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「ジェフェリーさんの事は明日の朝レオン様に報告致します。ルーイ先生にも同席して頂きますので、御足労おかけしますがよろしくお願いします」
「大人しく聞いてくれると良いけどなぁ」
「先生がいらっしゃるなら大丈夫ですよ」
「クレハ達にもレオンのストッパーになってやるって息巻いちゃったからさ……頑張ってみる。でも、もしもの時はセディが止めてよ」
ニュアージュの魔法使いに与えられているサークスと呼ばれる魔法の源。それはシエルレクト神の体の一部のような物で、その全てが本体である神と繋がっている。ダメもとでシエルレクト神から魔法使い達の情報を得ることはできないのだろうか。
「ところで、先生。シエルレクト神により力を得ている魔法使いは30人程度だとお聞きしました。シエルレクト神からその者達の身元を教えて頂くことは可能なのでしょうか?」
これは先生が我々のもとにいらっしゃるからこそできる発想だ。三神の上に立つ存在である先生が尋ねれば、シエルレクト神も答えてくれるのではないかという期待。完全に先生頼みの都合の良い話だが果たして……
「それがねぇ……あいつ、契約した人間の顔とか名前覚えてないらしいよ。見返りさえ貰えれば良いってスタンスみたい。契約者がどんな奴とかはどうでもよさそうね。多分、味で選んでるぞあれは」
「味……」
シエルレクト神がどんな基準で契約を結ぶ人間を選出しているか気になってはいたけど……。そりゃそうか。どうせ食うならより美味いものが良いに決まっている。契約できる人数が限られているのならば尚更。具体的に考えるのはやめよう。気分が悪くなる。シエルレクト神から情報を引き出すのはあまり期待できそうにないな。
「例え把握していたとしても教えてくれたかどうかは微妙だけどね。シエル偏屈だし」
「いえ、もしかしたらと思ったぐらいの事ですので。すみません……気になさらないで下さい」
出来る範囲で手を貸してやると先生はおっしゃってくれた。彼は今でも充分我々のために尽力して下さっている。無理を言って困らせてはいけないな。
「では、レオン様の所へ行くのは8時くらいでよろしいでしょうか?」
「うん、俺はいつでもいいよ。そっちに任せる」
「もう午前0時を回ってしまいましたね。私達もそろそろ休みましょう。先生、改めてありがとうございました」
「こっちも夜分に悪かったね。セディに話聞いて貰えて良かった」
「…………」
「…………」
さり気なくお帰り頂くよう誘導しているのだが、伝わっていないな。用事はもう済んだだろう……はっきり言わないと分かってくれないのか。会話が途切れると一気に不安な気持ちが押し寄せてくる。そんな俺の内心など知るかとばかりに、先生が部屋を出て行く気配は全く無い。それどころか、俺に向ける視線がとろりと熱を帯びたものに変わっていく。
「あの、先生……まだ何か? もう遅いですし、お休みになられた方が良いですよ。リオラドまでお送りします」
この妙な空気の中、ふたりきりで部屋にいる事に耐えられない。早々に逃げを打つことを選ぶ。しかし、ソファから立ち上がろうと腰を浮かせた瞬間、腕を強く引かれて阻まれてしまう。勘弁してくれ……
「先生、手を離してください」
「ねぇ……セディ」
「何ですか」
「一緒に寝ようよ」
「……先生は寝ぼけていらっしゃるようですね。お帰りはどうぞあちらです」
扉の方へ手を向けてやると、彼は不満気に頬を膨らませる。子供みたいな真似をする。要求している内容もそのまま受け取れば子供が言いそうなことではあるが、無邪気さは微塵も感じない。
「俺、セディの部屋にお泊まりしたいなぁ。何もしないよ。側にいたいだけ。それでもダメ?」
「ダメです。私は明日に備えてしっかりと睡眠を取りたいのです。先生と一緒では気が休まりません」
きっぱりお断りしてやった。情に流されて相手の言いなりになどならない。一線は死守してやる。
「どうしても?」
「どうしてもです!!」
「あーあ、分かったよ。同衾はまだ無理か……あわよくばと思ったんだけどなぁ」
台詞がいちいち不穏過ぎる。何もしないと言っておきながら油断も隙もないな。しかもなんでそっちが折れてやったみたいな空気出してるんだ。俺は当たり前の主張しかしてないぞ。
「一緒に寝るのはまた今度にしようね。次は前もってちゃんと連絡するからさ」
「事前連絡すりゃいいってわけじゃないんですけどっ……!!」
「それじゃ、明日ね。おやすみ」
腕を掴んでいた手がするりと離され、先生はソファから立ち上がった。見送りは結構だと、扉の方へ向かって歩いていく。俺はそんな先生の後を追いかけた。挨拶くらいはちゃんとさせて欲しい。
「あの、先生!!」
扉が半分ほど開かれ、退室する寸前だった彼を呼び止めた。追ってきた俺を見て目をぱちくりとさせている。
「おやすみなさい。気を付けてお帰り下さい」
先生は虚を突かれたような表情を浮かべていた。無言のまま立ちすくんでいる。そんな彼に対して、今度は一体なんなんだと訝しむ。
「……セディ、眼鏡のここ……汚れてるよ」
「えっ? ああ……すみません」
レンズに付着していた汚れが気になっていたのか。先生は俺の顔に手を伸ばすと眼鏡を奪い取った。拭いてくれるのだろうかと、呑気なことを考えていたこの時の自分を張り倒したい。
奪われた眼鏡は俺の頭よりも高い位置に掲げられた。ぼんやりと見える目でその軌道を追いかける。意識がそちらに逸らされている間に、眼鏡を持っているのとは反対側の先生の手が俺の腰に回された。引き寄せられる体……視界が黒い影で覆われる。再び唇に感じた感触は昼間と同じ。柔らかくて少し冷たかった。
2度あることは3度ある。1回やってしまえば2回も3回も同じ……なんて割り切れるわけがない。俺はたった1日で、先生と3回も口付けを交わしてしまったのだった。
「やめっ……て……くだ、さいっ!!」
ぴったりと重なり合う唇をずらして声を上げた。そのまま体を捩って先生から離れる。眼鏡を取り返すのも忘れない。
「なんかちょっとムカついたから……」
「はぁ?」
隙だらけだった俺をからかうわけでもなく、先生は怒っているのか拗ねているのか……よく分からない顔をしていた。予想外の反応をされてしまい、抗議しようとしていた口は言葉を飲み込んでしまう。
「じゃあ、今度こそおやすみ」
先生はさっさと俺の部屋から立ち去ってしまう。呆気に取られてしまった俺は、そんな彼の背中をただ見つめることしか出来なかった。意味が分からん。ムカついたってなんだよ……
「好き放題されて怒っているのはこっちなんだが……」
まだはっきりと先生の唇の感触が残っている。見てくれはヒトと同じでもやはり神。あの方の思考を俺が理解するのは難しいようだ。