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白山小梅
12
#借金
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* * * *
水着とタオルを袋に入れて持ち、服も脱ぎ着しやすいようにTシャツワンピースにした。
突然だったし、今日は泳ぐためのメイクではない。このままだと出る頃にはすっぴんになっているだろう。でも瑠維を待たせるわけにもいかず、そのままで行くことにした。
瑠維は先ほどの服装のまま、手にはタオルと水着らしきものが握られている。出かける時にコンタクトだったからか、今もメガネは着けていなかった。
部屋を出た二人がエレベーターに乗ると、瑠維は慣れた手つきで最上階のボタンを押す。
「よく行くの?」
「プールですか? そうですね、時間がある時は。普段はジムで済ませることの方が多いですが」
「ふーん……」
エレベーターが最上階に到着し、瑠維の後ろについて歩いていくと、プールの入り口に到着する。
「女性の更衣室はそちらですので」
「うん、じゃあ後でね」
履いてきた靴をロッカーに入れて更衣室の中に入る。中では泳ぎ終えたらしき女性が着替えをしていたが、その人以外は誰もいなかった。
一番端のロッカーを開け、持っていた荷物を入れて着替えを始める。黒のギンガムチェックのワンピースタイプ。ちょっと可愛すぎるだろうか。年甲斐もなくと思われるか不安になった。
椿が水着になるのを嫌がるため、昨年仕事の同期たちと一緒行ったナイトプールで着たのが最後だった。
そのナイトプールはSNSをやっていない春香にとってはただの付き合いで、映えを狙って写真ばかり撮る姿に少し疲れたりした。
何も考えずに泳ぐか、水に浮いているのが気持ちいいのになぁーーとは言えずに、笑顔で写真に写っていた。
だから瑠維のマンションにプールがあると聞いた時は羨ましいと思ったのだ。でも春香の給料ではこんなマンションに住むことは到底無理で、近所のスポーツセンターくらいがちょうど良かった。
どんなプールだろうーーウキウキしながら更衣室を出た春香は、思わず感嘆の声を漏らす。
一面ガラス張りの窓に面した二十五メートルプールは、光が映り込み幻想的に揺れていた。窓からは夜空が見え、夜景が美しく輝いている。
「春香さん」
思わず見惚れていると、壁に寄りかかって春香を待っていたらしい瑠維に声をかけられた。
「あぁ、お待たせしてごめんね。というか、すごく素敵な景色」
「女性は夜景が好きですよね」
「綺麗なものには目がないのよ」
笑いながら瑠維の方を向いた春香はドキッとした。水着姿の瑠維は思っていた以上に筋肉質で、しかも競泳用のピッタリとした水着を着用している。
こんなに筋肉質で良い体つきだっただなんて! 目のやり場に困り、思わず両手で顔を覆ってしまった。
「泳ぎますか? 今なら誰もいないので、自由に泳げますよ」
瑠維に言われてプールを見渡すと、確かに誰もいなかった。誰かがいると思って来たのに、やはり二人きりになってしまう。
「瑠維くんってガッツリ泳ぐ感じ?」
「そうですね、まとめて泳いで帰ることが多いです」
「なるほど。私は結構のんびり泳いだりするタイプだから、瑠維くんは好きに泳いできていいよ」
「……わかりました。でも部屋に帰りたくなったら言ってくださいね」
そう言い残すと、瑠維はプールに入って泳ぎ始める。プールの縁に腰をかけ、そんな瑠維の姿をぼんやりと眺めていた。
引き締まった体、力強い泳ぎーー男性らしい一面を目にして、心臓が早鐘のように打ち始める。体の奥が火照り、胸が苦しくなる感覚。
さっき彼の小説を読んだから、どこか気持ちが高揚している。頭を冷やそうとして、春香は水の中に飛び込んだ。
こんな気持ちになるのは正直初めてのことだった。博之を好きだったのは高校生の時。もちろん抱いていたのはプラトニックな恋心のみで、ただ恋人同士になりたいと心から願っていた。
しかし今回は始めからおかしい。瑠維を意識し始めてからずっと、体の奥がキュンとする。
どうしよう……これじゃあただの欲求不満みたいじゃない。
水から顔を出した春香は、ゆっくりとプールサイドへ上がると、縁に腰を下ろして瑠維の泳ぎをぼんやりと眺める。星空をバックにクロールで泳ぐ姿は、どこか幻想的にも見えた。
恋は盲目とはよく言ったものだわ。こんなに素敵な人がそばにいたのに、私の目にはヒロくんしか映っていなかったんだから。
プールの壁にタッチをした瑠維は、一度泳ぐのをやめて水面から顔を出すと、春香の姿を確認するように振り返る。
春香は自分の居場所を伝えるように小さく手を振ると、瑠維は再び潜って、水中を移動しながら春香の元へとやって来た。
「お疲れ様」
瑠維は濡れた髪を掻き上げながら、プールの縁に座る春香の前に立つ。
「瑠維くん、本当に無心になって泳ぐんだね。息とか苦しくないの?」
「いえ、全く。春香さんは泳げましたか」
「うん、少しだけ。でも夜景とか瑠維くんの泳ぎっぷりとか、すごく素敵で見入っちゃった」
すると瑠維は春香の瞳を真っ直ぐに見つめてくる。ドキッとした春香は急に恥ずかしくなって、瑠維の目を直視出来ずに俯いてしまった。