらく眺めているうちに飽きてしまった。
スマホを机の上に置き、頬杖をついて窓の外へ視線を向ける。夕陽が窓ガラスに反射して、きらきらと眩しい。
それにしても、あいつ遅いな……。
かれこれ数十分は待っている気がする。早く来ないかな、いっそ迎えに行こうか。そんなことを考えていた、そのときだった。
ガラッ。
教室のドアが、静寂を破るように開いた。
「失礼しま〜す」
そう言いながら、ズカズカと遠慮なく教室へ入ってきたのは、見慣れない男だった。ネクタイの色が俺とは違うところを見るに、おそらく上級生なのだろう。
男は教室をぐるりと見回すと、やがて俺のところで視線を止めた。そして、そのまま目が合う。
「……お。もしかして、ぷりちゃん?」
「え?」
なんだ、こいつ。
初対面……やんな?
いきなりあだ名呼び?ていうか、なんで名前知ってるんや?俺は知らんのに。
忘れているだけで、実は知り合いだったりするのだろうか。そんなことを考えながら、少し警戒するように男を見つめた。
「……だれ、ですか」
「あぁ、急にごめんな。けちゃおの兄で〜す」
「けちゃおの……?」
その言葉を聞いた瞬間、以前けちゃが兄の話をしていたことを思い出した。
なるほど。兄がいるとは聞いていたけど……。
それにしても、こんなにも似ていないとは。
けちゃは真面目というか、ヘタレというか、ポンコツというか。まぁ、そんな感じだ。それに対して、目の前の兄は見るからにチャラい雰囲気を纏っている。
兄弟って、こんなに似ないことあるんやな。
「まぜ太って呼んでよ」
「え……あ、はい。えっと、ぷりっつです」
「じゃ、ぷーのすけだな。けちゃお待ってるの?」
「はい。あいつ先生に呼ばれてて」
「敬語じゃなくていいって」
「……おん、わかった」
やっぱりチャラい!
名前を聞いてすぐあだ名をつけるし、敬語もいらないと言う。距離の詰め方がとにかく早い。初対面で、こんなにぐいぐい来る人、そうそうおらんやろ。
「ふは、素直じゃん」
「……え?」
何がおかしいのか、まぜ太は楽しそうに笑った。そして、そのまま「いい子だなぁ」とでも言うように、俺の頭へ手を伸ばす。
ぽん、と頭を撫でられた。
「っ、やめろよ」
慌ててその手を払いのけると、まぜ太は悪びれる様子もなく、むしろ面白そうに笑っている。
「わるいわるい。ぷーのすけ可愛いからさ」
「はぁ?別に可愛くないし」
「いーや、可愛いね」
にや、と口角を上げながら、まぜ太は俺の顔をじっと見る。
「けちゃおの彼女じゃなかったら、とっくに口説いてたくらい可愛い」
「……は?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
冗談なのか、それとも本気で言っているのか。判断する間もなく、まぜ太が楽しそうに顔を覗き込んでくる。
「え〜?顔赤くなぁい?満更でもない感じ?」
「……っ、ちげぇし」
反射的に頬へ手を当てる。けれど、自分でも顔が熱くなっているのが分かってしまって、余計に腹が立った。
「俺にはけちゃがいるし」
そう言って顔を逸らすと、まぜ太は少しの間黙り込んだ。
「ふーん」
それだけ言って、意味ありげに笑う。
……なんやねん、その顔。
何か言いたそうなくせに、それ以上は何も言わない。だからこそ余計に気になってしまって、なんとなく居心地が悪くなった俺は、逃げるように窓の外へ視線を向けた。
「あ!ぷりちゃーん!待たせてごめんね!」
そのとき、聞き慣れた声が教室に響いた。
振り返ると、そこにはけちゃが立っている。
「……って、まぜち!?なんでいるの!?」
「教室に残ってるの見つけたから。たまたまな」
「えぇ……?」
けちゃが困ったように眉を下げる。
その顔を見た途端、さっきまで感じていた妙な緊張が少しだけほどけた。気づけば、俺はけちゃの腕に抱きついていた。
「……帰ろ」
「わっ!」
突然のことに、けちゃが目を丸くする。
「え、ぷりちゃんがスキンシップを……!?」
「……なに。ダメなん?」
「いや、嬉しいよ!」
そう言って嬉しそうに笑うけちゃを見ていると、さっきまでのことがどうでもよくなってくる。やっぱり、俺にはこいつが一番落ち着く。
「俺も一緒に帰っていいー?」
そんな俺たちの間に、まぜ太がひょいと会話へ入ってきた。
「まぜちはだめ!」
けちゃが即答する。
なんとなくまぜ太に対して苦手意識があったし、さっきの会話のこともあって、俺も一緒に帰るのは気まずいと思っていた。だから、けちゃの言葉に思わずホッとしてしまう。
「僕たちデートするから!」
「ちぇ。まぁいいや」
まぜ太は肩をすくめる。
大げさな動作とは裏腹に、声はそこまで残念そうではなかった。むしろ、俺たちをからかって面白がっているように聞こえる。
「じゃ、あんま遅くなんなよ〜」
そう言って、まぜ太は俺たちの横を通り過ぎていく。
その瞬間、すれ違いざまに、ほんの少しだけ声を落とした。
「……ぷーのすけ、またね」
「……っ」
耳元に落ちた小さな声に、思わず振り返る。
けれど、まぜ太はもうこちらを見ていなかった。何事もなかったような顔で、そのまま教室の外へ歩いていく。
「あ!もう、まぜちぃ……!」
けちゃが呆れたように、その背中を見送った。
このたった数分の間で、けちゃが普段からまぜ太にいじられている理由が、なんとなく分かった気がする。
「ぷりちゃん、何もされてない!?何か言われた!?」
けちゃが心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
「え、あ……うん」
そう答えたものの、さっきの声が耳に残って離れない。
たった一言だったのに、なぜか胸の奥がざわついていた。
「大丈夫やから……」
そう言って、けちゃの手を取る。
勝手に言われただけだ。別にやましいことなんて何もない。なのに、どうしてか、けちゃには知られたくなかった。
「……はやくデートしよ」
「う、うん!」
嬉しそうに笑うけちゃの顔を見て、俺も小さく笑う。
そのまま教室を出ようとしたけれど、なぜか一度だけ、後ろを振り返った。
けど、そこにはもう誰もいなかった。
コメント
1件
うわ、この回すごく好きです……!初対面なのにすぐあだ名で呼んで距離詰めてくるまぜ太さん、チャラいのにどこか掴めない感じがすごく生々しくて。ぷりっつが「けちゃには知られたくない」って思う気持ち、すごくわかるなあ。あの耳元で「またね」ってひと言、めちゃくちゃ刺さりました。お兄さんの存在感が一気に増す回でしたね。次が気になります!