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空は、思っていたよりも静かだった。
風を切る音と、翼が空気を叩く重低音だけが、世界を満たしている。
「……落ちるなよ」
背中にしがみつく少女――リリスに声をかける。
「う、うん……!」
小さな手が、鱗の隙間にぎゅっと食い込む。
やっぱり軽すぎる。
「ちゃんと食ってるのか?」
「……あんまり」
「だろうな」
ため息が出る。
そのまま、遠くに見えていた城壁都市へと進路を向ける。
だが――
「待て」
違和感。
空気がざわつく。
いや、正確には“下”だ。
森の中を、何かが高速で移動している。
「追われてるな、お前」
「……!」
リリスの体が強張る。
「やっぱり……来た……」
その声には、諦めが混じっていた。
「誰だ」
「奴隷商人……私を、売ろうとしてる人たち……」
「はぁ?」
思わず声が低くなる。
「なんでお前が?」
「魔力……強いから……」
なるほど。
この世界らしい理由だ。
価値があるから奪う。
シンプルで、クソみたいな理屈。
「どこまで来てる?」
「わからない……でも……」
その瞬間だった。
――ヒュン!!
空気を裂く音。
反射的に体を捻る。
直後、さっきまでいた位置を“何か”が通り過ぎた。
「チッ……」
矢だ。
ただの矢じゃない。魔力が込められている。
「空にまで撃ってくるか」
下を見ると、森の中に複数の人影。
黒いローブ、武装した男たち。
そして――
「魔法使いか」
杖を構えた男が一人。
そいつが、こちらを見上げて笑った。
「見つけたぞ、商品」
「……気に食わねぇな」
俺の中で、何かが切れる音がした。
「一回降りるぞ」
「え!?」
「安心しろ。すぐ終わる」
翼を傾け、一気に高度を下げる。
風圧で木々がなぎ倒される。
ズドォン!!
地面に着地した瞬間、衝撃が広がる。
「ひっ……!」
商人たちが一斉に後ずさる。
だが、逃げない。
金が絡んでるからだろうな。
「その娘を返してもらおうか」
リーダーらしき男が言う。
声は震えているが、目は死んでいない。
「断る」
即答だった。
「その娘は商品だ。金を払って――」
「断るって言った」
一歩踏み出す。
それだけで、地面が割れる。
「……お前らさ」
低く、言う。
「“物”扱いすんの、好きだな」
空気が変わる。
殺気、ってやつだ。
自分でもわかるくらい濃い。
「なら試してみろよ」
口の奥に熱が溜まる。
「お前らが“消える側”の物になったら、どう思う?」
「――撃て!!」
魔法使いが叫ぶ。
同時に、光が放たれる。
火球、氷槍、雷撃。
複数の魔法が一斉に飛んでくる。
「遅い」
一言。
そして――
ゴォォォォォ!!
炎がすべてを飲み込んだ。
魔法ごと、空間ごと、焼き払う。
「なっ……」
男たちが絶句する。
当然だ。
格が違う。
「もう一回聞く」
ゆっくりと近づく。
「まだやるか?」
沈黙。
そして――
武器が、落ちた。
カラン、と乾いた音。
「……くそっ」
リーダーが歯を食いしばる。
「撤退だ……!」
男たちは一斉に逃げ出した。
「……」
追う気はなかった。
その代わり、背中の少女に言う。
「終わりだ」
「……うん」
震えながらも、しっかりとした声だった。
「もう、大丈夫だ」
その言葉は、自分に言っている気もした。