テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「莉奈!」
私の名前を呼ぶ声がかすかに聞こえる。必死に叫んで私の手を強く握りしめている。
なんだろ。すっごく嬉しい気分。
今、私の前に爽やかな太陽があるみたいで、自分の何もかもの感情を癒してくれているようだ。
パチリ、さっきまで眠っていたからか、目がしばしばしてよく見えない。
けど、私の手を誰かが握り締めて、私が目覚めたことを喜んでいるのは分かる。数秒後目がはっきり見えるようになって、私の手を握りしめていたのが蒼だということに気づいた。
…え?
蒼?
「莉奈…
目覚めた?」
うるうるとした目で見つめる蒼に、私はぐっとくらいながら、平気だよと答えた。
私、せっかく蒼と遊ぶ予定だったのに…
台無しにしちゃった。
目が覚めたあと、1番最初に考えたのはその事だった。
申し訳なさで胸がいっぱいになる。どうしてこういういい時に限って倒れたりするんだろう。蒼にも迷惑かけちゃったし…
今も心配そうに私を見つめる蒼を見ながら、私は胸を痛めた。
「蒼、今日、遊ぶ予定だったにごめんね。
私が体調崩したせいで」
窓から指す光がだんだんと無くなっていく。私と蒼しかいないこの部屋は、少しの暗さと沈黙で埋め尽くされた。
それを打ち壊すかのように、蒼は話し出す。
「莉奈、自分を責めないで。」
「莉奈が体調悪いことにすぐ気付けたら、莉奈が無理しなくて良かったのに…
ってすごいくらい考えたよ?」
私の手を握る手がかすかに震えている。それを感じ取りながら私は蒼の言葉を待つ。
蒼は、どうしてこんなに優しくしてくれるんだろう。
私のこと、心配してくれて、自分を責めないでって慰めてくれる。
そんなことをされる度に、私は…
「「好きになるなぁ…」」
え…
私、今声に出ちゃってた!?思いが溢れすぎて声に出てしまっていたらしい。
どんな反応をしているか気になって、蒼をちらっと見る。
引かれてたらどうしよう。もしそうなってたら私、きっと無理だ。
「り、莉奈…
その…俺は今日の遊びのことより、莉奈の体調が大事だよ。」
「だから、そんなに思い悩まなくていい。遊びはさ、今日はおうちで遊ぶことにすればいいよ。映画とか良くない?」
蒼は、耳を赤らめながら、話してくれる。
きっと聞こえてなかったんだ。良かった。
安堵の気持ちと同時に、
蒼の私の体調の方が大事という言葉にまた胸が掴まれる。
蒼は、どんな人にも平等に優しい。きっと、そんなところに私は強く惹かれているのだろう。
自分がこぼしてしまった”好き”という言葉を改めて噛み締める私は、
もうひとつの声が重なっていたことに気づいていない。いつかは知る、もうひとつの声の持ち主は今、溢れ出てしまった言葉に顔を赤らめているのだった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!