テラーノベル
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音々は健一の家でウサギの小雪と遊んでいた、縁側で新聞紙を広げたその前で正座し、音々はピーラーを手に細くニンジンの皮を剥いている
薄く透き通ったオレンジ色の皮が、まるでリボンのようにくるくると落ちていく、小雪は小さな前歯を器用に動かし、その細いニンジンの皮を一本ずつ、シュレッターの様に口の中に吸い込んでいく
「ニンジン美味しい~?小雪ちゃぁ~ん」
音々の手が止まるたび、小雪の赤い瞳がじっと見つめ、もっと欲しいとせがむように鼻をひくひくさせる、小雪が満足そうに食べる姿に音々の笑顔も輝いた
たっぷりニンジンを食べさせた後、音々は両手で小雪を抱き上げ、ふわっとした毛の感触を楽しみながらゲージに戻した
「少しお昼寝しなさい、小雪ちゃん♪」
入口をそっと閉めると、音々は立ち上がり縁側から庭を覗いた
「おじいちゃーん、ここにあった音々のギター知らな~い?」
庭では健一が麦わら帽子をかぶり、トマトの苗に水をやっている。シャワー口から噴き出す水が陽光にきらめき、小さな虹を空中に描いていた
「昨日、たしか力の家で見たよ~~?」
健一の声はのんびりと響く、音々は目を輝かせ玄関でサンダルを履きながら叫んだ
「パパのおうちに行ってくるー!」
「大丈夫かい? おじいちゃんも着いて行こうか?」
健一が振り返るが、音々はキッズスマホを首から揺らしながら元気よく手を振った
「だいじょうぶーーー!」
「帽子を被って行きなさい」
「はーーーーい」
音々は軽快な足取りでスキップする、健一の家から力の豪邸までは子供の足でも10分ほどだ、健一は微笑みながら、トマトに水をかける作業に戻った
庭は静かでただ水の音と鳥のさえずりだけが響いていた
力の豪邸に着いた音々は、カードキーを差し込んで、玄関のドアを勢いよく開けた
ガチャッ「パパ―――!」
サンダルを脱ぎ、電子キーを下駄箱に放り投げる、だが、メンバーのおかげで騒々しい合宿所のようなこの家は、いつも誰かの笑い声やテレビの音が響いているのに
今はこの大きな屋敷は、まるで時間が止まったように静まり返っていた、音々の小さな足音だけが、広い廊下にペタペタと響く
「誰もいないの――? 拓哉くぅ――ん、誠く――ん、ジフ――ン!」
キッチンを覗き、各自の部屋になっている7つの洋室を次々に開けてみるが、人影はどこにもない、音々の声がむなしく反響するだけだ、リビングに足を踏み入れると、ソファーの上に無造作に置かれたギターが目に入った
「あっ! あった、音々のギター!」
音々は駆け寄りギターを握りしめた、弦の冷たい感触が手に伝わりウキウキした、今日はどんなメロディーを奏でようか
カタン・・・
その時、地下室の方からかすかな音がした
「?」
音々の動きがピタリと止まる、耳を澄ますと静寂の中でまた何か硬いものがぶつかるような音が聞こえた
コトン・・・
「?・・・ みんな地下室にいるの?」
音々は首をかしげ、好奇心に駆られて地下室へ続く階段の方へ向かった、ペタペタと軽い足音が大理石の床に響く
地下室への階段は薄暗く・・・ひんやりとした空気が肌を刺した
音々の足音がコンクリートの階段を踏む度、ヒタヒタと小さな足音が響く
「あれ~~~おかしいなぁ~~?さっき何か音がしたのに」
音々は少し不安げに呟きながらさらに下へ進んだ、地下室のスタジオのドアの前は真っ暗闇で、もうここには陽の光が射さない
電気のスイッチはそこにあるはずだ、音々は小さな手を伸ばし、スイッチを探した
その瞬間―
―ガタンッ!
背後で鋭い音が響いた、音々の心臓がドクンと跳ねる、 振り返る間もなく、突然背後から強い力が音々を捕らえた
ガバッ!
「んんっっ?!」
音々の小さな口が、誰かの大きな手に塞がれた、もう一方の手が彼女の体を羽交い絞めにし、手に持っていたギターが床に落ちる音が響いた
そしてくぐもった音々の恐怖の甲高い声は
誰にも届かず闇に呑み込まれた
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