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白山小梅
12
#借金
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「本、読まれたんですよね」
春香はその言葉を聞いて硬直し、それから困ったように視線をぐるぐる移動させる。足で上手く隠したつもりだったが、やっぱり見られていたようだ。
「鮎川さんですか……」
どう答えようか悩んだが、隠すのもおかしい気がして、そのまま素直に答えることにした。
「私、瑠維くんが作家だって知らなくて……それで教えてくれたの。新人賞を受賞した作品はかなり話題になったって聞いて……鮎川さんが私に読んで欲しいって言ったから、気になってすぐに買いに行っちゃった」
春香が話している途中から、瑠維の手がゆっくりと腰に回され、恥ずかしくてパンクしそうになる。
「読んでみてどうでしたか?」
「……すごく切なかった……」
その時、プールのドアが開く音がした。誰か来たのかもしれないーーそう思った瞬間、瑠維に腰を引っ張られ、春香の体は水の中に引き摺り込まれてしまう。
バランスを崩し、呼吸をするのを忘れた春香は瑠維の首に抱きついた。しかし落ちた時に彼の膝が足の間に差し込まれ、跨るような態勢になる。
思ったよりも安定していたが、股の間に瑠維の足を感じ、春香の体は強張った。
驚いて声をあげそうになったが、瑠維が人差し指を立てて制したため、唇をキュッと結んだ。
「あったかー?」
プールの外から男性の声が響いたかと思うと、
「あ、あったー!」
と、女性の声が続く。
先ほど更衣室で会った女性だろうか。どうやら何か忘れ物をして取りに戻ったらしい。少しずつ男女の声が遠退き、やがて聞こえなくなった。
瑠維がホッとしたように人差し指を離すと、二人の視線が絡み合う。
瑠維の腕に包まれ、足の間に彼を感じ、体中が熱くなって心臓が大きく鳴り続いている。
「び、びっくりしたよ! 急にどうしたの?」
なんとか平静を保ちながら笑顔を作るが、瑠維は春香の肩に額を付けるように俯いた。
「僕の勝手な嫉妬です……」
「……嫉妬?」
「春香さんの水着姿を誰にも見られたくなかったから……」
ふと見てみれば、瑠維の耳が真っ赤になっているのがわかる。それにつられて春香の顔も真っ赤になっていく。
もしかしてーーそう心に抱いていた憶測が、ゆっくりと確信へと変わっていくのを感じた。
春香は瑠維の髪をそっと撫でながら口を開く。
「あの……それって、その、もしかして……瑠維くんは私のことが好きだったりする……?」
|躊躇《ためら》いがちに顔を上げた瑠維は、潤んだ瞳でじっと春香を見つめる。
「本、読まれたんですよね。それなら僕の気持ちは伝わったと思いますが」
「で、でも……ずっと会っていなかったしーー」
信じられないけど、信じたい気持ちが入り混じり、嬉しさで心が溶けそうになった。
「言ったはずです。僕は好きになるのに時間がかかるって。春香さんを好きだと自覚した後、誰と会ってもあなたと比べてしまうし、あなたよりも素敵だと思える人に出会えなかった」
瑠維の手が春香の頬に触れる。冷たい水のなかにいるのに、指先はジンジンするほど熱かった。
「そんな……私はそこまでの人間じゃないよ」
「そういうことじゃないんです。僕の心がずっと春香さんだけを欲していた……だからどんなに辛い時も耐えられた。春香さんを思うだけで自我を保てたし、強くなれたんです」
春香の中で、またしても気になるワードがうまれた。"自我を保てた"? それは一体どういう意味だろう。彼のこれまでの人生の中で、自我を保てなくなるほどの何かが起きていたのだろうか。
春香の心に疑念が湧き始めたのも束の間、瑠維の指が春香の唇に触れると、緊張してそれ以上何も考えられなくなる。
「好きです。春香さんのことだけがずっと好きなんです」
その言葉を聞いただけで、春香の目からは涙が溢れ、腰が砕けたようにふらつき、瑠維の肩に手をついていないと倒れてしまいそうになる。
好きな人に『好き』と言ってもらえるのは、こんなにも嬉しくて幸せなことだったのだと初めて知った。
「私も……」
自然と言葉が紡がれる。
「私も瑠維くんが好き……」
瑠維は驚いたように目を見開く。
「えっ……す、好き……?」
「うん、再会してからずっと瑠維くんが私を守ってくれて……気付いたら好きになってたの」
その言葉を聞いた瑠維が今までにないほど嬉しそうに微笑んだので、春香の心臓は早鐘にように打ち始める。
「春香さん、キスしてもいいですか?」
返事の代わりに、春香から瑠維にそっとキスをする。それが合図となって、瑠維は何度も何度も春香の唇に優しいキスを降らせた。
春香が瑠維の首に手を回して引き寄せると、彼のキスは激しさを増していく。お互いの唇を貪るようにキスをし、春香の中へと入ってくる瑠維の舌を受け入れるように絡め合う。
思わず抱きついたまま瑠維を勢いのまま押し倒してしまい、二人の体が水中に沈んでも、離れることは出来なかった。
「春香さん……春香さんが欲しいです……」
呼吸のために唇が離れるほんの一瞬に、瑠維は感情を吐露する。それすら春香の興奮を更に掻き立てていく。
春香は息を切らしながら、足の間に感じる彼のモノが、はち切れんばかりになっていることに気付いた。春香がそっと触れると、手の中で大きく脈打っていた。
私が彼を興奮させてるの? そう思うと体の芯が熱くなり、春香は唾をゴクリと飲み込む。
私も瑠維くんが欲しい、私の中で彼を感じたいーー自分の中にこんな感情があるなんて初めて知った。
「私も……早く瑠維くんを感じたい……」
その瞬間、瑠維は春香の体を抱き上げるとプールの縁に座らせ、自分も勢い良くプールから上がった。
「着替えて来てください。早く部屋に戻りましょう」
彼の濡れた筋肉質な上半身に見惚れていた春香は、その力強い腕に引かれて立ち上がると、更衣室に急いだ。