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可愛いな、たいよう(笑)
その様子にただならぬものを感じた大葉が羽理を宥めながら、「だって……、なんだよ? 言ってくれなきゃ分かんねぇだろ?」と先を促したら、「杏子さんが……。彼女もあの辺りに住んでいらっしゃるって聞いたから……」とか。
確かに倍相岳斗から、美住杏子とは居間猫神社で出会ったと聞かされたなと思って……。それがこのことと何の関係があるんだろう? と考えた大葉は、ややしてハッとする。
「大葉は優しい人です。杏子さんと出会ってしまったらきっと……フン! なんて出来ないはずです。私は大葉のそういうところが大好きですけど……それでもやっぱりイヤなんです。だって杏子さんは大葉のことが好きだから」
今、羽理が言ったばかりのことに思い至りはしたものの、(そんなん俺の自惚れだよな)と思い直そうとしたばかりだった大葉だ。
それをハッキリと羽理自身の口から〝ヤキモチ〟だと示唆された形になって、大葉は不謹慎だと思いながらも嬉しくてたまらなくなる。
「羽理! 指輪、買いに行くぞ!」
泣きそうな顔をした羽理の手をギュウッと握ると、大葉はすっくと立ち上ってキョトンとした顔で自分を見上げる羽理を半ば無理矢理立ち上がらせた。
「あのっ。でも大葉! ……指輪ならもう」
羽理が躊躇うように、恵介伯父の自宅へ呼ばれるより前。建売のいい庭付き一戸建てはないかと不動産屋めぐりをしていた時に、二人は気に入った婚約指輪と結婚指輪をすでに発注済みだった。
だが、羽理が好きな猫のシルエットや肉球をふんだんにデザインへ取り入れたそれらの指輪は、仕上がりまでに、あと数週間は優にかかる。
「前々から思ってたんだがな、それが出来るまでの期間、俺はお前をフリーだなんて思わせたくねぇんだよ!」
「へ?」
「俺もお前だけのモンだって目印を付けてぇ。買ったら即刻その場でして帰れるペアリング、今から見に行くぞ! 家と一緒で発注してんのが出来るまでの仮措置だ!」
「あの、でも……大葉」
「ちゃんとしたのが届いたらトレードすりゃいいだけの話だろ。つべこべ言うな」
なおもモニャモニャ言い募る羽理を強引に従えて、大葉はマンションを飛び出した。
***
「――ってことがあったの」
羽理と大葉の左手薬指に光る、〝結婚指輪ですか?〟というシンプルなペアリングを目ざとく見つけた法忍仁子から、「ちょっと羽理! それ、部長とお揃いだよね? 詳しく聞かせなさい!」とニヤニヤしながら言われて、羽理は観念して昨日あった出来事を語った。
いきなり、ちゃんとした指輪たちが出来るまでの間を繋ぐ、仮初のペアリングを買いに行くぞと騒ぎ始めた大葉に、仮ならシルバーでいいと言い張った羽理だったのだけれど。「そんな安っぽいのじゃ信憑性に欠けるだろーが!」と大葉がごねて、プラチナにすると主張した。
それを何とかお互いに歩み寄る形で24Kゴールド(18Kと24Kでまた揉めて、結局羽理が折れた)にしたのだが、それにしたってペアで十万円以上近くしたのを思うと、とても仮のものだと思えなくて羽理はとっても困っている。